( 162356 )  2024/04/22 16:39:36  
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中小企業経営者が若手人材確保のために賃上げを余儀なくされているが、実際には経営が苦しく賃上げに余裕がない状況が続いている。

賃金UPは主にパートタイム労働者に限られ、正社員の賃上げは比較的少ない。

業種によっては運送業や建設業などで人手不足が深刻で、賃上げによる経営の厳しさやリストラの必要性も露わになっている。

大企業と中小企業の格差が広がり、中小企業の成長が必要不可欠であるとの指摘もある。

(要約)

( 162358 )  2024/04/22 16:39:36  
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若手人材確保のため泣く泣く賃上げ。本当はそんな余裕なし(47歳・経営者) 

 

 日本商工会議所が発表した資料が示す「中小企業6割賃上げ」。経営難、人手不足と厳しい局面を迎える中小企業が賃上げに踏み切らざるを得ない背景とは?現場の声を追う──。 

 

⇒【写真】とある飲食店長は「賃金UPはパートだけ。社員はカツカツで長時間労働地獄」と話す 

 

「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」 

 

 今年の年頭記者会見の岸田首相の呼びかけに呼応するように、賃上げを行う企業が増えてきている。 

 

 日本商工会議所が発表した「中小企業の人手不足、賃金・最低賃金に関する調査」によると、’24年度に「賃上げを実施予定」の中小企業は61.3%。だが、その内実は苦しい。 

 

 調査対象となった中小企業のうち「業績の改善はみられないが賃上げを実施予定(防衛的賃上げ)」が36.9%と「前向きな賃上げ」を上回る。そこには、経営的に苦しくても賃上げせざるを得ない、企業の厳しい状況が反映されている。 

 

「父から継いだ会社ですが、もうダメかもしれません」と嘆くのは、熊本県で運送業を営む岡部祐介さん(仮名・35歳)。運送業界は今年4月からトラックドライバーの労働時間規制が適応され、年間960時間を超える労働が禁止される。 

 

 ドライバーの長時間労働で人手不足を補っていた運送業界の経営サイドにとっては、苦難の年だ。 

 

「うちは、大型トラックで熊本から関西へ生鮮食品を輸送する業務がメイン。ですが、規制が適用されると、1日の拘束時間の上限が15時間となるので、荷主が指定するスケジュールでの運搬が難しくなる。 

 

 そこで一台のトラックに2人のドライバーが同乗し、交代制で運送することにしたのですが、なにせ人手が足りない。地方では破格の月給30万円正社員枠で募集しても一向に集まりません。そもそも人手を増やしてもひと現場あたりの運賃は変わらないので、経営としては大打撃です」 

 

 人手不足による防衛的賃上げは運送業界に限った話ではない。WEB制作会社を経営する磯田隆也さん(仮名・47歳)も、4月から昨年よりも月給を2万円賃上げし、求人広告を出す予定だ。 

 

「ネット広告を制作する従業員30人規模の会社ですが、うちみたいな中小企業は大手からの仕事を断れないので、常に人手不足。それで月給18万円で求人を出そうとしたら、転職サイトの担当者に『その給料では法令違反になるので掲載できません』と言われ、泣く泣く月給20万円で掲載しました」 

 

 しかし、賃上げ分を補塡するために「思いきったリストラを実施できた」という良い側面も。 

 

「正直、年収360万円の働かない中年を雇い続けるより、年収240万円の新入社員を迎えたほうが利益率はいい。最近、女性社員がベテランの男性社員にセクハラをされたと訴えてきたので、これ幸いと速攻で解雇しました。これであと2人分、人員を確保したいですね」 

 

 賃上げする中小企業が増えたといっても、そこにはこんなカラクリがある。日本商工会議所の発表によると、賃上げの対象のうちパートタイム労働者が83.3%と最多で、正社員の賃上げは25.4%にとどまる。 

 

 

 飲食チェーン店長の坂田智彦さん(仮名・42歳)も「バイトのほうが自分よりも高収入」とため息をつく。 

 

「アフターコロナで客足が戻り、ありがたいことに会社の業績は右肩上がり。しかし、私の給料はかろうじてボーナスが数万円増えた程度でほぼ据え置きです。 

 

 コロナの時短営業が完全終了したことで、勤務時間は増えていき、現在は一日17時間・月26日ほど店に立っていますが、時給換算すると1200円に満たない。一方でアルバイトは深夜時給1600円。とはいえ、今いるアルバイトにやめられたら困るので、とにかく彼らのご機嫌取りに徹しています」 

 

 建設業・不動産業専門の経営者支援を行っている髙橋朋智氏も、中小企業経営者が身を削って賃上げせざるを得ない状況に危機感を覚えている。 

 

「建設業界でも、人員が足りず従業員や現場の職人から賃上げが行われています。ただ、建設業界には家族経営の会社も多く、人手不足や経営難で店じまいする企業も増えてきています。 

 

 さらにコロナ禍で売り上げが減った個人事業者や中小企業に対して行われた、通称・ゼロゼロ融資の返済開始も会社の財政逼迫につながっています。また、建設業や運送業などに多い多重下請け構造も問題。大手企業は景気がよくても、二次、三次下請けの中小企業は適切な価格転嫁が行われていないのです」 

 

 経済アナリストの森永康平氏も、大企業と中小企業との格差の広がりを指摘する。 

 

「日経平均株価が史上最高値を更新したのも一部の大企業が好調なだけで、日本の労働者の7割が従事している中小企業にはその恩恵が巡ってきていません。多くの中小企業の利益は個人消費に大きく左右されますが、政府は家計負担を増やし、内需を冷え込ませる政策ばかり打ち出しています。 

 

 それで、『賃上げをお願いしたい』なんて都合がよすぎる。防衛的な賃上げの末に、中小企業の淘汰が進めば極端な話、韓国のように『大企業かチキン屋か』なんて格差を生み出しかねません」 

 

 中小企業6割賃上げの裏には、身を削る経営者や、そのしわ寄せを受ける正社員が存在するのだ。 

 

【中小企業診断士・髙橋朋智氏】 

office Gunshi 行政書士事務所・中小企業診断士事務所代表。元現場監督の経験を生かし、建設業・不動産業専門の経営者支援を行う 

 

【経済アナリスト・森永康平氏】 

マネネCEO。日本の景気回復には中小企業の成長が必要不可欠と主張。「⽇本中⼩企業⼤賞2023」の特別審査員も務めた 

 

取材・文/週刊SPA!編集部 写真/PIXTA 

 

―[中小企業[賃上げ現場]の悲鳴]― 

 

日刊SPA! 

 

 

 
 

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