( 161436 )  2024/04/19 17:16:10  
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デービッド・アトキンソン氏は、日本が「年収の壁」を廃止して日本人の給料を上げる必要があると提言している。

日本の社会保障負担が増え、生産年齢人口の減少が進む中、経済成長を支えるためには労働生産性の向上が重要であり、女性活躍や移民を受け入れることが選択肢として挙げられている。

しかし、日本の女性は低賃金の非正規雇用が多く、平均所得や雇用形態において男性との格差が存在していることが課題として取り上げられている。

(要約)

( 161438 )  2024/04/19 17:16:10  
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「年収の壁」を廃止して女性活躍を促すか、「大量の移民」を受け入れて彼らに「参政権」を認めるか、日本は選択の岐路に立たされていると言います(撮影:尾形文繁)この記事の画像を見る(◯枚) 

 

オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏。 

退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきた彼の著書『給料の上げ方――日本人みんなで豊かになる』では、日本人の給料を上げるための方法が詳しく解説されている。 

 

【グラフ】日本の「人手不足」は、ここまで深刻化する 

 

「いまの日本の給料は、日本人のまじめさや能力にふさわしい水準ではありません。そんな低水準の給料でもガマンして働いている、その『ガマン』によって、いまの日本経済のシステムは成り立っています。でも、そんなのは絶対におかしい」 

 

そう語るアトキンソン氏に、これからの日本に必要なことを解説してもらう。 

 

■日本経済をダメにする「年収の壁」の弊害 

 

 いま日本では、高齢化に伴う社会保障負担の激増に応えるためにさまざまな公共サービスが有料化され、値段も引き上げられて、税負担も大きく上がっています。 

 

 これからも、その負担はさらに増えます。日本人がその負担増に耐えるためには、所得を増やすしかありません。 

 

 それに立ちはだかるのが、いわゆる「年収の壁」です。年収の壁には、次のような弊害があります。 

 

(1) 家計を困窮させる 

(2) 国の生産性を下げる 

(3) 財政を悪化させる 

(4) 人手不足の原因になる 

(5) 対応しなければ、移民の激増につながる 

 とにかく「年収の壁」はただちに廃止し、日本人の年収を増やすべきです。 

 

 さて、今回の記事のタイトルは、少々衝撃的に思われたかもしれません。 

 

 しかし、これは日本の将来について論理的な思考を重ねれば、必然的に到達する結論です。順を追って説明を進めますので、ご一緒に考えてみてください。 

 

 ご存じのとおり、日本では1990年以降、高齢者が増えているうえ、高齢者層の平均年齢もどんどん上昇しています。 

 

 その結果、社会保障支出は1990年度の約47.4兆円から、2023年度には約134.3兆円に増えています。 

 

 一方で、現役世代(生産年齢人口)が激減してしまっています。結果として、生産年齢人口1人当たりの社会保障負担は1990年の約55万円から、2023年には約181万円まで増えています。日本の税負担が次第に重くなっている最大の原因です。 

 

 

 社会保障の負担は1990年度にはGDPに対して約10.2%でしたが、2023年度には、約23.5%に相当する負担がGDPから吸い上げられています。経済に対して、猛烈な負担になっているのです。 

 

 この負担を考えると、持続性がない社会保障制度を断念するか、経済を成長させるしかありません。 

 

■経済成長を支える2つのエンジン 

 

 経済は、人口増加とイノベーションによる賃上げの2つの要因がエンジンとなって成長します。歴史的には、この2つの要因が経済成長に寄与する割合は、およそ半分ずつでした。 

 

 しかし、日本ではすでに人口が減少するフェーズに入ってしまっているので、経済成長の要因の1つである人口増加要因がマイナスになってしまっています。これは経済成長の大きな足かせです。 

 

 GDPは「人口×労働参加率×労働生産性」という数式で表せます。 

 

 つまり国の経済は、人口×労働参加率という量で成長するか、イノベーションという質で成長するか、そのいずれかしかないということです(もちろん両方ともプラスなら、大きな成長につながります)。 

 

 人口が減るのであれば、労働参加率や労働生産性を上げていかないと、経済の規模は縮小します。 

 

 実際に日本の場合、人口の減少によって政府や地方自治体の財政に余裕がなくなりつつあり、これまで無料だったさまざまなことを有料化せざるをえなくなっています。 

 

 増税をしなくてはいけなくなったのも、物価上昇も、さまざまな公共サービスが相次いで廃止されているのも、すべて原因は同じです。 

 

 今後、私たちが懸念しなくてはいけない最大の問題は社会保障です。 

 

 繰り返しますが、1990年度の日本の社会保障費は約47.4兆円でGDPの約10.2%でした。しかし、2023年度には約134.3兆円と約2.8倍にも増えて、GDPに対する割合も約23.5%まで急上昇しています。 

 

 これを10年ごとのスパンで生産年齢人口1人当たりに直すと、以下のように計算できます。 

 

