( 161721 ) 2024/04/20 15:43:47 1 00 人々が結婚しなくなる理由について、現代の経済状況が大きな影響を与えているとの指摘がある。 |
( 161723 ) 2024/04/20 15:43:47 0 00 なぜ人々は結婚しなくなってしまったのだろうか。まず「なぜ結婚するのか」から考えてみよう(写真:Getty Images)
少子化は現代において自然な結果である。同時に、未婚化、独身率が上がっていることも当然の現代的現象であり、この主因は近代資本主義にある。
前者の少子化については、この連載の「『少子化は最悪だ』という日本人は間違っている」で議論したので、今回は後者の話をしよう。
■少子化の解決策が難しいワケ
近代においては、賃金労働化・都市化が進み、共同体が崩れ、核家族化・個人化が進んだ結果、社会が流動化した。商品化・市場化・資本の動員化という経済的流動化と、社会的流動化とが相互のさらなる流動化を促進した。
日本でも「イエ」制度が崩れた。しかし、流動化は中途半端だった(逆に言えば、社会の重要な部分の完全な流動化を免れた)。
そのため、戦後、アメリカに迫られた結果として(あるいはアメリカ的なカルチャー、社会の世界的流行により)さらなる流動化が生じ、戦後、社会の流動化が部分部分で異なったスピードで進んだため、さまざまな移行過程の歪みが社会の至る所で生じている。
その1つが、男女の社会における役割分担のあり方であり、移行過程の現象として、少子化、晩婚化、未婚化、離婚率の上昇が起きている。
したがって、少子化対策を局所的な反応として行っても無効であり、対策を取るなら、社会全体に働きかける必要がある。しかし、それでも社会の変化の大きな流れにはあらがえないから、効果は小さいだろう。
解決策は、この社会の構造変化の移行過程の終了を待つしかない。そのとき、現在の欧米と同じような状況になる可能性があるだろう。
ただし、それが良い社会であるかどうかは別問題である。良い社会にするためには、政策として改善を積み重ね、試行錯誤を行い、現在の社会のメンバーである、われわれが将来のために努力することが必要である。
このような構造はいわばマクロ構造であるが、それと同時に、ミクロ構造的な面においても、資本主義の発展が(終盤に向かうことにより)、人々に「結婚」という「財」を避けるように仕向けているのだ。この経済的現象としてのミクロ構造が今回の主題だ。
■そもそも人々はなぜ結婚をするのか
世間では、未婚化の理由として、貧困や経済的不安定性を挙げている。政策マーケットとしては、そのために、所得をどう支えるか、給付金を配るか、という議論ばかりしている。
これも前出の記事に書いたとおり、まったく間違っているのだが、そもそも「なぜ結婚しないのか」ではなく、「なぜ結婚をするのか」を考えるべきだ。
そのほうが生産的な議論であるのは、前提が大きく変わったからだ。昭和の(というよりも19世紀の価値観の)社会では結婚することが大前提であったが、21世紀では結婚しないことがデフォルトなのだ。「なぜ結婚する必要があるのか」という問題をクリアしなければ、結婚までたどり着かないのである。結婚しない理由ではなく、結婚する必要がある理由を探す必要がある。
では、そもそも、人々はなぜ結婚するのか。
現在においては、いわゆるおめでた婚がいちばんの理由だ。21世紀初頭に、政府の家計調査のデータを見ていたときに驚いたのは、10代および24歳までの世帯主の家計が既婚である場合は99%子供がいたという事実を発見したときだ。子供ができたならば結婚はしたほうがいいと考えた人が多かったであろう。
これに次ぐ第2の理由は、子供が欲しいから結婚するというものである。第1と第2は順番の違いだけであり、本質は同じだ。そして、その本質は、1つは「子供」というものだが、もう1つは結婚が「必需品」であるということである。
結論を先取りすれば、21世紀に人々が結婚しなくなった理由の2つのうちの1つは、「結婚」という「財」が「必需品」から「ぜいたく品」に変わったからである。
19世紀的な価値観の社会においては、結婚は必須だった。社会から、世間から、家から、強制された。しかし、今や義務ではない。
社会的な義務でない場合、結婚する理由はかつては経済的理由だった。女性は現金を稼ぐ機会が限られていたから、稼ぎのある(または資産のある)男性と結婚する必要があった。
男性は世間から結婚しないと一人前でないと見られていたから、社会的に成功するためには、結婚する必要があった。だから、結婚が義務ではなくなった昭和においても「必需品」であった。
しかし、それは平成では崩れ、結婚は「選択肢」となった。するかしないか、選べるようになったのである。「なくても生きていける、でも、あったらもっと幸せかもしれない」。人々は、幸せを増やすために結婚するかどうか考えるようになったのである。それまでは生きるための必需品だったから、これは大きな変化だった。これにより婚姻率は低下を始めた。
