( 159352 )  2024/04/13 14:57:42  
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1989年の大納会で、バブル世代の一部が定年再雇用となり、若手社員の給与原資が増えつつも、日本の価値は上昇していると指摘されている。

春闘での大幅な賃上げがあるものの、景気浮揚には効果が少ない状況が続いている。

若手社員への賃上げ期待は高く、中小企業においてもこのトレンドが続く可能性がある。

また、物価上昇による消費者の防衛意識やラーメンの価格の増加など、個人消費にも影響がある。

日本の経済の戦略的価値が高まっており、海外の見方も楽観的である。

日本の賃金が上昇する可能性もあり、企業の中途採用比率の増加が賃金の上昇に繋がるとの期待が示されている。

(要約)

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1989(平成元)年の大納会。「バブル世代」の先頭組が定年再雇用となり、若手社員の給与の原資は増えそうだが、実は日本の価値は今上がりまくっている。給料がグンと上がる大チャンスだ(写真:AP/アフロ) 

 

 4月8日に公表された最新の景気ウォッチャー調査は、「ドキッ」とさせられる内容だった。 

 

前回の「『物価と賃金の好循環』は本当に持続可能なのか」(3月30日配信)では、「問題はこの賃上げを受けて、個人消費がちゃんと伸びるのか。4月以降の消費と物価のデータを、しっかりウォッチしていく必要がある」という趣旨のことを書いたのだが、しょっぱなから冷水を浴びせられた感がある。 

 

■「大幅賃上げ」なのに景気浮揚にほとんど効果なし?  

 

すなわち3月の現状判断DI(指数)は前月比▲1.5の49.8、先行き判断DIは同▲1.8の51.2となった。特に現状判断DIの季節調整値が、50を割り込むのは昨年1月以来のことだ。「前年比5%台の賃上げ」は市場にとってはサプライズであったし、それで日銀も政策変更に踏み切ったのだが、今のところ足元の景気浮揚にはほとんど効果がないようである。 

 

 そもそも今年の春闘で大幅賃上げが可能になったのは、世代的な特殊事情も手伝っている。1980年代後半の「バブル入社世代」の先頭が、今年から60歳に差しかかかるのだ。 

 

 彼らが「定年再雇用」になっていくにつれて、会社全体の人件費は減少するはずだ。ゆえに社内には向こう数年、若手社員の賃金に上乗せする「原資」があることになる。ということで、賃上げはあと数年続く公算が高い。もっともこの理屈が中小企業にも通用するかというと、そこは少し怪しいのだが。 

 

 まあ、それにしたって、中高年の賃金が減る分だけ若い世代の取り分が増えるのなら、これはいいニュースと言えよう。賃金カーブはなるべくならスティープ(急傾斜)化するほうがいい。つまり若いうちから早めに給料を上げておけば、「来年はもっと暮らしが良くなる」という希望を持つことができるし、結果的に生涯賃金を多くできるからである。 

 

 それはさておいて、景気ウォッチャー調査のコメント欄はあいかわらず冴えている。お急ぎの方は、調査の中にあるスーパーとコンビニの情報発信を拾い読みすることをお勧めする。この2業種は個人消費の最前線だけに、以下のような鋭い観察が寄せられている。 

 

* 4月からの値上げが報道されていることで、月末に近づくにつれて、トイレットペーパー、ティッシュペーパーが異常なほど売れている。物価高に対する消費者の防衛意識が一層高まっている状況がうかがえる(北海道・スーパー)。 

 

 

* 客の購買力が落ちてきている。食品の度重なる値上げが効いているのではないか。ガス・電気料金の補助がなくなったら、一層食費に掛ける金が減ってくるようにみえる(東海・コンビニ)。 

* 客の節約志向は変わらず、来客が割引デーに集中しているため、平日の来客数が伸張しない状況である。客が買い物する日を決めている感じで、割引デーでのまとめ買い傾向が強い。ハレ型商品も伸張せず、安価なプライベートブランド商品の構成比が挙がっている(中国・スーパー)。 

 

* 物価上昇の影響で来店頻度が減少しており、必需品以外の買い控えが顕著になっている。価格に敏感になっているためリーズナブルな商品が動いており、全体の底上げにはなっていない(コンビニ経営者)。 

 

■ラーメンの「脳内1000円の壁」は打ち破られるべき 

 

 真面目な話、筆者も3月末にビールやウイスキーを買いだめしようかと思ったところであった。全国津々浦々の生活防衛意識が、いかに強くなっているかを痛感させられるコメントが並んでいる。 

 

 思うに物価高とは、お財布を直撃するだけではない。われわれの頭の中には「脳内価格」とでも呼ぶべきものがあって、「これはこの値段」というだいたいの水準ができあがっている。それを大きく上回る料金を支払うと、「こんなはずではない!」という拒否反応が生じてしまう。メンタルなストレスが溜まってしまうのだ。 

 

 一例を挙げれば、最近は「ラーメン一杯1000円」を超える店が増え始めた。行列ができる店、豪華トッピングが売りの店、店主のこだわりが詰まった店であれば、確かにそれもアリだろう。そして最近は、円安メリットを享受している外国人観光客が、日本のB級グルメに関心を寄せている。彼らにとってみれば、「こんな値段で、チップも要らないなんてもうサイコー!」といったところだろう。 

