( 157861 )  2024/04/09 15:07:38  
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2024年問題により路線バスの運行が厳しくなっており、バスドライバーの給料を上げるべきかについて議論が起きているが、現状では経済的に難しい状況がある。

バス会社の多くが赤字であり、給料の引き上げが難しい状況が続いている。

ドライバーの給料を上げるだけでなく、新たな収入源や財源を確保する方法を模索する必要がある。

(要約)

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路線バス(画像:写真AC) 

 

 路線バスの「2024年問題」が顕在化し、筆者(西山敏樹、都市工学者)もその専門家としてマスメディアでコメントする機会が増えてきた。その過程で大切にしているのは、不用意に「バスドライバーの給料を上げるべきだ」といわないことだ。なぜなら、少なくとも現時点では“机上の空論”だからである。 

 

【画像】えっ…! これがバスドライバーの「年収」です(計8枚) 

 

 もちろん一市民として、彼らの給料が上がればいいと思う。しかし、国土交通省の「2022年版交通政策白書」を見ると、そうとも簡単にいえないことがわかる。実際、2020年度には乗り合いバス会社の 

 

「99.6%」 

 

が赤字を計上している。同時に、廃止されるバス路線は1543kmで、2010(平成22)年度から2020年度までの累計は 

 

「1万3845km」 

 

となる。そんななか、2024年問題が顕在化し、バスの運行本数確保が難しくなった上、新型コロナによる在宅勤務の普及で、安定収入源だった定期券収入も難しくなった。 

 

 そのような状況下で、経済的制約を無視して「運行本数を確保するためには、バスドライバーの給料を上げるべきだ」と安易にいう識者もいる。さらに3月以降、このような議論が社会的にも活発になっている。しかし、路線バス運行の厳しさを考えれば、 

 

「アイデア次第」 

 

で現状を打開できることを忘れてはならないのだ。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 バスドライバーの給料アップが実現すれば、生活に自信が持てるようになる。 

 

 バスの運転技術を伝承する立場にある50代以上のバスドライバーには、ある程度の年齢の子どもがおり、教育費もかかる。30~40代のドライバーは、たいてい中堅クラスで、人生設計の一環として結婚や子どもを持つことを真剣に考えている。しかし、 

 

・50代:600万~700万円台 

・30~40代:400万円台 

 

だと、バスドライバーを目指す20代の若者がいなくなってしまうだろう。 

 

 筆者は地域交通を専門とする大学教員として、全国のバス会社と付き合いがある。そこでベテランドライバーと話をする機会もあるが、 

 

「昔は〇〇バス(地域を代表するバス会社)のドライバーというのは、誇れる仕事だったし、家族をしっかり養うことができた」 

 

という話を頻繁に聞く。もちろん、給料水準も他の仕事と遜色なく、地域社会からの目も今とは違っていた。そうした環境は、バスサービスの質の向上やドライバーのモチベーションの向上につながり、結果的にドライバーの 

 

「プライド」 

 

に反映された。しかし、「平成22年度乗合バス事業の収支状況について」(国土交通省報道発表資料、2011年9月30日)によると、現在のバス事業は人件費が全体の約57%を占めており、続けて 

 

・燃料油脂費:8% 

・車両償却費:7% 

・車両修繕費:5% 

・その他経費(一般管理費等):22% 

 

となっている。この数字は全国平均であり、筆者が調べたところ、人件費が全体の 

 

「60~70%」 

 

までと高いケースもあった。人件費が上がれば、車両の入れ替えや修理ができなくなり、安全確保や各種バリアフリー化などが進まなくなり、大問題である。 

 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 バス事業の給料引き上げや財源確保の問題については、先日当媒体で「「当事者が払え」「企業努力が足りない」 日本人はなぜ“公共交通”を税金で支える感覚がないのか?」(2024年3月24日配信)を書いた。 

 

 詳細は同稿に譲るが、交通税や交通寄付といった方法を真剣に検討する必要があるのだ。あるいは、最近広島市で議論されているバスの官民共同運行システム(路線重複に代表される無駄をなくし、バス会社の協調・協働によって効率を向上させる)のような、いわゆる 

 

「痛み分け」 

 

によってバスを守る新たな方法を考える必要がある。さらに、全国的に広がりつつある客貨混載や、筆者の研究室が試行しているバス会社の空きスペースの地域住民への開放、サウナバスなど、従来とは異なる新たな事業の展開も必要だ。 

 

 現在の財政状況で路線バスの運行を確保するためには、交通税や交通寄付、新規事業などによる「上乗せ」、あるいは現行経費の配分替え(例えば車両の代替サイクルの延長や中古車両の増車など)による費用捻出によって、ドライバーの給料を含めた予算を確保することが重要である。 

 

 筆者は長年、純電動バスの試作開発に携わってきた。純電動バスは、エンジンバスの3分の1の部品点数しかなく、エコかつオートマチックで、操作も比較的簡単だ。実際、高齢ドライバーの運転支援にも使える。すなわち、SDGs(持続可能な開発目標)を考えると、こうした新技術を活用した人材確保策を検討することも重要だ。 

 

 政府や自治体には、交通税や交通寄付のあり方を再検討し、鉄道で議論された上下分離方式など、新たな資金循環方式を検討してもらいたい。バス会社も、上記のような民間企業らしい、新たな事業展開を柔軟に検討する時期に来ているのだ。 

 

路線バス(画像:写真AC) 

 

 バス事業そのものの制約を知り、考えれば、「何とかしてバスドライバーの給料を上げるべきだ」とは簡単にはいえないはずだ。 

 

 今考えるべきは、バスドライバーの給料を上げるための 

 

「知恵」 

 

である。そのために期待するのは、バリアフリー運賃の拡大でもある交通税の上乗せ負担と、バス会社の柔軟な新規事業展開である。 

 

 千葉県市原市のように、税金を使ってバスドライバーの定着を促す自治体も出てきている。経営について知れば知るほど、 

 

「ない袖は振れない」 

 

という言葉が身にしみる。現実的な制約条件を知った上で、バス事業の将来を考えたいものである。 

 

西山敏樹(都市工学者) 

 

 

 
 

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