( 158213 )  2024/04/10 14:28:21  
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日本では、正社員の雇用のために非正規雇用が増えたり、若手の雇用のために中高年が犠牲になったりしてきたが、実際には労働者の間に大きな格差はなく、誰もが賃金が上がらずに貧しくなっている。

世界的には人口が増え続けているが、日本は高齢化と少子化が進行している。

移民問題や所得格差の拡大も顕在化しており、日本でも格差問題が生じているが、実際には低所得化が深刻であり、結果としてみんなが貧しくなっている状況が抱えられている。

(要約)

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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 正社員の雇用のために非正規が犠牲になってきた。あるいは、中高年の雇用のために若手が犠牲になってきた。……バブル崩壊以降の失われた30年は、そうした対立軸で語られがちだが、実は日本の労働者の格差はきわめて小さい。誰もが賃金があがらず、みんなで貧しくなってきただけなのだ。※本稿は、岸本義之『グローバル メガトレンド10 社会課題にビジネスチャンスを探る105の視点』(BOW&PARTNERS)の一部を抜粋・編集したものです。 

 

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● 世界人口はまだまだ増えるが 日本は高齢化も少子化もさらに進む 

 

 人口の予測は、最も確実に当たる「未来予測」だと言われています。50年後の老人の数は、今の若者の数から計算すればわかります(よほどの疫病でもない限り、その予測より大きく減ることはありません)。20年後の成人の数も、今の新生児の数から計算すれば分かりますし、新生児の数の予測も比較的容易です(親の適齢期の人口と、最近の出生率の傾向から予測できます)。 

 

 こうした人口予測によると、日本の人口は減少に転じ、高齢化も少子化もさらに進むことが分かるのですが、世界的にみると人口はまだ増え続けます。それは、新興国の中にまだまだ出生率が高い国が多いからです。2022年の世界の人口は80億人ですが、2058年には100億人へと増加するというのが、現時点の予測です。人口の伸びの多くはサブサハラ(サハラ砂漠より南に位置するアフリカ諸国)から来るという予測になっています。 

 

 新興国などで人口がさらに増えるということは、食糧不足という問題を引き起こします。また、先進国では日本同様の高齢化が起きるのですが、そうなると医療費負担の問題や、介護人材の不足といった問題が起こります。先進国などで出生率が2.1を下回ると人口が減ることになります(親2人から生まれる人数は2人より多くないと人口が維持できませんが、ギリギリ2人だと子供のうちに死んでしまう人の分、人口が減ってしまいます)。人口が減ると人手不足になりますし、納税者の数も減ってしまいます。 

 

 人口は増えても大変ですが、減っても大変です。しかも世界の多くの国で人口問題が起きることが確実なのです。 

 

● 新興国で増えた人口は 高い所得を求めて移動する 

 

 人口問題は、数の問題と年齢構成の問題だけではありません。新興国から先進国への人口移動が起こり、移民問題を引き起こしています(「移民」とは経済的な理由で海外へ移動する人、「難民」とは母国にいると政治的な迫害を受ける可能性があるので海外へ移動しようとする人を指します)。移民は、先進国と新興国の間に所得格差が続く限り、起こり続けます。 

 

 

 移民が増えることで、先進国、特に欧米で、文化的衝突とナショナリズム問題が起きています。アメリカではトランプ氏が大統領時代に、「メキシコとの国境に壁を作る」と公約しましたが、移民が増えすぎて白人の仕事が減るのではないかと考えていた人々の支持を集めました。ヨーロッパでは、稼ぐつもりでやってきた移民が想像よりも厳しい生活を強いられて不満を募らせて、テロなどの事件を起こしています。 

 

 より高い所得を得ようとして、新興国の人々は海外や大都市に移動しようとします。それでも多くの国で所得格差の問題は残り、一握りの富裕層が大きな富を得ることは続くと考えられています。 

 

 新興国では、旧来の支配勢力として利権を握っていた人々や、海外からの投資を受けて初期の頃に成功した人々がさらに経済的に成功して富裕化していくことで、格差が拡大しているという懸念があります。先進国では、特にアメリカで顕著ですが、起業して大成功した億万長者たちがさらに経済的に成功して、何兆円もの資産を有するようになっています。 

 

● 非正規労働者の増加によって 日本の格差は広がったのか? 

 

 日本でも格差問題という言葉がよく使われています。日本では1991年のバブル崩壊以降、新卒社員の採用数が減ってしまい、正社員になれなかった人々が派遣社員として働くようになりました。正社員の数を減らした企業では、業務がこなしきれないことが起きますが、正社員を雇うよりは低コストで済むので、派遣社員を使うのです。もともと派遣社員というのは短期的な労働力不足を補う手段だったのですが、低コストで済むというメリットがあるために、新卒採用をさらに減らし続け、恒常的に派遣社員に業務を行わせるという企業も多くなりました。 

 

 それが2008年のリーマン・ショックと呼ばれる世界的経済危機の時に、業績が悪化し、業務量自体も減ってしまったために、派遣社員の雇用を止めるということが多発しました。これが「派遣切り」と呼ばれた現象です。この頃から格差問題という言葉が頻繁に使われるようになりました。 

 

 

 こうした事情があったので、2008年当時の格差問題では、正社員と派遣社員の格差という点に注目が集まりました。しかし、その裏にあったのは、「バブル崩壊前に正社員になれた世代」と「バブル崩壊後なのであまり正社員になれなかった世代」との世代間の格差という問題でした。 

 

 終身雇用の慣行がある日本の大企業では、正社員になればめったに解雇されません。賃金が年功序列で決まるので、バブル前入社の中高年社員は、給料も高いということになります。企業の側としては低価格競争で生き残るためには低コストにならなければならないので、「終身雇用は維持するが、給与の上昇幅は引き下げる」という解決策をとるしかありませんでした。 

 

 このため、「派遣社員の給与水準が低い」だけではなく、「正社員の給与水準も低い」「バブル前入社の社員の給与も昔の中高年よりは低い」ということになったのです。 

 

● 日本の格差問題の真相は 「みんなが貧しくなった」 

 

 結果、格差が開いたわけではなく、所得格差の水準を表すジニ係数でみても、日本はやや低い側に分類されているのです。日本にはアメリカの大富豪のような人がほとんどいませんから、そのこともあって格差が小さいということになっています。 

 

 つまり、日本の所得に関する問題は、実は「所得格差」ではなくで、「低所得化」の方が深刻だったということが言えます。平均賃金が増えていないという問題です。派遣社員だけではなく正社員も、若手社員だけではなく中高年も、賃金がほぼ上がってきませんでした。 

 

 では、この「低所得化」は今後も続くのでしょうか。実はここで人口構成の問題が、いい方向に作用します。大企業の職場ではバブル前に入社した社員が今後続々と定年退職していきます。企業としては高給与の社員が退職してくれるので、若手社員に入れ替えれば人件費が下がります。業務量がそれほど減るわけではないので、退職者による人員の減少分を新卒社員で埋めようとします。 

 

 しかし、今の新卒社員の世代の人数は1学年当たりで団塊世代の半分以下ですから、減少分を埋めるほどの数を採用することは困難です。最近の若い社員は転職に対しても肯定的ですから、給料が低い会社からは、給料の高い会社に転職していってしまうリスクがあります。なので、これからは「売り手市場」(社員になる側の立場が強い)になり、給与は上がる方向になります。 

 

岸本義之 

 

 

 
 

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