( 162026 )  2024/04/21 16:25:31  
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国立社会保障・人口問題研究所の最新の将来推計人口によると、日本の人口は過去最低まで減少するといわれている。

しかし、この人口減少が日本経済や製造業にどのような影響を及ぼすかについては十分な理解がされておらず、具体的な対策も不明瞭である。

『未来の年表 業界大変化』などの書籍では、各業界での変化と人口減少への対策が提示されている。

 

 

製造業では、新規学卒者は増加傾向にあるものの、34歳以下の就業者の割合が減少している状況が続いている。

企業は中途採用を主としており、若い就業者の確保が課題となっている。

また、外国人労働者への依存が高まっており、製造業の主戦力となっている実態も浮かび上がっている。

 

 

若い就業者の減少は技術の承継を困難にし、製品や素材の熟練の技を失うことで製造業全体の勢いが衰える可能性がある。

製品企画開発部門も中高年齢化しており、新技術や新商品の開発力が衰退する恐れがある。

製造業は革新的なヒット商品を生み出すため、若い研究者や技術開発者の確保が急務である。

(要約)

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〔PHOTO〕iStock 

 

 国立社会保障・人口問題研究所が最新の将来推計人口を発表し、大きな話題になった。50年後の2070年には総人口が約8700万人、100年後の2120年には5000万人を割るという。 

 

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 ただ、多くの人が「人口減少日本で何が起こるのか」を本当の意味では理解していない。そして、どう変わればいいのか、明確な答えを持っていない。 

 

 ベストセラー『未来の年表 業界大変化』は、製造・金融・自動車・物流・医療などの各業界で起きることを可視化し、人口減少を克服するための方策を明確に示した1冊だ。 

 

 ※本記事は河合雅司『未来の年表 業界大変化』から抜粋・編集したものです。 

 

 「2022年版ものづくり白書」によれば、製造業における新規学卒者は2013年の13万人から増加傾向にあり2020年は16万5600人となっている。全新規学卒者における製造業への入職割合もこの数年は12%前後を維持している。 

 

 新規学卒者の就業が増えているにもかかわらず、34歳以下の就業者の割合が減っているのはこの年代で退職する人が多く、新規学卒者の就業が多少増えたぐらいでは穴埋めできていないということだ。増えているといっても底を打っただけで、多くの若者が製造業に押しかけていた時代のような勢いに戻ったわけではない。 

 

 34歳以下の離職者が多いことを窺わせるデータもある。独立行政法人労働政策研究・研修機構の「ものづくり産業におけるDXに対応した人材の確保・育成や働き方に関する調査結果」(調査時期は2020年12月)によれば、中途採用がメインとなっている。2017~2019年度に中途採用を「募集しなかった」企業は13.4%にとどまっているのだ。「中途採用が中心」という方針の企業は52.6%と半数を超えており、「新卒採用が中心」(21.4%)を大きく上回っている。 

 

 これは同時に、新規学卒者の採用が若干増えようが、中途採用を積極的に展開しようが、定年退職や離職者の穴を埋めるだけの人数を確保し切れていない実態を示すものである。米国と中国の対立激化などによって海外に製造拠点を移転させた企業が国内回帰を求められているが、もしそうした動きが大きくなれば人材確保はさらに厳しさを増すことになるだろう。 

 

 若い就業者が計画通り採用できず、定着もしないとなると、必然的にベテラン勢に頼ることとなる。老後の生活費不足を働くことで補いたいと考える人が増えていることも手伝って、製造業の65歳以上の就業は2012年頃から2017年まで上昇カーブを描いた。 

 

 「2022年版ものづくり白書」によれば、2002年は58万人だったが2021年は91万人にまで増えた。これは製造業全体の就業者の8.7%にあたる。日本の製造現場の1割近くは高齢社員によって支えられているのである。高齢者の就業が進んだことで、34歳以下の割合がより下がって見えている面もある。 

 