 

 一方でラーメン屋の倒産や休廃業が増えている。東京商工リサーチによれば、昨年1年間のラーメン屋の倒産は45件となり、前年比2.1倍になった。「休廃業および解散」も増えていて、いずれも2009年の調査開始以来、もっとも多くなったそうである。 

 

 つまりラーメン業界ではスクラップ&ビルドが始まっている。小麦や豚肉などラーメンの具材はもとより、光熱費や人件費、水道代までが上昇している。 

 

 となれば、ラーメンにおける「1000円の壁」は打ち破られるべきであろう。そうじゃないと、「物価と賃金の好循環」が実現しないことになる。とはいうものの、「ラーメンは庶民の食べ物」との思いも強いし、実際に値上げを我慢しているお店もある。そして「脳内価格」が断固として「ノー!」と言っている場合、無理に支払うのは精神衛生上もよろしくない。 

 

 

 困ったことにこの国の実質賃金は、今年2月まで実に23カ月連続で「前年同月比マイナス」を続けている。つまりほぼ丸2年間というもの、インフレ率が賃金上昇率を上回っているのだ。これでは個人消費が伸びないのも無理はない。生活水準が下がり続けていることに加えて、「脳内価格」との齟齬によるストレスも加わっていることになる。 

 

■海外の見方は真逆「戦略価値上がりまくりのニッポン」 

 

 そこで問題は、今年の春闘を反映して、いつ頃になったら実質賃金がプラスに転じるのか。日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」によれば、今年の「7月から9月には」という声が多いようである。今年の6月上旬には、例の「1人4万円」の定額減税も実施される。だから夏頃になれば、少しは個人消費が上向くかもしれない。 

 

 それにしても歯がゆく感じるのは、日本経済を見る目が内外で大きく食い違っていることだ。海外投資家は、「あの日本経済に、とうとうチャンスが訪れた!」と楽観視していて、現下のインフレも「日本経済が眠りから覚める契機」という認識である。「中国株は怖くてもう買えない」という事情も重なり、外国人買いが日本株を押し上げている。 

 

 「外人はいつ逃げ出すかわからない」と警戒する向きもあるようだが、筆者の見るところ状況はむしろ逆だ。日本株を買い遅れた機関投資家は、むしろ「持たざるリスク」を恐れている。もしくは「急いで日本株のアロケーション(配分)を増やせ!」という上司からの圧力に直面している。だから買い圧力は、まだまだ強いと考えるほうがいい。 

 

 普通だったら、経済にはマイナスとなる「経済安全保障」の問題も、日本においてはむしろ追い風となっている。「ここなら安全」と言わんばかりに、日本国内に台湾のTSMCの半導体工場が建設され、マイクロソフトによる生成AIの研究拠点の設置も新たに決まった。 

 

 現地時間10日に行われた日米首脳会談でも、アメリカ側が思い切り日本を持ち上げていることに、意外な思いをした人は少なくなかっただろう。 

 

 今回の岸田文雄首相訪米では、斎藤健経済産業大臣も同行して、ジーナ・レモンド商務長官との間で日米商務・産業パートナーシップの会合が開かれている。 

 

 

 半導体やAIなど先端分野の協力が目玉であるが、もうひとつの重要案件は、ジョン・ケリー氏の後を継いで気候変動担当大統領特使に就任する予定のジョン・ポデスタ上級補佐官との間で、日米のクリーンエネルギーをめぐる協議を深めることだ。すなわちアメリカ側のIRA(インフレ抑制法)と日本のGX(グリーントランスフォーメーション)を一体化するのが狙いだ。 

 

 なぜそんなことが必要なのかって?  それは「トランプ2.0」(「もしトラ」よりも上品なので、最近はこっちの表記が増えている)に備えてのことだ。次期大統領がトランプ氏になったら、彼はIRAを破棄しようとしてくるだろう。そこでアメリカの「脱炭素政策」が後戻りしないように、日本側に「フックをかけよう」としているのだ。 

 

■「昭和のシステム」が崩れれば日本の賃金は上がりやすくなる 

 

 ことほど左様に、日本経済の戦略的価値は上がっている。ところが肝心の日本人自身が、とっても悲観的なムードを引きずっている。物価上昇は止まらないし、賃金は上がらないし、ろくなことはなさそうだよねえ、ということである。 

 

 そこで問題は、「物価と賃金の好循環」をどうやって実現するのか、ということに回帰する。前回の記事では「来年の春闘が大事」「3年連続の賃上げを」などと書いたけれども、それはあまりにも悠長すぎるかもしれない。 

 

 と思っていたら、4月8日の日本経済新聞朝刊に「中途採用5割迫る、24年度『新卒中心』転換点」という記事が出ていた。2024年度の採用計画に占める中途採用比率は、過去最高の43.0%となったそうだ。そうそう、これだよ、これ!  

 

 察するに多くの日本企業が「これからの本格的な少子化時代、新卒だけではとても人員の補充ができない」と考えているのであろう。だからその分は中途採用を増やすしかない。となれば、キャリア採用は「売り手市場」となる。わが国の雇用の流動化は進むし、当然、賃金も上昇するはずだ。 

 

 

 
 

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