( 164784 )  2024/04/28 16:54:43  
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アジア経済において、1980年代のシーンが再び現れつつある。

例えば、トランプ前大統領が再び関税政策などを掲げていることや、円安が進む可能性があることが挙げられる。

また、現在のドル高はアジアにとって懸念材料であり、過去のアジア通貨危機などを引き起こす可能性がある。

アジア諸国はドル高に対処しなければならないが、通貨安競争は避けるべきだ。

また、通貨安は経済力を低下させる可能性があり、日本の失敗を受けて他国が同様の政策を繰り返さないよう警鐘を鳴らしている。

(要約)

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1980年代のシーンがアジア経済にプレイバックしている。もちろん、悪い意味でだ。 

 

このタイムワープ現象の最もわかりやすい例は、11月の米大統領選で返り咲きをめざすドナルド・トランプ前大統領が、40年前ならうまくいったかもしれない政策を「再び偉大」にしたがっていることだ。トランプの公約の目玉は、中国からの輸入品に一律60%かそれ以上の関税を課すというものだ。さらに、一部の輸入自動車に対して100%の関税をかける意向も示している。中国メーカーのメキシコ生産車を念頭に置いた発言だが、日本や韓国の自動車メーカー幹部もおびえているかもしれない。 

 

しかし、80年代を彷彿させる動きはそれだけではない。アジアの通貨安である。 

 

日本の円を見るだけでいい。40年近く前、当時ビジネスマンだったトランプは、ドルに対する円の安さにいきり立った。彼に言わせれば、日本と円安は「米国の血をせっせと吸い上げる」邪悪な存在だった。今日のトランプの世界観では、中国が同じ役割を果たしている(編集注:トランプは最近の円安・ドル高についても米国の製造業などにとって「大惨事」だと批判している)。 

 

ここで、トランプがかつてニューヨークのプラザホテルを所有していたというのは何やら暗示的だ。1985年、このホテルで結ばれた現代史上最も重要な通貨協定、通称「プラザ合意」によって、円は急騰し、米国は貿易で大きく有利になった。トランプがその「ディール術」によって中国の習近平国家主席と「米中版プラザ合意」を成し遂げ、世界秩序をつくり変えると考えていても驚くべきではない。 

 

とはいえ、11月5日の選挙を前に、最も重要な80年代回帰はプラザ合意の方向とは逆のものだ。プラザ合意の翌年ごろにつけていた1ドル=170円の水準まで、円安が進む可能性が出ていることである。 

 

資産運用大手ティー・ロウ・プライスやその他金融サービス企業のアナリストらは、日本の財務省と日本銀行が円安を容認するなか、円相場は28日現在の1ドル=158円台から、この水準までさらに円安が進む可能性が高まっているとみている。円はすでに年初から12%、過去1年では14%超も下落している。 

 

もっとも、問題は財務省・日銀の無為無策だけではなく、根強いドル高にもあるのも確かだ。 

 

 

極端なドル高のエピソードはアジアにバッドエンドをもたらしがちである。最も痛々しい例が、1997年のアジア通貨危機だ。この通貨暴落も、現在のドル高の背景にあるのと同じ動き、つまり米連邦準備制度理事会(FRB)による積極的な金融引き締めが原因のひとつだった。 

 

FRBが1994~95年に進めた利上げサイクルによって、アジア諸国の通貨は試練にさらされることになった。この間、アラン・グリーンスパン議長率いるFRBは、短期金利を1年で2倍に引き上げた。その結果、ドル相場は数年にわたって上昇し、アジア諸国の通貨はドルとのペッグ制を維持できなくなった。まずタイが1997年7月、バーツのペッグ制放棄と切り下げに追い込まれた。すぐにインドネシアや韓国もそれに続いた。 

 

今回もジェローム・パウエル議長のFRBが金融政策の急ブレーキをかけ続け、ドルを急騰させている。FRBは年内は利下げしそうにない。アジア各国の政策当局者は年初時点では、FRBは今年5回以上の利下げが既定路線だと考えていた。現在はインフレ懸念がくすぶるなか、利下げは1回もしないかもしれないという話になっている。 

 

そのため、急騰するドルによる「引力」はますます強まっている。これはアジアの輸出主導型の経済国にとって最もありがたくないものだ。どういうことか。 

 

たとえば中国の人民元は、資本がドル資産に引き寄せられるなか、下落圧力がかかっている。年初来2%という人民元の下落は、円と比べればかわいいものだが、中国経済にとって目下、最大のリスクのひとつを悪化させかねない。巨大な不動産開発会社のデフォルト(債務不履行)である。 

 

元安が進むほど、中国恒大集団のような中国の不動産開発大手は外貨建て債務の支払いが難しくなる。また、元安の進行は、米国で向こう半年、トランプに忠誠を誓う共和党とジョー・バイデン大統領の民主党が激しくぶつかり合うなか、中国を選挙戦の争点に押し上げるリスクも高めるだろう。 

 

元安が進めば、民主党と共和党は、中国のバイトダンスの「TikTok(ティックトック)」に対する取り締まりの場合よりも早く、中国に対して同じ姿勢をとるようになるだろう。習指導部は元相場に関して、円との「底辺への競争」への誘惑には抗ったほうが賢明だ。タイのバーツやインドネシアのルピー、韓国のウォンも、こうした通貨安競争は避けるべきだろう。 

 

 

習が元の切り下げに注意すべきもう理由はもうひとつある。日本の失敗を繰り返さないようにすることだ。通貨安はとくに、政治家や企業経営者から国の経済力を高めようとする意欲をそいでしまう。 

 

1998年以降、日本の舵取りをした歴代12政権のいずれかが、通貨安よりも規制緩和、労働市場改革、生産性向上、女性へのエンパワーメントに優先的に取り組んでいたら、日本は今ごろどうなっていただろうか。 

 

また、日本企業のトップたちが、ゼロ金利やマイナス金利に頼らずに経営しなくてはいけなかったとしたら、どうなっていたか? 史上最も手厚い企業保護が提供されたために、日本の企業経営者たちは構造改革やイノベーション、リスクテイクへのプレッシャーを感じずによくなってしまった。 

 

日本がもし25年にわたってアルゼンチンのような通貨政策をとらなければ、2024年にどうなっていたかは、今となってはよくわからない。だが、中国や途上国などが日本の怠慢から汲むべき教訓が何かは、はっきりしている。 

 

とはいえ、2024年のアジア経済は、ドルの独歩高によって債券市場や株式市場から大量に資金が流出し、激しく揺さぶられている。止まらないドル高は、世界的にインフレリスクが高まるなか、各国通貨に下押し圧力もかけている。 

 

 そして、日本から米国まで、80年代を想起させるような通貨シナリオが舞い戻っている。年末にかけて、世界の市場は波乱含みになりそうな雲行きだ。 

 

William Pesek 

 

 

 
 

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