( 167429 )  2024/05/06 15:04:38  
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国会で審議されている重要な制度改正が報道されておらず、育成就労という新しい制度が提案されている。

この制度改正により、永住者の増加や外国人労働力の受け入れが進む可能性がある。

現行の技能実習制度が廃止され、新しい制度に変わることで、日本の移民政策に大きな影響を与える恐れがある。

外国人労働者の受け入れには様々な対応が必要であり、経済成長との関連も議論されている。

一部の経済で外国人労働者を受け入れることが賃金上昇率を低下させる可能性も指摘されている。

経済学者である高橋洋一氏は、外国人受入において相互主義を導入することが重要であり、制度改正には慎重な見直しが必要だと訴えている。

(要約)

( 167431 )  2024/05/06 15:04:38  
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photo by gettyimages 

 

 衆院補選の間に、実質「移民法」とも言える、重要な制度改正が国会で審議されていた。これについては大々的に報道されていない。 

 

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 これらの報道では、技能実習法と出入国管理法などの改正とし、「技能実習」を廃止し「育成就労」とするとしている。 

 

 育成就労は試験などの条件を満たせば最長5年就労できる特定技能「1号」、その後に在留資格の更新に制限がない「2号」になることも可能だ。「2号」は家族を帯同でき、将来は永住権も申請できるとしている。 

 

 これで、永住者は増加するので、税金や社会保険料の未払いなどがある永住者について、国内での在留が適当でないと判断すれば許可を取り消すこともできるようになる。 

 

 一見すると、今の悪名高い「技能実習」がなくなるので、いい改正にみえる。もっとも、これまでの「技能実習」は、「国際貢献」を建前として、本音は「安価な労働力としての外国人受入れ」だったが、今回の改正で、本音が前面に出てきただけだ。 

 

 筆者が思うに、酷いのは、育成就労(前の技能実習)から特定技能、さらに永住権という流れだ。この流れがあるので、筆者から見ると、今回の技能実習法と出入国管理法改正は、実質移民法に見えるわけだ。 

 

 先進国なら、外国人の受入は、短期と長期に峻別されている。それが、今回の改正では、育成就労(前の技能実習)から特定技能、さらに永住権という流れがあり、その間に試験等の条件があるとはいえ、短期と長期の峻別がなし崩しになっている。 

 

 他国の例では、こうした条件はいつのまにか形骸化している。たとえば、大学卒業資格としても、現在問題になっている小池都知事のカイロ大卒業問題のように、相手大学が卒業といえば卒業とせざるを得ない。それが高じると、大学学位を大量に発行する「大学」も出てくる。世界の制度は国によって様々で日本と違うため、形式審査では防ぐことができない。 

 

写真:現代ビジネス 

 

 今回の制度改正のベースになっているのは、昨年11月30日に出された法務省の報告書である。 

 

 その中で筆者が「奇妙」に感じたのは、「外国人材に我が国が選ばれるよう、・・・新たな制度から特定技能制度へ円滑な移行を図ること」「外国人との共生社会の実現を目指すこと」と記されている点についてだ。 

 

 根本的に言えば、外国人に日本が選ばれるようにカネをばらまくのではなく、日本が外国人を選ぶようなシステムづくりが望ましい。共生社会を目指すというのは、一部の欧米諸国のマネだろうが、これは周回遅れの政策だ。実際、欧米では共生社会を目指したツケがでている。一部の国とは文化・風習が違いすぎるので、共生はできず、「外来種」に「在来種」が「駆逐」されるような事態が起きている。 

 

 百歩譲って、外国人受入が経済成長に資するのであれば、いろいろな対応ができるだろう。一般的に外国人を受入すると国内の社会保障制度へのマイナスのダメージがあるが、経済成長してマイナス面を補うのであれば、外国人受入という対応はあり得る。 

 

 そこで、移民人口比と経済成長の関係を少し調べてみた。国連のデータでは、ここ最近2010ー2022年の平均データにより各国の移民人口比と経済成長をプロットすると、以下のようになる。 

 

 これは、極めてラフな分析であるが、もし移民人口比が経済成長に寄与するのであれば、右上がりの傾向が期待されるが、そうなっていない。ただし、移民人口比が高くなると経済成長しなくなるとまでともはいえない。 

 

 民主化が進むと、一般的に移民人口比が高くなるが、そこまでして移民政策を推し進めることもない。移民は、経済成長に寄与しないばかりか、社会的なコストを招く。一部の企業の労働コストを低下させるが、その業界での賃金は上がりにくくなる。 

 

 2018年11月19日付けの「現代ビジネス」コラム「誰も指摘しないのが不可解すぎる、入管法改正の「シンプルな大問題」 拙速な動きにため息連発…」において実証分析しているように、外国人労働者を受け入れた業界では賃金上昇率が低くなっている。これは、受け入れ企業にはメリットだが、その業界の労働者には大きな迷惑だ。しかも、外国人を受け入れるには社会保障などのコストもかかるし、社会不安も招く。これで、どのように正当化するのだろうか。 

 

 

写真:現代ビジネス 

 

 おりしも、バイデン大統領は5月1日、日本や中国などの経済が低調なのは「彼らが外国人嫌いで、移民を望んでいないためだ」と発言した。 

 

 これに対して、日本政府は、「正確な理解に基づかない発言があったことは残念だ」とし、日本の考えや政策について説明したとしている。 

 

 もし、日本政府は、今回の制度改正で「移民を受け入れます」なんて説明していたら、とんでもない。バイデン大統領に言うべきことは、そこではなく、「移民が少ないから経済成長しない」といのは、統計的には事実誤認と言うべきだ。 

 

 今回の制度改正が個別の利害代表で世界の移民と比べてもいかに酷いものなのかは、移民受け入れに積極的とされる竹中平蔵氏ですらも、問題点を指摘しているくらいだ。 

 

 そこで書かれていることは、筆者のものと重複するが、特に「外国人受入れに関する基本戦略」の策定は重要だ。筆者であれば、外国人受入では社会保障の適用などについて原則相互主義を導入すべきだと思っていることを付言しておこう。でないと、外来種に在来種が駆逐されるように、日本の社会保障が崩壊してしまう。 

 

髙橋 洋一(経済学者) 

 

 

 
 

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