( 161057 )  2024/04/18 16:30:27  
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セルコの製造工場では若手社員から賃上げを求める声が上がり、社長は自らの給料を削って賃上げを決断した。

セルコは製品の作業単価を引き上げて業績向上を図っており、賃上げには工夫を凝らしているが、売上高は減少している。

日本の中小企業における賃上げの難しさが浮き彫りになっている。

(要約)

( 161059 )  2024/04/18 16:30:27  
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セルコの工場内 

 

 今年の大手企業の春闘は「満額回答」を超える賃上げに沸いた。「物価と賃金がそろって上がる好循環」―。そんな言葉が飛び交い、日銀がマイナス金利を解除して金利は上昇局面に入った。果たして地方の中小企業で賃上げはどの程度進むのか。社員40人ほどの製造業、セルコ(小諸市)では、若手社員からの“直訴”があり、社長が苦しい決断を迫られた。 

 

【写真】自分の給料を削り、社員の賃上げをすることを決断した社長 

 

 2月末のことだ。労働組合がないセルコでは、定期的に社員と小林靖知(のぶとも)社長(43)が経営状況などを共有する「全社会議」が開かれる。2時間ほどの会議の終盤、20代の若手社員の一人が手を挙げた。「うちの会社はなぜ賃上げをしないのか。おかしい」 

 

 この社員は、2024年度に賃上げを予定している県内企業が64%に上るという信濃毎日新聞の記事を示し、基本給を一律に引き上げるベースアップ(ベア)などを要求。資料を手に、物価が上がり生活が苦しいと訴えた。 

 

 小林社長は、仕事内容に応じた職能給などで給料を毎年平均3%ほど引き上げていること、このうち1%はベアで、これ以上は賃上げの原資がないと説明した。だが、頭の中の計算機は動いた。毎月40万円、年500万円ほどを捻出すれば、さらに5%の賃上げができる。社員には会社にとどまり、成長を遂げてほしい―。 

 

 「私の給料を削って賃上げをします」。その場で断言した。 

 

 モーターやセンサー向けのコイルを製造するセルコは、1970(昭和45)年創業。業績低迷で社員をリストラした時期もあったが、2000年代以降、銅線を何重にも巻いて圧縮成形する高密度コイルなどの新製品で業績を回復した。20年に社長に就いた小林社長は、「会社都合で社員を切ることはもうしません」と宣言。パート従業員の多くを正社員に昇格させた。 

 

 社長就任後に特に努力したのは、製品の販売価格のうち作業単価を示す「労務費」の引き上げだ。それまで約20年間、同社は引き上げてこなかったが、コイルの製造を担当する社員の1時間当たりの作業単価を17%引き上げた。 

 

 販売先の理解を得るのは難しかった。バブル崩壊後の日本では、人件費の抑制によるコスト削減が常態化していたからだ。発注先を別の業者に変えられる「転注」を恐れ、以前からの販売先には単価引き上げを切り出せなかった。 

 

 現在、セルコが量産する約200の製品のうち、労務費を含め価格転嫁ができているのは6割程度。価格転嫁を容認する雰囲気が広がりつつあるが、価格転嫁に条件を付けたり、交渉を受け入れなかったりする販売先もある。 

 

 セルコの24年3月期の売上高は約11億円。中国の景気減速などが影響し、社長就任の20年に比べ約1億円減った。「業績好調の大手とでは、賃上げの難しさが違う」。小林社長はそう話す。(小松英輝) 

 

 

 
 

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