( 164359 )  2024/04/27 15:56:47  
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2024年4月28日に、東京15区、長崎3区、島根1区の補欠選挙が行われ、これらの選挙は日本政治において重要な変革をもたらす可能性がある。

特に、岸田文雄政権の命運を左右する重要な選挙となっている。

各選挙区では候補者の争いが激しく、政治とカネの問題が取りざたされている。

補選における各政党や地域の思惑によって、選挙の多様な側面が明らかになっている。

これらの選挙は、日本政治の中間評価を示す"プチ総選挙"とも言え、岸田政権や自民党にとって大きな影響を与える可能性がある。

(要約)

( 164361 )  2024/04/27 15:56:47  
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Photo by gettyimages 

 

 2024年4月28日に、東京15区、長崎3区、島根1区の補欠選挙の投開票が行われる。この3つの補選は、令和の日本政治において「決定的な転換点」になると言っていい国政選挙である。というのもこの3補選は、すでに2年半もの長期政権となった岸田文雄政権の命運を決するものだからだ。 

 

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 しかし一口に「3補選」とひとくくりにされるこれらの選挙も、それぞれの政党や地域の思惑がからんでおり、詳細な分析によって多様な側面が見て取れる。 

 

 投開票を前に、筆者は3つの選挙区を歩いてフィールド調査を行った。それによって、永田町における「政治とカネ」の問題が発端となった今回の補選が持つ「大きな意義」が見えてきた。各選挙区の現状を分析しつつ、マクロな視点から俯瞰してみよう。 

 

元側近の告発で小池氏の学歴詐称疑惑が再燃[Photo by gettyimages] 

 

 9名もの候補者が乱立し、選挙妨害などの容疑も持ち上がっている東京15区。そもそも江東区長選挙における票の買収で、柿沢未途氏が議員辞職したことが補選のきっかけであり、ここでも「政治とカネ」の問題が関わっている。 

 

 ちなみに、柿沢氏の前にこの選挙区から出馬していた自民党の秋元司氏も、2019年にIRをめぐる収賄で東京地検に逮捕されている。その意味では、自民党にとって「いわくつき」の選挙区とも言えるだろう。「政治とカネ」問題への批判もあり、今回は候補者を立てることができなかった。 

 

 こうして「選挙違反」によって始まった東京15区の補選では、自民党候補の不在によって「野党の見本市」といった混戦に突入し、9人もの候補者が乱立する事態となった(以下、届け出順・敬称略)。 

 

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福永活也(NHKから国民を守る党公認) 

乙武洋匡(無所属、都民ファーストの会・国民民主党推薦) 

吉川里奈(参政党公認) 

秋元司(無所属) 

金澤結衣(日本維新の会公認、教育無償化を実現する会推薦) 

根本良輔(つばさの党公認) 

酒井菜摘(立憲民主党公認) 

飯山陽(日本保守党公認) 

須藤元気(無所属) 

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 しかしながら、候補者の数が多すぎるあまり、現状では争点が拡散してしまって政策面での議論が深まってはいない。また自民党候補が不在で、かつすべての候補者が「政治とカネ」の問題を取り上げれば、事実上そこでは差別化できない。 

 

 選挙戦直前に小池都知事の学歴詐称疑惑が報道され、乙武氏の過去の女性スキャンダルも蒸し返され、加えて告示日の16日には、選挙妨害ともとられる行為まであった。 

 

 そのような状況で、乙武氏への支持は伸び悩み、代わって立憲の女性候補・酒井氏へと支持のシフトがおこった。さらに21日に投開票が行われた目黒区長選で都民ファの候補が敗北したこともあり、酒井氏がさらに優勢と見られる。 

 

 

新党を結成した前原氏だが……[Photo by gettyimages] 

 

 長崎3区では、「政治とカネ」の問題が直接問われる選挙となっている。自民党のパー券裏金問題で谷川弥一衆議院議員が辞職し、その後任をめぐって選挙戦が繰り広げられているからだ。東京15区と同じく、またしても「政治とカネ」が発端になっており、こちらでも自民党は候補者を立てていない。 

 

 ただしそこには、選挙区割りにおける自民党内のデリケートな問題も絡んでいる。「一票の格差」をめぐる「10増10減」の区割りの変更の中で、この長崎3区は新2区と新3区に分割されることが決定されている。そのため、今回の補選で自民党議員が当選したとしても、将来的にその扱いが難しくなるのは目に見えていて、小選挙区をめぐって党内に亀裂が生じかねない。 

 

 そのため、今回は候補者擁立を見送るべきという声を受けて、結局自民党は候補者の擁立を断念することとなった。長崎県内の選挙区で自民党が候補者を立てなかったのは1955年の結党以来初のことであり、いかに「政治とカネ」「10増10減」の影響が大きかったかを物語っている。 

 

 そのため長崎3区では、「野党第一党を争う」といった選挙戦となっている。すなわち、山田勝彦氏(立憲民主党公認、社民党推薦)と井上翔一朗氏(日本維新の会公認、教育無償化を実現する会推薦)の2人による、「立憲」と「維新」の一騎打ちである。 