 とはいえ、高齢者の場合、健康面での個人差が大きくなり誰でも良いわけではない。加齢に伴う体調面での不調も増える。若い頃のように働けるわけではない。 

 

 

 そこで大きくなるのが、外国人労働者への依存度だ。厚労省の「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ」(2021年10月末現在)によれば、外国人を雇用している製造業の事業所は2017年の4万3293ヵ所から年々増え2021年は5万2363ヵ所になっている。 

 

 外国人労働者数は新型コロナウイルス感染症に伴う入国制限で2020年以降は微減となっているが、コロナ禍前は急増していた。2017年(38万5997人)と2019年(48万3278人)を比較しても9万7000人以上増えている。いまや日本の製造業は高齢者や外国人が主戦力なのである。 

 

 だからといって、外国人依存で乗り切ろうという発想は危うい。外国人労働者の雇用状況は水ものだからだ。先述したように他国との争奪戦が激しい時代になってきており、安定的に採用できるとは限らない。 

 

 製造の現場における若い就業者の減少は、技術の承継を困難にする。小規模や零細企業ではベテラン社員の熟練の技に頼っているところが少なくない。それは、知識というよりも経験と勘が重要であることが多く、一朝一夕に身につくものではない。就業者の世代交代がうまく機能しなければ、熟練の技が消えることはもとより、その企業の「強み」が消え、経営が行き詰まることでもある。 

 

 そうした技術の消滅は大企業の生産や開発にも影響を及ぼす。日本の製造業は、幾層もの下請け企業によって成り立っている。製品を作るのに不可欠な部品や素材を作っている下請け企業の熟練の技を失ってしまった場合、代わりは即座には見つからない。 

 

 消費者の生活を一変させるような画期的な製品はほとんど誕生しなくなり、日本の製造業は、全体としては往年の勢いがなくなった。中国や韓国、新興国の企業の台頭を許している分野が目立つことも覆い難い事実だ。 

 

 だが一方で、製造プロセスが複雑で模倣困難なファインセラミックス部材など優れた技術はいくつも存在する。「世界ナンバーワン」を誇る隠れた日本の中小、零細企業は少なくない。それは日本の経済成長にとってなくてはならない存在となっている。確かな技術に裏打ちされた熟練の技こそが、「世界ナンバーワン」に押し上げている力となっているのだ。 

 

 少子高齢化や人口減少がもたらす製造の現場の若手不足は、日本の「ものづくり」のみならず日本経済にとってのウイークポイントである。 

 

 

 製造の現場と並び、製品企画開発部門も人口減少の影響を大きく受ける。 

 

 製造業の製品企画開発に携わる専門家や技術開発者の中高年齢化は、新しいアイデアを着想する力や社会の新しいニーズを取り込む力を弱め、新技術や新商品を開発する力の衰退を招く方向へと作用しやすくなる。 

 

 資源小国の日本は今後も知恵と技術によって国を興すしかなく、人口が減少するほど技術立国であることの意味は大きくなる。製造業における技術力や開発力の劣化は、当該企業のみならず、日本という国にとっての死活問題だ。 

 

 そうでなくとも、先述したように製造業はカーボンニュートラルやDXといった事業環境の大きな転換期を迎え、製品企画や技術開発部門はその対応に追われている。高品質のものを安価で提供すれば売れた時代が終わり、各国ごとのニーズに対応したカスタマイズ製品の開発も求められている。 

 

 開発の最前線が中高年社員中心でマンネリズムの支配を許す組織文化では、若い開発者が躍動する外国企業に太刀打ちできない。 

 

 まさに各企業が総合力で勝負しなければならなくなってきており、求められるのは若者の突破力だ。そんなときに、社会や人々のニーズの変化に敏感な若い研究者や技術開発者を十分確保できないようでは勝負にならない。1990年代半ば以降の日本のものづくりの衰退の要因はここに根差していると言ってよい。このままでは、ますます革新的なヒット商品が日本から誕生しづらくなる。 

 

河合 雅司(作家・ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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