( 166201 )  2024/05/02 17:11:07  
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ゴールデンウィークに海外旅行を計画する人が増えており、円安による物価の上昇や為替介入について政府の対応が注目されている。

日銀や財務省の動向が市場の予想を超える為替変動を引き起こす可能性があるが、長期的な効果を期待できるかは不透明である。

円安の影響は海外旅行者や日本国内の物価にも及び、経済界では懸念が広がっている。

日本の経済や社会における円安の影響や今後の動向が注目される中で、円安の問題への対応が求められている。

(要約)

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 今年のゴールデンウイーク(GW)は久しぶりの海外旅行を計画している人もいるだろう。大手旅行会社によると海外旅行に行く人は前年比67.7%増となり、コロナ禍前の9割程度まで回復すると推計されている。旅行意欲とともに高まるのは円安に伴う物価高の影響だ。政府は4月29日に為替介入に踏み切ったとみられるが、日米金利差を踏まえれば効果は限定的と言える。経済アナリストの佐藤健太氏は「為替介入は『時間稼ぎ』に過ぎず、1ドル=160円を超える円安は定着していくだろう」と見る。 

 

「為替相場の動向、為替介入については、その有無も含めてコメントは差し控える」。岸田文雄首相は3連休明けの4月30日、記者団からの円買い介入に関する質問に言葉を濁した。 

 

 日本が祝日の「昭和の日」を迎えた4月29日、通常通り取引されていた海外の外国為替市場では午前10時半すぎ、円相場が一時1ドル=160円台をつけた。1990年4月以来34年ぶりだ。しかし、午後1時すぎから急速に円高方向に転換し、その後は1ドル=154円台まで値上がりした。対ドルで6円近い急速な円高に市場関係者は「節目とみられた160円を超えたところで日本政府・日本銀行が為替介入に踏み切ったのだろう」と見ている。 

 

 言うまでもないが、為替相場はマーケットの需給で決定される。だが、短期間の急激な変動や不安定化は好ましくないとされ、通貨当局は相場安定を目的に為替介入を実施する。 

 

 たとえば、2023年2月に財務省が公表した実施状況によると、2022年10月21日に5兆6202億円、同24日に7296億円の為替介入に踏み切っている。実施の有無を公表しない「覆面介入」だ。この時は同21日に7円超、同24日には4円以上も円高に振れている。ただ、最近の円安は日本と米国の金利差が主要因であり、この際も限定的な効果しかなかった。 

 

 海外投資家や日本の通貨当局による今後の対応が注目されるところだが、今回の「覆面介入」とみられる為替変動も一時的なものに終わるだろう。円相場は4月26日金曜日に1ドル=158円台まで円安が進行したが、これは同日の日銀による金融政策決定会合がきっかけだった。会合後の記者会見で、植田和男総裁は円安進行に対する具体的な言及を避け、むしろ「容認」するような姿勢を見せた。 

 

 

 日銀総裁の会見中に円売りの動きが加速し、「日本は動かない」との消極的なメッセージと受け止められたのだ。 

 

 円安進行への懸念を表明してきた鈴木俊一財務相も米国のイエレン財務長官に「(為替介入は)例外的な状況」などとクギを刺される始末で、円安是正の手は限られる。たとえ、2022年の時と同じように為替介入に踏み切ったとしても、その根本原因を取り除かなければ一時的な変動で終わることが目に見えているのだ。 

 

 市場との神経戦が激しさを増す中、財務省の神田真人財務官の対応には失礼ながら笑ってしまった。祝日の4月29日に財務省に殺到したマスコミから質問を浴びせられた神田氏は「介入の有無は申し上げることはない。今はノーコメントで」とはぐらかした。ただ、円相場の動きには「今、作業している」と応じている。 

 

 鈴木財務相が重ねる「口先介入」で効果が見られず、日銀総裁も現在の円安を「無視」できるとする中、財務官僚として「作業中」と答えたのはユニークだ。年初来で10%超も安くなり、投機的な激しい変動が経済にもたらす悪影響は看過できないという気持ちを表したかったのではないか。今後の円相場の動向とともに、5月末にも発表される為替介入の状況が見物だ。 

 

 とはいえ、足元の円安が人々に与える影響は少なくない。円安は海外からの仕入れ価格上昇を招き、物価上昇につながる。2023年度平均の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年度から2.8%上昇したが、さらなる円安進行が物価上昇にあえぐ国民に追い打ちをかける可能性がある。 

 

 海外旅行に向かう人々も大変だ。対ドル相場で史上最高値となった2011年10月31日、1ドルは75円32銭だった。1万円札を出せば約132ドルと交換できた。だが、現在は約64ドル(1ドル=155円換算)に過ぎない。JTBが4月4日発表したゴールデンウイーク旅行動向によれば、海外旅行者数は前年比67.7%増になると推計されているが、総消費額は75.6%増だ。円安の影響をもろに実感するだろう。 

 

 海外に行かなくても円安進行によるデメリットを感じるはずだ。3月の訪日外国人旅行者は初の300万人を突破し、1カ月としては過去最多となった。円安基調は外国人から見れば「お得」に映るのは言うまでもない。 

 

 

 外国からお金を日本に落としてもらっているという意味ではメリットもあるが、外国人観光客の急増によって「外食」や「宿泊」の際の価格が上昇していることを感じるのではないか。海外旅行に行かなくても、円安によるデメリットを実感する機会は少なくない。 

 

 輸入物価上昇による悪影響には経済界からも悲鳴が上がっており、経済同友会の新浪剛史代表幹事は「企業の努力の効果がなくなる可能性があり、大変危惧すべき状況だ」と懸念を示し、日本商工会議所の小林健会頭も「困る度合いが日に日に高まってきている」などと困惑を隠せない。 

 

 円安の進行によって、日本の名目GDP(国内総生産)は2025年にもインドに抜かれ、世界5位になる見通しだという。円安の主要因である日米の金利差を縮小するためには米国の利下げ、日本の利上げが必要となるが、日銀が追加利上げに踏み切れば企業の借り入れ金利や住宅ローン金利の上昇につながるといった影響も予想される。 

 

 円安は「アベノミクス」の1本目の矢である大規模金融緩和から進行してきた。当時の日銀総裁である黒田東彦氏は4月29日、春の叙勲で瑞宝大綬章を受章することになったと発表された。アベノミクスは円安とともに株高を誘引してきたが、その後の着地点がどこに向かうかは定まらないままだ。企業や国民の「準備」も十分ではない。 

 

 今春闘は、平均賃上げ率が33年ぶりに5%台突破という高水準が予想されている。岸田文雄首相は「日本においては30年ぶりに経済の明るい兆しが出てきた」などとアピールしているが、帝国データバンクが実施したアンケートによれば7割近い企業は「5%」に届いていないことがわかる。大企業は満額回答が相次いだものの、小規模事業者では恩恵が得られていない。 

 

 少子高齢化が進み、国力も失われていく中、急速に進行する円安に政府・日銀が打てる手は乏しい。岸田首相は「分厚い中間層」を目指して格差是正を掲げるものの、貧富の差はますます広がっていくように見える。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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