 

 注目すべきは前原誠司氏が結党した新党「教育無償化を実現する会」が初めて選挙に臨んでいる点だ。東京15区と同じくこちらでも「維新」と選挙協力しており、将来の合流をも視野に入れた選挙の実績づくり、という声もある。 

 

 しかしせっかくの協力体制で臨んでいても、山田正彦元農水相を父に持ち、比例区の議席をなげうってこの選挙に臨んだ山田勝彦氏の圧倒的な知名度を前に、今回初めて選挙に臨む井上氏は苦戦を強いられている。 

 

昨年11月に亡くなった細田博之前衆院議長(右)[Photo by gettyimages] 

 

 候補者すら立てられず、自民党にとっては始まる前から「不戦敗」が決まっている東京15区と長崎3区。岸田政権にとっては、残る島根1区がまさに「命運を握る選挙区」となっている。 

 

 ただ「政治とカネ」の問題で逆風が吹き荒れる自民党としては、ここでの「一勝」はまず間違いないと安堵していたのではないか。というのも、島根1区は小選挙区制の導入以来、これまで30年近くにわたって細田博之元衆院議長が議席を確保してきた地盤であり、「保守の牙城」といっていい(ちなみに竹島もこの選挙区に所属している)。 

 

 また島根県全体を見渡してみても、隣の島根2区には竹下登元首相、亘元復興大臣の兄弟、そして参院島根選挙区には青木幹夫元官房長官、一彦氏の親子と、まさに自民党が「保守王国」を築き上げてきた。 

 

 そのうえ今回の補選は、昨年11月に細田氏が亡くなったことにともなう「弔い合戦」でもあり、通常ならばまず間違いなく勝てるはずの選挙だ。しかしここでも、「政治とカネ」の問題が自民党に暗い影を落とす。 

 

 そもそも細田氏は、女性記者へのセクハラや旧統一教会との関係について疑惑を抱えたまま亡くなった。さらに細田氏が会長を務めていた安倍派はパー券問題の震源地でもあり、所属議員から「会長案件だった」との証言も飛び出していて、存命ならば間接的に責任が問われていてもおかしくはなかった。 

 

 そのような状況では、「細田」の名前を出すことで、かえって有権者からの反感を買いかねない。そのため島根1区では、自民党候補の錦織功政氏(自民党公認、公明党推薦)は、徹底して「細田」の2文字を口にしていない。「細田隠し」ともいえる状況だ。 

 

 しかしその代償として、「弔い合戦」という有利な構図は放棄せざるを得なくなった。自民党としては「保守王国」の地盤の力だけで勝利できるという目算だったはずだが、必ずしも知名度が高くない錦織候補にとっては、想定外の苦境であるはずだ。 

 

 そんな錦織氏を迎え撃つのが亀井亜紀子氏(立憲民主党公認)。まさに「与野党対決」の一騎打ちが行われており、その意味で選挙結果が「岸田政権の評価」に直結する構図となっている。 

 

 今回の3選挙区の中で最重要と言えるため、与野党の大物が東京から応援に駆けつけて激しい選挙戦を繰り広げた。実際に21日の日曜日には、自民党からは岸田首相、立憲民主党からは泉健太代表が応援演説に立っている。 

 

 しかしながら、首相の演説を聞いてみると、島根の有権者に対して「政権継続か否か」という踏み絵を迫るものであり、地元の争点に対してはあまり言及していなかった。つまり島根1区は、「岸田政権の評価を決める与野党の代理戦争の地」となっていて、ある意味では地元の問題が棚上げされていることを如実に表している。 

 

 対する立憲の泉氏は有利に選挙戦を展開していて、連合の芳野友子会長まで応援に駆け付けていた。亀井氏の父・亀井久興も駆けつけたことで、2世で知名度も勝る亀井氏の優勢が伝えられるが、錦織氏が「保守王国」の利点を生かしてどこまで追い上げるかがカギである。 

 

 

 こうしてそれぞれ特色ある選挙が、東京15区、長崎3区、そして島根1区で展開されている。それぞれの選挙区ごとに対立の構図や政策の争点は異なるが、俯瞰してみれば「政権の中間評価」を提示する「プチ総選挙」といえるだろう。 

 

 政権与党の自民党は、東京と長崎で「不戦敗」となるのは確実で、有利であると考えられていた島根1区においても「苦戦」を強いられている。ある意味で、島根1区の勝敗だけが「岸田政権の評価」を直接表しているが、他の2選挙区においても自民党を中心とした「政治とカネ」の問題への批判が根強いことは明らかである。 

 

 4月28日の投票日まであとわずかである。今回の選挙結果が、岸田政権の行く末や解散総選挙の有無、さらには9月に行われる自民党総裁選の結果に大きな影響を与えることは間違いない。これらの選挙区で有権者が何を選ぶのか。候補者間で死力を尽くした論戦が展開され、有権者の判断が正しく提示されることを祈る。 

 

白鳥 浩(法政大学教授) 

 

 

 
 

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