( 159367 )  2024/04/13 15:08:52  
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日本株価の上昇には歴史的な円安の影響があります。

現在の円安は日本企業の米国向け輸出を容易にしており、輸出企業は利益を株主に配当したり銀行に返済したりすることで、株価が上昇する傾向にあります。

一方、輸入企業や消費者は円安によるコスト上昇を受けるため、景気にはプラスマイナスの影響があるとされています。

一般的には円安は株価を押し上げる要因とされますが、極端な円安では株価が下がる可能性もあります。

金融引き締めによる影響も株価に大きな影響を与えるため、円安が続いた場合は注意が必要です。

(要約)

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(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

日本株の価格が上昇していますが、その裏側には歴史的な円安の影響があるといえます。なぜそのような状況が起こるのでしょうか? また、今後さらなる円安が進行した場合、株価にどのような影響を及ぼすのでしょうか。経済評論家の塚崎公義氏が平易に解説します。 

 

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為替レートは、歴史的な円安(=ドル高)の水準となっています。高度成長期は1ドルが360円だったので、それと比較して「いまは円高だ」と考える人もいるでしょうが、日米の物価上昇率が違うので、日本企業が米国向けに輸出する際の難易度は、いまの方がはるかに易しいのです。 

 

輸出が容易なら輸出が増え、輸出企業が持ち帰ったドルを売るので「ドル安円高」になるはずだ…と考える人もいると思いますが、最近の輸出企業は「輸出をするより、海外の売れるところで生産する」という志向が強いので、円安でも輸出があまり増えないのです。そのあたりのことについては、拙稿 『円相場の歴史的な安値、日銀発表「実質実効為替レート」でも明瞭に…円安の理由と今後の展望』 をご参照下さい。 

 

円安で輸出企業がドルを高く売れる分は、株主への配当や銀行への借金返済に使われ、従業員の賃上げにはあまり使われないので、景気を押し上げる力は大きくありません。 

 

一方で、輸入企業がドルを高く買わされた分は、消費者などに転嫁されますから、消費者の懐が寂しくなり、飲みに行く回数が減ります。読者のなかにも電気料金等が値上がりしたので飲み会参加を減らした…という人も多いでしょう。 

 

差し引きすると、貿易数量面では景気に若干プラス、価格面では景気に若干マイナス、ということで、差し引きした景気への影響はプラスマイナス0程度ではないか、と筆者は考えています。そのあたりのことについては、前回の拙稿 『円安、景気への影響は「ほぼナシ」!? 輸出企業の儲けは株主へ、輸入物価の上昇は消費者にツケ回し…庶民が置かれた厳しい状況』 をご参照下さい。 

 

 

日本の貿易収支は(原油価格の変動などはありますが)概ねゼロと考えてよいでしょう。つまり、輸出企業がドル高で儲かった分と、輸入企業がドル高で苦しい分が同程度なのです。しかし、その株価への影響は大きく異なっています。 

 

輸出企業の儲けの大部分は、配当されるか、内部留保になります。利益が増えて配当が増えれば、「この株を持っていれば今後も高い配当がもらえるだろう」ということで株の買い注文が増え、株価は上がるでしょう。 

 

内部留保されれば、「あるべき株価」が上がりますから、実際の株価にも上昇圧力がかかるでしょう。あるべき株価については、ここでは単純に「1株あたり純資産」ということにしておきましょう。会社が解散するときに株主が受け取れる金額があるべき株価だ、と考えよう、というわけです。 

 

日本の輸出の多くが上場企業によってなされている、ということも重要です。ドル高の儲けは上場企業の儲けになり、株価を押し上げるのです。 

 

輸入企業のコスト増は、多くが消費者に転嫁されるので、輸入企業の利益はそれほど減りません。また、輸入原材料を使う企業の多くは非上場の中小企業です。したがって、上場している輸入企業のコストはそれほど増えず、株価の押し下げは限定的です。 

 

円安によって景気が悪化して、それが株価を押し下げる、ということも理屈上は考えられますが、上記のように、円安の景気への影響が大きくないとすると、そうした懸念も小さいでしょう。 

 

株価やドルは「みんなが値上がりすると思うと、みんなが買い注文を出すので、実際に値上がりする」という傾向があります。「美人投票」と呼ばれる現象です。 

 

多くの投資家は「ドル高円安になると株が上がる」と考えているので、円安になると「ほかの投資家が買う前に急いで買おう」という買い注文が増加し、株価が上がりやすくなります。 

 

そうなると、一層多くの投資家が「やはり円安は株高要因だ」と考えるようになるので、次の円安の際にも株が上がる、ということが繰り返されるわけですね。 

 

 

上記のように、普通の円安は株高要因と言えますが、極端な円安であれば反対に株価が下がるかもしれません。それは、極端な円安によって輸入物価が高騰し、インフレになって日銀が金融を引き締める場合です。 

 

金融引き締めは、景気への影響より、株価や為替レートに対する影響のほうがはるかに大きくなりがちです。金利がわずかに上がっても、「それなら設備投資を延期しよう」という企業は多くありませんが、「それなら株やドルを売ろう」という投資家は多いからです。 

 

したがって、景気を抑制してインフレを抑え込むほど金利を上げると、株価が大幅に下落する可能性があるわけです。 

 

実際には、中程度の金融引き締めによって景気が悪化する前にドル安円高となり、輸入物価が低下してインフレが収まるかもしれませんので、さまざまな経路が考えられますが。 

 

余談ですが、平成バブル期には反対に、大幅な円高が景気にプラスに働きました。大幅な円高で輸入物価が下落し、消費者物価が安定していたため、日銀は金融引き締めを見合わせました。そのため、投資家たちが安心して株を買うことができたのです。 

 

今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。 

 

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塚崎 公義 

経済評論家 

 

塚崎 公義 

 

 

 
 

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