( 161618 ) 2024/04/20 02:09:34 0 00 岸田政権が進める「子育て支援金」には“根本的な欠陥”が見過ごされたままだという(時事通信フォト)
少子化対策に充てる費用を公的医療保険料に上乗せして徴収する「子育て支援金」の制度創設を含む関連法案が4月19日、衆議院本会議で可決したが、この制度に有識者から「待った」の声が上がっている。財政学者の小黒一正氏や経済ジャーナリストの磯山友幸氏ら29人の知識人が〈「子育て支援金」制度の撤回を求める〉と緊急声明を発表したのだ。
【全文】「子育て支援金」制度の撤回を求める緊急声明。賛同者の一覧も
この制度をめぐっては、政府は加入者1人あたりの負担額をめぐる説明の揺れが指摘されながらも、裏金問題の騒動を尻目に、するすると国会審議をすり抜けた。法案は参院に送られるが、緊急声明のとりまとめに携わった元経産官僚で政策工房代表の原英史氏に問題点を聞いた。(聞き手/広野真嗣・ノンフィクション作家)
* * * 私たちはこの制度の「見直し」ではなく、「撤回」を求めています。この制度は根本的に間違っているので、撤回しかありえません。今国会に提出された当初、政府は「実質負担増はない」「1人月平均500円弱」などと説明していましたが、その後、負担額の説明はコロコロかわりましたよね。もっと問題なのは、報道はこの金額の話ばかりに偏ってしまい、この制度の“根本的な欠陥”がまったく見過ごされたまま、法律が成立しようとしていることです。
根本的な欠陥とは何か。そもそも、医療保険は病気になった時に備える社会保険であって、「少子化対策」はその目的から外れています。しかも、現役世代に重く負担がのしかかり、少子化対策に逆行しています。
そうした本末転倒が起きる最大の原因は、国民に負担増を求める説明から政治が逃げているということにあります。岸田文雄首相は〈異次元の少子化対策〉を掲げる一方、〈増税や負担増はしない〉という矛盾した方針を打ち出しました。少子化対策をやるなら国や自治体の税財源から出すのが当然なのに、政治が議論から逃げたために、役所は〈社会保険料で取る〉という“ごまかし”のプランを仕立て上げた。要するに子育て支援金は、取りやすいところから取るという“隠蔽増税”なのです。
そうした議論が深まらなかった大きな原因のひとつに、経済団体や健保組合連合会のようなステークホルダーが沈黙していることがあります。
本来なら、社会保険料を折半することで負担が生じる企業も反対の声をあげるはず。しかし、昨年秋に内閣官房やこども家庭庁の官僚がこうした団体を軒並み回って「反対しないで」と説得して回ると、その説得が効いてしまった。これで黙ってしまうほうも情けないですが、マスコミも同じです。全国紙では加入者の負担金額の話に終始して、根本論に立ち入る批判はしていません。
じつはマスコミがちゃんと報じないだけで、野党議員は国会でじつに的確な質問をしています。ただ、何がなんでも徹底抗戦して止めさせる、という構えにならなかったのは、国民の反発が弱かったからでしょう。与党も衆議院の採決に踏み込んでも強い批判は起きない、とタカを括ってしまった。国民の反発が強ければ、与党もこんな拙速な国会運営はできなかったはず。
今回の緊急声明を主要政党には届けていますが、立憲民主党や日本維新の会からは、「なんとか撤回させましょう」と心強い反応をもらいました。参議院の議論に注目しています。
立憲民主党は、日銀が保有している上場投資信託(ETF)から出ている分配金を代替財源として活用する修正案を提出しましたが、財源の議論を始めると、議論はまとまらなくなるんです。私は増税せずに歳出削減を通じて財源を出すべきだという考え方ですが、「消費税でやるべき」という人もいれば、「資産課税でやるべき」という人もいる。国債(借金)でまかなうべきという議論もあるでしょう。
ただ、ここで誤魔化されてはいけないのですが、いずれの立場であろうと、社会保険料に上乗せして財源に充てる政府方針が間違っていることだけははっきりしている。
岸田政権は、国民がよくわからないうちにごまかし切ってしまおうという作戦のようですが、こんなものはいずれ国民に見透かされるに決まっています。バレた時に、国民の激しい怒りを買うに違いありません。そんなことになる前に、一度、立ち止まって撤回してもらい、1年かけて正面からの議論をしないと。
支持率が低いことがネックになるなら、負担が生じるような子育て支援の支出を止める選択肢もあるはずです。増税であろうと、歳出削減であろうと、どのような提案をしても反発は食らいます。その反発から逃げない政治を期待しています。(了)
【プロフィール】 原英史(はら・えいじ)/1966年生まれ。通商産業省(現・経済産業省)入省後、中小企業庁制度審議室長、規制改革・行政改革担当大臣補佐官などを経て退職。2009年に設立した株式会社政策工房の代表取締役社長のほか、大阪府・市特別顧問、NPO法人万年野党理事、外国人雇用協議会代表理事などを務める。主著に『岩盤規制』(新潮新書、2019年)、『国家と官僚』(祥伝社新書、2015年)など。
|
![]() |