生産年齢人口1人あたりの社会保障費負担 

1990年:55万1372円 

2000年:90万5952円 

2010年:128万2554円 

 

 

2020年:177万771円 

2023年:181万7813円 

 日本では生産年齢人口の減少が今後も長く続くので、社会保障支出が仮に横ばいに推移したとしても、現役世代1人当たりの負担は、次のように急増します。 

 

生産年齢人口1人あたりの社会保障費負担(予想) 

2030年 198万2873円 

2040年 232万719円 

2050年 268万5463円 

2060年 303万9837円 

 2018年に、厚生労働省は2040年度の社会保障支出が約190兆円まで増えると予想しました。生産年齢人口で割ると、約328万円の負担となります。 

 

 こんな金額を1人ひとりが負担することは到底不可能です。つまり、今のままでは日本の社会保障制度には持続性がまったくないのです。 

 

 この社会保障負担の激増に対応するためには、全力で生産性と賃金を上げて、税収を増やす必要があります。 

 

■実は今から本格化する人手不足 

 

 本記事のタイトルで「移民に参政権」と書きました。社会保障の激増への対応に、なぜ、参政権が関係してくるのか、ここから説明していきます。 

 

 先ほど紹介した計算式にあったように、人口1人当たりのGDPは「労働参加率×労働生産性」という計算式によって決まります。 

 

 では、日本で労働参加率を今より上げることはできるのでしょうか。 

 

 日本では生産年齢人口が1994年のピークから、すでに1400万人も減っています。しかし、一方で就業者数は増えています。第2次安倍政権以降、特に45歳以上の女性と、さらには高齢者の労働参加率が劇的に上がった結果、労働参加率は世界最高水準に達しているのです。非正規雇用の比率が上がっている原因はここにあります。 

 

 すでに「人手不足」が顕在化し、社会問題として騒がれ始めていますが、実は2060年に向かって、生産年齢人口はさらに約3000万人も減ると予想されているのです。 

 

 総務省の労働力調査によると、2024年2月の時点で、日本の生産年齢人口の78.6%は就業しています。男性は84.0%で、女性は73.0%でした。20~69歳の労働参加率は80.6%でした。 

 

 労働参加率が高くなって、生産年齢人口が減るので、将来的に就業者数を維持することが困難なのは自明です。人手不足は始まったばかりです。これからさらにさらに深刻になります。 

 

■「高齢者の活躍」には限界がある 

 

 この問題の対策として、「高齢者にもっと労働してもらえばいい」という意見も耳にします。 

 

 

 しかし、高齢者自身の平均年齢が上がっているので、仮に今まで以上に高齢者層の労働参加率が高くなったとしても、生産性の極めて低い層ができあがるだけの結果になるのは想像にかたくありません。 

 

 結局、経済規模を維持するために、論理的に残される選択肢は、次の2択です。 

 

(1) 女性活躍によって労働生産性を上げる(質の向上による成長) 

(2) 移民を増やして労働者の数を維持する(量の増加による成長) 

 

 先ほど説明したように、日本では第2次安倍政権以降、女性の労働参加率が上昇しましたが、生産性を向上させる結果には結びついていません。 

 

たしかに女性の労働参加率は上昇しましたが、前回の記事で説明したように、新たに職に就いた女性の大半はアルバイトかパートで、最低賃金かそれに近い報酬しか手にできていません。 

 

■なぜ女性の生産性は上がらないのか 

 

 最低賃金またはそれに毛の生えたような低賃金しかもらえていないということは、付加価値の低い仕事しか任されていない実態を映し出しています。 

 

 アルバイトとパート、つまりフルタイムではない人が多いので、働いている人数は増えますが、働いている時間は正規雇用と比べて短く抑えられています。とりあえず、何らかの形で仕事についた人は増えたものの、フルに活用されていない人が増えただけというのが実態なのです。 

 

 日本人女性の能力は、男性と比較しても決して低くはありません。そのように高い能力を備えているのにもかかわらず、彼女たちの収入は20代でピークを打って、その後はずっと下がり続けてきたのがこれまでの現実です。 

 

 女性の収入水準を男性と比べると、20~24歳で86.8%になるものの、それ以降は55~59歳までずっと下がってしまってきました。結果として、日本の場合、女性の所得は男性に比べて平均55.4%にとどまってしまっています。 

 

 ちなみにアメリカの女性の所得は男性の83.0%ですので、日本でいかに男女の収入格差が開いてしまっているか、理解していただけると思います。 

 

■日本とアメリカの差は雇用形態の差 

 

 この差の最大の原因は雇用形態です。日本の女性は男性と違って、25歳から64歳まで、圧倒的に非正規雇用が多いです。2022年末では、男性の正規雇用比率は77.5%だったのに対し、女性は45.6%しかありませんでした。女性は労働力の47.1%を占めていますが、女性の非正規雇用は男性の2.2倍で、68.3%を占めていました。 

 

 

 
 

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