( 165811 )  2024/05/01 16:29:07  
00

JR芸備線が再構築協議会の対象となり、自治体との対話が不調のために強制的に協議が開始された。

芸備線は極度に不振であり、代替交通が便利であることが明らかにされた。

現在、自治体とJR西日本の意見の隔たりが大きく、再構築協議会では自立を促す方針がある。

地域の資金負担や取り組みが必要とされており、存続には相応の努力が求められている。

(要約)

( 165813 )  2024/05/01 16:29:07  
00

芸備線の車両。備後西城駅にて Photo by Wataya Miyatake 

 

 赤字路線の存続やバスへの転換などを話し合う「再構築協議会」の初会合が3月26日、広島市で開かれた。国はこの協議会にどのような役割を期待しているのか。なぜ、広島県と岡山県を結ぶJR芸備線が再構築協議会の適用第1号となったのか。(乗り物ライター 宮武和多哉) 

 

【この記事の画像を見る】 

 

● 膨大な「ローカル線の赤字負担」 JR東日本とJR西日本で約900億円! 

 

 JR東日本とJR西日本は、1日の平均乗客数2000人未満の線区の収支を開示している。それぞれの収支を総計すると、JR東日本(開示は34路線62区間、2022年度分)は648億円の赤字、JR西日本(同17路線30区間、20~22年度の3カ年平均)は237億円の赤字である。 

 

◆参考情報 

JR東日本 

ご利用の少ない線区の経営情報(2022 年度分)の開示について 

JR西日本 

輸送密度 2,000 人/日未満の線区別経営状況に関する情報開示 

 JR東日本とJR西日本の決算(23年3月期)から運輸事業の収益を確認すると、JR東日本が240億円の赤字、JR西日本が244億円の黒字である。こうした状況も含めて、ローカル線の赤字が鉄道事業の採算を左右するといっていい。 

 

 しかし、JR各社が赤字を減らそうにも、鉄道路線の見直しや廃止には地元の反発が付きまとい、協議が長引く間に経営状態が悪化するという悪循環に陥るケースも多い。民間企業として抱えるには重すぎる鉄道各社の負担に手を打つべく、国は「再構築協議会」という枠組みを設置。その第一弾として、広島県と岡山県を走るJR芸備線・備後落合駅~備中神代駅間(68.5km)に関する協議がスタートした。 

 

 3月26日に広島市で開かれた第1回協議会には50社以上の報道陣が集結するなど、各社の関心の高さがうかがえた。国土交通省は、再構築協議会にどのような役割を期待しているのか。そして、芸備線はなぜ再構築協議会の適用第1号となったのか。 

 

 

● 第1号がJR芸備線となった最大の原因は 「自治体が肝心な対話を拒否した」から 

 

 再構築協議会の適用第1号が芸備線となった最大の原因は、極度に不振な営業成績だ。最も客数が少ない区間では1日平均13人(1日3往復、1便当たり2人強)、対象の備後庄原駅~備中神代駅間では、実に7億円もの単年赤字を出している。なお、100円の営業収入を稼ぐための費用(営業係数)は、一部区間で1万5516円に上る(20~22年平均)。 

 

 次の要因は、地元自治体(広島県庄原市、岡山県新見市)の姿勢にある。JR西日本は21年に「芸備線存続の前提を設けない協議」を沿線地域に申し入れ、任意での協議を何度か行ったものの、自治体側が「今後は利用促進以外の協議を行わない」(存続・廃止に関わる協議を排除する)という方針を示した。困り果てたJR西日本は議論の場を作るべく、再構築協議会の設置を国に要請するに至ったのだ。 

 

 なお、再構築協議会は法的協議会であり、これまでと違って参加応諾義務が生じる。芸備線が再構築協議会の対象となった経緯をまとめると、「自治体が肝心な対話を拒否したため、話し合いのテーブルに強制的に着くことになった」というわけだ。 

 

● 実は代替交通の方が便利になる? 感謝もされないJR西日本の徒労感 

 

 国土交通省は、鉄道の存続・廃止にこだわらない協議を再構築協議会で進めようとしている。赤字を出すローカル線は、運転本数や設備面などで公共交通としての機能が落ちている。まず、鉄道の必要性が検証された上で、路線バスやスクールバス、タクシーなども巻き込んで地域交通全体を再構築し、鉄道の利便性を落とさずに転換後の交通に引き継いでいくのが狙いだ。 

 

 こうした全体像を描くことで、その場しのぎの補助でなく、地域交通が本当に長期存続するための実効性が伴う支援を行うことができる。実際、ローカル線の現場では、格安な予約制タクシーの運行(青森県・津軽線)や、高速バスとの共通乗車(徳島県・牟岐線など)など、鉄道より利便性が向上する施策が行われている。 

