( 157496 )  2024/04/08 14:52:32  
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政治資金パーティーに関する問題は、神戸学院大学の上脇博之教授が政治団体の収支報告書を調査し、不正を発見したことで発端となった。

この事件で、AIがデータ分析に活用される可能性があると指摘されている。

また、米国では政治家のインサイダー取引をAIが検出する取り組みも進んでいる。

神戸学院大学の上脇博之教授の情熱によって、自民党の政治資金パーティーでの不正が明るみに出たが、データ分析には大きな労力が必要であり、AIの活用が求められている。

また、米国では政治家のインサイダー取引を追及するAI技術も進化しており、これからの汚職摘発にAIが活躍する可能性もある。

(要約)

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政治資金パーティーや裏金問題について説明する岸田首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ) 

 

 自民党の政治資金パーティーを巡る事件の発端は、神戸学院大学の上脇博之教授が政治団体の収支報告書をしらみつぶしにチェックし、不正に気付いたことだった。 

 今回の事件は上脇教授の力業で発覚したが、膨大なデータの分析は本来はAIの得意技である。現に、米国では政治家のインサイダー取引を見抜くAIも登場している。 

 AIが扱えるデジタルデータになっていることが前提だが、これからの汚職摘発ではAIが主役になるかもしれない。 

 (小林 啓倫:経営コンサルタント) 

 

【この人】インサイダーの疑惑が浮上したデビッド・パーデュー元議員。ファウチ博士の比公開のブリーフィングの後、ファイザーの株式を買っていた 

 

■ 続く政治家のスキャンダル 

 

 一連の議員の処分が発表されたものの、世論からの批判が収束する気配を見せない、自民党の政治資金パーティーを巡る事件。そもそもこの一件が発覚したのは、神戸学院大学の上脇博之教授が政治団体の収支報告書をしらみつぶしにチェックして、不正に気付いたことがきっかけだった。 

 

 上脇教授は毎日放送のインタビュー記事において、収支報告書の記載内容を「もう全部、一つ一つをチェックした」と述べ、その作業について「もう正直言ってね、心が折れそう、本当に心が折れそうでしたね」と感想を述べている。 

 

 その熱意によって、自民党の5つの派閥が政治資金パーティーから得られた多額の収入を収支報告書に記載していなかったことが明らかになり、上脇教授が告発状を提出。その結果、自民党が幹部4人含む39人を処分(人数は2024年4月4日時点)するまでに至ったのは、皆さんご存知の通りだ。 

 

 膨大なデータから、隠されていた真実を明らかにする――。それは昔から、さまざまな権力の腐敗を暴く手段として有効なものの一つだった。 

 

 たとえば、2016年に起きたパナマ文書事件では、パナマの法律事務所から漏洩した、実に2.6テラバイトにも達した膨大な文書データ(これが「パナマ文書」と呼ばれた)を世界中のジャーナリストたちが協力して分析。その結果、世界各国の政治家や富裕層が税金逃れのための資産隠しを行っていた実態が明らかになり、多くの逮捕者が出ることとなった。 

 

 しかし、ジャーナリズムや研究機関の低迷が問題となる中、そうした手間のかかる調査活動を行うのが難しい状況となっている。分析が必ず成功するわけではなく、また権力者を相手にするということは、時に大きなリスクにさらされる(パナマ文書事件では爆弾で殺害されたジャーナリストもいる<参考記事>)。 

 

 一方で、社会全体のデジタル化が進んだことにより、分析に使えるデータ量は増加している。それは上脇教授のような「しらみつぶし」型の調査にとって福音であると同時に、より大きな労力が必要になるという点で、頭の痛い問題と言えるだろう。 

 

 ならば面倒なデータ分析は、機械、特にAIに任せてしまえばいいのではないか。そんな発想から、さまざまな取り組みが始まっている。その中でも、興味深い研究がカリフォルニア大学バークレー校の研究者らから発表された。彼らが開発したのは、その名も「PoliWatch」というAIだ。 

 

 

■ 政治家のインサイダー取引を追及するAI 

 

 このAIが分析対象としているのは、米国の政治家、特に連邦議会議員たちが行っている(かもしれない)インサイダー取引である。 

 

 インサイダー取引(内部者取引)について、日本取引所グループは「上場会社の関係者等が、その職務や地位により知り得た、投資者の投資判断に重大な影響を与える未公表の会社情報を利用して、自社株等を売買することで、自己の利益を図ろうとするものです」と定義している。 

 

 「その職務や地位により」未公表の重要情報を入手できるのは、企業の関係者だけではない。政治家も、その職務や地位からさまざまな情報を入手し、それを株取引に役立てることができる。 

 

 たとえば、米フォーブス誌は、ダートマス大学の研究チームが行った興味深い分析を紹介している。 

 

 2020年1月24日、アンソニー・ファウチ博士(米国の感染症研究の第一人者で、後に新型コロナ対策にも大きく貢献することになる)らが米上院保健委員会において、COVID-19のリスクについて非公開のブリーフィングを行った。 

 

 この時期は、「謎の感染症」が流行しつつあるのが認識され始めた一方で、ロックダウンなど経済に大きなダメージを与えることになる政策が取られるなど、ほとんど予想されていなかった。 

 

 そのような状況で、感染症研究の権威がCOVID-19の危険性について情報を提供したわけである。 

 

 【関連記事】 

◎米国の政治家たちはインサイダー情報で儲けているのか? (Forbes Japan) 

 

 後知恵と言われてしまうかもしれないが、少し想像力を働かせれば、「これは多くの企業の株価が下落するだろう」と予想できる。ならば手持ちの関連株を売ってしまえ、あるいは逆にパンデミックで株価を上昇させる企業(製薬会社など)の株を買っておけ、ということになる。つまりはインサイダー取引だ。 

 

 そんなふうに考え、実際に行動した議員がいるのではないか──。そこでダートマス大学の研究チームは、政治家たちによる株取引データを分析してみた。彼らがインサイダー情報によって儲けているなら、その痕跡が表れるだろうというわけだ。 

 

 

■ 政治家たちの株取引パフォーマンスはいかに?  