しかし、離婚率の上昇のほうが顕著だった。それまでは義務あるいは必需品だったものがそうでなくなったので、彼ら(彼女ら)は「結婚していない状態」を選択したのである。
しかし、21世紀に入って婚姻率の低下は加速した。その理由は何か。
結婚は「必需品」から「ぜいたく品」に変わった。しかし、「ぜいたく品」にも2種類のぜいたく品がある。それは、「ハレ」の日のぜいたく品と、「ケ」におけるぜいたく品である。結婚式はハレの日である。しかし、結婚生活は日常だ。
■現代における日常の「ぜいたく品」とは何か
現代における日常の「ぜいたく品」とは何か。これが現代資本主義の本質である。すなわち、現代資本主義における経済成長とは、日常におけるぜいたく品の膨張過程であるからである。
資本主義が1492年のクリストファー・コロンブスのアメリカ大陸到達に象徴されるように、社会経済の流動化により始まった。その後、略奪などによる資本蓄積、それらの争奪戦という戦争を経過する中で、第1次産業革命が起き、商品市場化が進むが、経済成長は目立っては起きず、それは内燃機関と電気による第2次産業革命まで待たなければならなかった。
そして、第3次産業革命といわれる現代のコンピューター、IT、AI革命は、第2次産業革命ほどの生産性の向上をもたらしていない。生活の変化も19世紀後半から20世紀前半(アメリカにおいて。欧州は少し遅れ、日本はさらにその後)ほどではなかった。
これが、アメリカの経済学者、ロバード・ゴードンの設定した、最も重要な経済成長における謎(“The Rise and Fall of American Growth”, 2016)である。これは、ローレンス・サマーズ元財務長官らとの世界金融危機(リーマンショック)後の長期停滞論の論争としてもクローズアップされた。
■第2次産業革命が決定的に重要な役割を果たした
サマーズ氏らは長期的に需要が不足していると主張し、大恐慌後の財政出動のような公共事業を主張した。一方、ゴードン氏は供給側の要因を挙げ、生産性の上昇率が低下している、第2次産業革命のインパクトに比してIT革命は広がりが小さく、供給側の要因で成長力自体が落ちており、19世紀後半から20世紀前半の奇跡の世紀は一度限りのものだと主張している。
ゴードン氏によれば、第2次産業革命の影響の広がりは、経済における生産性上昇・生活の改善において、歴史上、唯一無二のものだとし、これが奇跡の成長をもたらしたとしている。
私の考えは、第2次産業革命が決定的に重要だという点では一致しているが、その理由は異なる。
第2次産業革命により、家庭に電気が届いた。家電が生まれた。そして、「三種の神器」と言われる洗濯機、掃除機、冷蔵庫が登場し、水道、電気、ガスが家庭にネットワークとして届き、家事労働は一変した。
それまでは、家事労働ですべての時間を使っていた主婦が、それらから解放され、自由になったのである。そして、彼女たちは外に出て、賃金労働を行うことができたのである。
これは彼女たちにとって幸せであったかどうかは議論があるが、経済にとっては市場における労働力が倍増したのである。ここに生産力が高まり、経済は大きく成長・拡大したのである。この労働力の増加というのは、ゴードンが言っていることである。
しかし、もっと重要なことがある。それは「暇」が生まれたことである。これが資本主義経済を徹底的に変えたのである。家事労働から解放されて、賃金労働をするようになったが、残りの時間は「余暇」となった。
■レジャー消費で儲けることが資本主義の中心に
ここにレジャーが生まれた。このレジャー消費で儲けることが資本主義経済の中心となったのである。主役は供給側の生産者、技術革新により何が生み出せるかではなく、暇を持て余した消費者が何で暇つぶしをするのかということに移ったのである。ここに消費者主導の経済が始まったのである。
これは、現代では、部分的にはよく知られている戦いである。従来ならばテレビを見る時間をネットサーフ、動画、SNSが奪い、テレビ産業が衰退しているという話が典型である。
しかし、これは20世紀の大量消費社会を貫く、最も重要な論点なのである。買い物は、必需品を買いに行くという家事としての「仕事」から、欲しいものを買うという行為であるショッピングという「レジャー」になった。だから、必要性ではなく、華やかさや魅力が消費財における最重要要素になったのである。
そして、この余剰消費は儲かる。なぜなら、予算制約もあいまいで、欲しい理由もあいまいで、実用性もあいまいだから、うまくやれば、コストをかけずに爆発的に売れるのである。大衆・群集社会においては、ブームを作れば一攫千金となり、合理的な生産者は必需品の市場からこちらのマーケットへ殺到した。
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