 

 芸備線は、再構築協議会で鉄道の実態が議論されると、代替交通の方が便利な実態が明らかになりそうだ。実は、今回の議論の対象区間(備中神代駅~備後庄原駅間)は、鉄道としての機能低下が著しく、存在意義が薄い。 

 

 まず、乗客が多い備後西城駅~備後庄原駅でも、通学時間帯にバス1台で事足りる程度の利用しかない。主要な総合病院、高校、商業施設の集積地は駅から遠く離れており、地元の備北交通と西城交通の路線バスがこれらの目的地をカバーしている。通院時間のバスはそれなりに乗客がいるのに、列車の乗客がいないのは、街の機能が駅から離れているからだ。 

 

 かつ、東城駅~備後庄原駅間は、高速道路を経由する乗り合いバスより大幅に遠回りで、所要時間はバスの倍かかる(鉄道は線路状態が悪く、一部区間の最高速度が15km)。役に立たない赤字路線を運行し続け、感謝もされないJR西日本の徒労感は、年間7億円の赤字以上に計り知れないものがあるだろう。こういった現状は、再構築協議会の公開資料にもぎっしり記載されているので、興味がある人は読んでみるといいだろう。 

 

 

● 芸備線の存続は不可能なのか?  やろうと思えばできるシンプルな一手 

 

 芸備線に関する再構築協議会で、赤字を何とかしたい国やJR西日本に対して、沿線自治体は以下のように主張した(筆者要約)。 

 

 ・JR西日本はもうかっていて、24年3月期の連結営業利益は1400億円に上る見込みだ。7億円の赤字を内部留保で補填できないことに、詳細かつていねいな説明を求める 

・不動産事業などの利益で鉄道事業の赤字をカバーすれば良い。さらなる経営情報の開示を求める 

・鉄道存続に必要なファクトとデータはあり、手応えを感じている(筆者注:具体的な数字は言及していない) 

 

 再構築協議会が始まる以前の主張に輪をかけた、集まった報道陣の一部もあきれるような内容だった。現状、両者の隔たりは非常に大きい。 

 

 それでは、芸備線の存続は不可能なのか? 実は、そうとも言い切れない。各地でローカル線が存続する事例も出てきている。代表的なのが下記の2例だ。 

 

 ・JR只見線(福島県~新潟県) 

豪雨災害により長期運休していた区間の復旧で県と市が約60億円を負担、上下分離(設備を自治体が保有。鉄道会社側の維持費用や税金の負担がなくなる)。再開後も年間3億円の運行経費を自治体が負担 

 

 ・JR城端線・氷見線(富山県) 

JR西日本から150億円を拠出、プラス県の負担で車両・設備を改良し、3セク私鉄(あいの風とやま鉄道)に移管 

 

 鉄道存続へのシンプルな一手は、「自分たちで責任を持ち、資金を負担する」ことだ。高確率で存続を勝ち取れる上に、国の補助やJRからの資金面・運営面でのサポートを得ることもできる。 

 

 ところが、芸備線の場合は、億単位の予算がかかる鉄道のブラッシュアップを避け、数百万円規模でできる利用促進イベントと愛着のアピールに終始し、減便の度に嘆くだけだった。鉄道存続を勝ち取った地域と比べると、他力本願と言わざるを得ない。 

 

 再構築協議会は、自治体のこうした他人任せマインドを断ち切り、自立を即する狙いもあるだろう。繰り返しになるが、地域が資金を出して鉄道運営に汗をかけば、ローカル線であろうと生き残る可能性は高い。 

 

 再構築協議会の前から芸備線の乗客増へのアプローチは行われているものの、「高校生22人に定期券1カ月分を配布も、鉄道通学に切り替えたのは2人」だったり、「イベントで1000人集客も、芸備線で来訪したのは70人」だったりと、全くパッとしない。実際、断続的な増便実験(通勤・通学時間帯の増発など)を行っても定着しておらず、自治体が言う「芸備線存続に必要なファクトとデータ」が積み上がっているとは、とうてい思えない。 

 

 協議会が開催される3年間で、状況を覆す数字を出せるのか。もしくは無条件での優遇(内部補填)を求める姿勢を変え、鉄道への愛着を資金負担で示して存続を勝ち取るのか。際限がないローカル線の赤字補填に悩むJR各社はもちろん、ローカル線の存続に悩む地方自治体も、再構築協議会の行方を見守っていることだろう。 

 

宮武和多哉 

 

 

 
 

IMAGE