( 165401 )  2024/04/30 16:02:42  
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4月28日の衆院補選では、長崎3区、島根1区、東京15区での結果が報告された。

立憲民主党の候補が勝利する中で、自民党や公明党も影響を受けた。

小池知事や岸田首相の政治的立場も揺らいでおり、自民党内には岸田首相に対抗できるライバルの不在が指摘されている。

政権交代の雲行きが濃くなる中、7月の都知事選と衆院選に向けて、政治の行方が注目されている。

(要約)

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Photo by gettyimages 

 

 4月28日投開票の衆院補選は、大方の想定通りの結果となった。長崎3区では山田勝彦氏が勝利し、島根1区では亀井亜紀子氏が議席を確保した。東京15区では、昨年12月の江東区長選で一時は勝利が見えながらも、小池百合子東京都知事が応援した大久保朋果区長に負けた酒井菜摘氏が始終安定の戦いぶりを展開し、ついに勝利を掴んだ。 

 

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 長崎3区の山田氏は現職の衆院議員であり、島根1区の亀井氏は参院議員と衆院議員だった経験がある。そしてともに父親が国会議員だったこともあり、その名前は地元で十分に浸透している。 

 

 一方で山田氏の対抗馬となった井上翔一朗氏は名前が浸透せず、亀井氏の対抗馬の錦織功政氏にはさらに派閥のパーティー券問題をめぐる「政治とカネ」の逆風が吹いた。今回の衆議院補選では全選挙区で立憲民主党の公認候補が勝利したが、立憲民主党が強かったわけではない。 

 

 9人の候補が濫立した東京15区はさらに複雑だった。自民党は当初、小池知事が応援する乙武洋匡氏を推薦するつもりだったが、乙武氏は4月8日の出馬会見で「どこにも推薦要請しない」と言明した。 

 

 これは、「政治とカネ」問題にまみれた自民党と同列になることを嫌った国民民主党から支援を得るための方策だったようだが、これに地元の自民党が反発した上、自民党自身の面子も傷つけられた。その結果、自民党本部は乙武氏の推薦を見送った。 

 

 公明党は当初から乙武氏の推薦に消極的だった。選挙活動部隊である創価学会女性部が、乙武氏の過去の女性スキャンダルを嫌ったためだ。それ以前に、公明党には「小池離れ」の様相が見られた。4月21日投開票の目黒区長選だ。 

 

小池百合子都知事[Photo by gettyimages] 

 

 多選批判に晒されていた青木英二区長は6期目の当選を決め、小池知事が応援した伊藤悠前都議は落選した。伊藤氏は2021年の都議選で、2万3117票を獲得しトップ当選を果たしたが、区長選では2万369票と2748票も減らしている。同区内には約1万票の「公明票」が存在するが、それらが動いた様子はほとんどない。 

 

 だが翌月曜日に「変化」が見られた。ある公明党関係者から筆者に、「東京15区で女性部の一部が動き出した」との連絡が入った。おそらく小池知事が応援を懇願したのだろう。 

 

 しかし効果はなかったようだ。実際に乙武氏が獲得したのは1万9655票で、知事と区長が応援に入ったにもかかわらず、2万票にも満たなかった。そして立憲民主党の酒井氏に当確が打たれた4月28日午後8時、重い空気が漂う乙武氏の選挙事務所で小池知事の姿を見た者はいなかった。 

 

 7月に行われる都知事選の前に、“女帝”の命運は尽きようとしているのか。小池知事の堅固な力に影を落としたのは「学歴詐称疑惑」を報じた文藝春秋5月号で、同号にかつての側近の小島敏郎氏やカイロ時代のルームメイトの北原百代氏が事実を綴った手記を寄せている。 

 

 コロナ禍を理由に逃げ回ることができた2020年の都知事選と今とでは、もはや事情が違う。今回の都知事選を前に、小池知事は大きな覚悟を迫られるはずだ。その前兆として公明党の“離反”があるのだとしたら、都内にある約80万票の“創価票”の行方はこれからどうなるのか。非常に興味深い。 

 

 

岸田文雄首相[Photo by gettyimages] 

 

 小池知事と同様に、岸田文雄首相も足元がぐらつきを見せている。 

 

 岸田首相は投開票前日の4月27日、自民党が補選で唯一候補を擁立している島根1区に入った。しかし自民党の公認候補である錦織氏は、初めから立憲民主党の亀井氏に大きく遅れをとっており、最終盤でも挽回不可能と見られていた。 

 

 総理大臣には「負け戦には参加しない」という暗黙のルールがあるが、その禁を破っての岸田首相の島根入りだった。 

 

 なぜ岸田首相はあえて禁を犯したのか。一般には「地元から応援要請があったから」とされているが、実はそうではないようだ。そもそも総理大臣の移動にはコストがかかり、警備上の事前調査も必要になる。受け入れ側にとって面倒なことこの上ない。 

 

 にもかかわらず、岸田首相が島根入りを強行したのは、「同日に島根入りした立憲民主党の泉健太代表に負けたくないため」と言われているが、実際には「島根入りすれば票が伸び、たとえ負けたとしても、岸田首相の存在感が増す」と囁く声に応じたというのが真相のようだ。 

 

 岸田首相の念頭には常に「政権の延命」がある。9月の総裁選を前に衆議院を解散し、選挙で負けてはいないことを党内外に見せつける必要があると信じている。 

 

立憲民主党の泉健太代表[Photo by gettyimages] 

 

 それを阻むのが自民党が始終劣勢の衆院補選だが、岸田首相は「たとえ3敗になったとしても、それは自民党に対する国民の不満を表したもので、全敗した方がガス抜きになって良い」と楽観的だと伝わっていた。 

 

 実際に党内には岸田首相を脅かすほどのライバルは存在しないし、岸田首相が全面的に信頼できる側近がいない。かつては木原誠二自民党幹事長代理が岸田首相の懐刀と思われていたが、最近ではそうでもないとも言われている。 

 

 それを端的に表したのが、4月25日に木原氏が都内で「政権交代が起こっても不思議はない」と発言したことだろう。混乱している自民党の現状を示す客観的な発言だが、それも岸田首相には届いていないようだ。 

 

 そもそも「総理大臣は負け戦には入らない」という暗黙のルールを破って劣勢の島根入りをすること自体、「聞く耳を持たない」証拠でもある。おそらく岸田首相の耳に入るのは、都合の良い言葉ばかりなのだろう。 

 

 衆議院選挙になれば億単位の金が動くが、おそらく岸田政権に見切りを付けた一部の勢力が、「去り際の駄賃」を得るために囁いているのだろう。さっそく自民党は所属国会議員に対する「支部政党交付金」を前倒し支給する上、「氷代」の200万円に100万円を上乗せするようで、解散へ準備が着々と整えられている。 

 

 一方で3選挙区で全勝した立憲民主党は意気揚々。政権奪取のチャンスとばかり、自民党に攻勢をかけている。だが立憲民主党に追い風は吹いてはいない。自公と日本維新の会が自ら沈んだ結果として、たまたま浮上したに過ぎない。 

 

 主要政党が振るわない中、東京15区では新しい勢力が選挙戦に参加した。しかし彼らは混乱を与えただけで、有権者に希望が見える展望を示せなかった。ある有権者はこう言い捨てた――「自公が参加しない選挙は、こんなものでしょ」。 

 

 政治不信はますます深まっているが、まずは7月の東京都知事選、そして解散総選挙で、それは払しょくできるのか。岸田首相、小池知事の罪は深い。 

 

安積 明子(政治ジャーナリスト) 

 

 

 
 

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