 

 その結果、米国の政治家たちの取引実績は、全体としてS&P500を下回る傾向にあることが明らかになった。 

 

 S&P500とは米国の代表的な株価指数で、日経平均のようなもの。つまりそのパフォーマンスを下回っているということは、政治家たちの取引は、平均的な取引の成績を下回っているということになる。 

 

 つまり、政治家たちは(少なくともCOVID-19を巡る一件に関しては)インサイダー取引を行っていないというふうに捉えることもできるが、実際のところはどうなのだろうか。 

 

 実は、米国の政治家たちは、2012年成立したSTOCK法(Stop Trading on Congressional Knowledge Act、直訳すれば「議会で得られた知識に基づく取引を禁止する法」)によって、こうしたインサイダー取引が禁じられている。 

 

 また同法により、重要株式取引を行った場合、その記録を取引から45日以内に開示することが義務付けられている。 

 

 この法律が議員の行動をけん制している可能性があり、実際に2012年前と後の政治家による株式取引のパフォーマンスを比較した調査では、同法の成立前の方が「リスク調整後の年間ベースで約10%上回っていた」という結果が出ていることを、前述の記事は取り上げている。 

 

 つまり米国の議員たちは聖人君子などではなく、議員活動を通じて得られた知識を基に、インサイダー取引を行う機会を狙っている可能性があると言える。そう考えると、政治家の取引全体ではなく、個々の議員や取引について、より深い分析をする必要がある。 

 

 そこで話を戻し、PoliWatchについて見ていこう。 

 

■ 非公開のコロナブリーフィングの後にファイザー株を買った議員 

 

 開発した研究者らの説明によれば、これは議員によるインサイダー取引をいち早くキャッチするためのツールで、公開されている各種の関連書類、公聴会のスケジュール、委員会の割り当て、視察旅行、プレスリリースなどのデータを基に分析を行う。 

 

 研究途中であり、誤った結果が出ることも懸念されるため、一般には公開されていないが、概要を解説した以下のPDFの中で、スクリーンショットが公開されている。 

 

 この画面には、デビッド・パーデューという上院議員が行った株式取引の情報に加えて、その議員が所属している(いた)委員会や参加した公聴会の情報なども表示されている。 

 

 たとえば、前述のファウチ博士らによるブリーフィングに参加した後で、ワクチン開発を行っている企業の株式を大量に購入するなどしていれば、インサイダー取引の疑惑ありというわけだ。 

 

 実際に、このPoliWatchの分析により、疑わしい取引を行った議員が複数人見つかったと研究者らは報告している。 

 

 たとえば、このスクリーンショットにも載っているパーデュー上院議員(2022年のジョージア州知事選に出馬して落選し、現在は議員ではなくなっている)は、問題のブリーフィングに参加した後、2020年3月3日にファイザー株を15万ドル相当購入し、さらにデュポン株も10万ドル相当購入している。 

 

 いずれもCOVID-19関連の製薬により、株価の伸びが期待できた株だ。 

 

 一方で彼は、 シーザーズ・エンターテインメント株を5万ドル相当売却している。シーザーズとは、米国でカジノ事業を展開する大手企業。パンデミックによって行動制限が行われれば、売り上げに大きな打撃をくらう企業であることは簡単に想像できる。明らかにインサイダー取引が疑われる行動だ。 

 

 

■ AIが疑惑を洗い出すだけでも大きな成果 

 

 実は、このCOVID-19関連のインサイダー疑惑に関しては、「2020年議会インサイダー取引スキャンダル」として、米国内で司法省による調査が行われるまでに至っている。 

 

 先ほどのパーデュー議員も調査対象となった議員の一人で、彼のような取引を行った議員の名前が、他にも複数人挙げられている。ただ結局、いずれの議員に対する告発も行われず、2021年1月にすべての調査が終了している。 

 

 告発は行われなかったものの、PoliWatchは調査対象にもなった疑わしい取引を、きちんと把握できたわけだ。そうした疑惑をAIが洗い出してくれるだけでも、調査報道を行うジャーナリストや捜査を行う法執行機関にとって、人間の労力を大きく軽減してくれる存在になると期待できる。 

 

 場合によっては、さまざまなしがらみや政治的圧力に屈してしまうことの多い人間より、AIの方がよっぽど客観的な分析をしてくれるだろう。第2、第3の政治資金パーティー事件(そんなものが起きないのが一番だが)を暴き出すのは、PoliWatchのようなAIかもしれない。 

 

 【小林 啓倫】 

経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。 

システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える!  金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。 

Twitter: @akihito 

Facebook: http://www.facebook.com/akihito.kobayashi 

 

小林 啓倫 

 

 

 
 

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