( 159569 ) 2024/04/14 12:36:39 0 00 photo by gettyimages
政府が異次元の少子化対策をやっても、日本の少子化は止まらないだろう。
なぜなら、子どもを生み、育てることは、女性に対して「コスト」が高く過ぎて、なおかつ「リスク」も高いからだ。
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子どもを育てるために、女性は約1億6000万円のコストを払う可能性があり、なおかつ、貧困に陥るリスクも背負っている。
私は、これが少子化の原因だと考えている。
その理由をこれから説明していくが、その前に、政府の「異次元の少子化対策」についてみてみよう。
政府は公的医療保険の保険料を上げて「支援金制度(仮称)」を新設するという。これがすこぶる評判が悪い。あたりまえだろう。子どもが生まれると、国民の健康が増進されるならわかるが、そんなことはないからだ。
理屈に合わない財源を捻出しても国民は納得しないだろう。
政府はムリヤリかき集めた財源を、児童手当の高校卒業までの延長、所得制限の撤廃、第3子以降への増額(現状3歳児まで1.5万円、3歳以降1万円を3万円にする)、育休時の手取り所得の10割維持(現状8割)、大学授業料無償化などに使うという。
はたして、このくらいのことで子どもが増えだすだろうか。これまでの少子化対策の失敗を考えれば、私にはそうは思えない。
1974年まで2を超えていた合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の数)は徐々に低下し、2005年には1.26まで低下した。その後わずかずつ上昇し始め、2015年には1.45まで上昇したが、その後は低下し2022年には1.26と過去最低に戻ってしまった(厚生労働省「人口動態統計」)。
それほど、少子化対策はうまくはいかなかった。
では、それはなぜか。冒頭にも示した通り「女性が子どもを生むコストとリスクが膨大」だからだ。ここにメスをいられないのかと、私は考えるのだ。
では、いかに女性が子どもを生み育てるコストとリスクを背負っているかを考えてみよう。
コストのなかには、もちろん、養育費、教育費があるが、最大のものは母親が仕事を離れて育児することにともなうコストである。
女性の生涯年収は、大卒の場合で2.4億円である(厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2022年)」第2表 年齢階級、勤続年数階級別所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額。年収は所定内給与額×12+年間賞与その他特別給与額の合計。この年収を累積したもの)。
子どもを産み育てるために母親が仕事を辞めなければならないとすると、この期間の収入が得られなくなる。この期間を30歳から34歳までとすると、失われる収入は2100万円になる。その後、元の職場に戻れず、パートで働くとすると、扶養対象者に保険料支払いが発生する年収の壁130万円以下で働くことが通常となる。
この場合の34歳以降の年収の差の累計は1億3800万円となる。子どもを持たずに働き続けた場合に比べると、1億5900万円(1億3800万+2100万)の減収となる。
この減収分が子育てのコストなのである。
1億5900万円のコストに対して、多少の児童手当の増額では間に合わないから、政府も保育所の拡充(これは異次元対策の前にすでにしている)、育休時の手取り所得の補助など、母親が働き続けやすくなるように援助しているが、子どもの急病など、他にも母親が働き続ける上での制約は多い。
母親は、子どもを育てるのに、膨大なコストを支払うだけでない。大変なリスクも背負うことになる。ひとつは、シングルマザーになるリスクである。
なお、この記事の中に、シングルマザーと一人親世帯(父子世帯を含む)という2つの言葉が出てくるのは、国際比較の統計ではシングルマザーだけを取り出した数字がないことがあるからだ。日本では一人親世帯のうち9割弱が母子世帯である。
離婚した夫から養育費を受け取っているシングルマザーは少ない。子どものある夫婦が離婚して母親が親権をもてば、父親から養育費をもらうのが普通だと思っている人もいるかもしれない。しかし、現実には、離婚した夫から養育費を受けている母親の比率は28.1%にすぎない。
また、シングルマザーの86%が働いているが、うち46.5%が非正規で、平均就労収入は年236万円でしかない。
リスクを小さくするためには、政府が夫から強制的に養育費を取ること、母子家庭の児童扶養手当を上げることが考えられる。
しかし、現状の児童扶養手当は、月額4万4130円から1万0410円まで所得によって分かれており、母親の年間所得が230万円を上回るとゼロとなる(男女共同参画局>児童扶養手当)。母子世帯の年収は230万円を上回ってはいけないと言われているようなものだ。
シングルマザーの対策はしなくてよいのだろうか Photo/gettyimages
結果、1人親世帯の相対的貧困率(中位人の所得の半分以下の所得の人の比率)は48.3%にのぼる。
これはOECD加盟36ヵ国のなかで、最高値である。
つまり、日本は子どもを増やしたいと思っているくせに、シングルマザーに膨大なコストとリスクを押し付けて、その対策をしようとはしないのである。
しかし、シングルマザーの貧困率が下がれば、子どもが生まれる可能性があることも、近年のデータから見えてくる。
その内容については、後編「国民に負担を強いる「異次元の少子化対策」がバカげている本当の理由…カギは、生みたい女性の「コストとリスク」を減らすこと」でじっくりと説明していこう。
原田 泰(名古屋商科大学ビジネススクール教授 元日本銀行政策委員会審議委員)
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