( 168442 )  2024/05/09 02:12:46  
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20年前は「妊活」や「不妊治療」を公言することがはばかられたが、今では多様性が叫ばれている。

しかし、「子どもを持たない」選択肢はなかなか理解されにくい状況で苦しむ女性たちがいる。

子育て支援政策が進む中、子どもを持たない女性たちの背景や苦悩、価値観の変化などが取り上げられている。

(要約)

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20年前、「妊活」や「不妊治療」を公言することははばかられた。今では多様性が叫ばれているが、「子どもを持たない」選択肢は理解され難いのが現状だ(撮影/写真映像部) 

 

 多様性が叫ばれる昨今だが、子どもを持たない選択が理解されにくく、苦しむ女性たちがいる。その要因はどこにあるのか。AERA 2024年5月13日号より。 

 

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*  *  * 

 

 国が子育て支援政策を推し進める中、「子どもを持たない女性」たちは何を思うのだろうか。 

 

「子どもを持つかどうかの迷いは、99.9%ありません。少子化の時代に、社会に対して申し訳ないなと思いつつ、その分税金で還元しているので許してほしいという気持ちです」 

 

 そう話すのは、都内在住の会社員の女性(48)。これまで数回転職をし、収入を上げ、現在は男性が多い業界で管理職として働いている。順調にキャリアを重ねる中で、積極的に子どもを持とうと思ったことは一度もないという。 

 

 子どもが嫌いなわけではない。子育てをしている人への尊敬の念もある。でも、自分が産み育てる覚悟と責任までは持てないとこぼす。平日は激務のため、ゆっくりできるのは休日だけ。今は、パートナーと暮らす日々の中で、時間とお金を惜しまずに物を買ったり、旅行に行ったりする日々に充足感を得ている。もし子どもがいたら、その時間さえままならなくなってしまう。 

 

 親からの結婚や子どもに関するプレッシャーは特にない。だが、友人から「結婚して出産することが女の幸せ」といった価値観を押し付けられたことはあったという。女性は言う。 

 

「あなたの幸せは、私にとっての幸せとは違う。私が味わっている幸せは、あなたには一生手に入らないよねと思って、受け流していました。『産んだら愛情が芽生えるかも』との声を聞きますが、そんな保証どこにあるのかと思ってしまう」 

 

 そんな女性には時々、ヘッドハンティングの声がかかるという。評価されていることを感じる一方で、こうも思う。 

 

「いま最も市場価値が高い女性は、複数の子どもがいて、バリバリ働く既婚女性ではないでしょうか。若い女性の一定数は、仕事をしながら結婚や子どもを持つことを理想としている。そのロールモデルがいる会社に入りたいと思うのでは」 

 

 

■子ども欲しくない5割 

 

 少子化の日本では、子どもを育てて働くことがデフォルトになりつつある。だが、ロート製薬が今年3月に発表した「妊活白書2023」によると、未婚男女(18歳から29歳)の半数以上が「今も将来も子どもが欲しくない」と回答している。特に女性は調査開始から6年目で初めて5割を突破。経済的な要因など様々な背景があると考えられるが、価値観の変化が起きていることは明らかだ。だが、 

 

「子どもを持たない生き方が、ライフコースの一つとして認められてこなかったのが一番の問題点です」 

 

 と指摘するのは、子どものいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」主宰のくどうみやこさんだ。 

 

「マダネ プロジェクト」の調べによると、子どもがいないことで肩身の狭い思いをしている女性は8割にのぼる。また、子どもがいる人への支援ばかりが増えることにモヤモヤしたり、子育て世代の時短勤務のしわ寄せを感じたりしても「子育てに理解がないと思われるため、口にできない」と考える人も、8割いるという。 

 

■“子ども=幸せ”が辛い 

 

「子育て支援はやるべきなのが大前提ですが、子どもがいない既婚者や独身者を含めた大枠での子育て支援を考えていかないと、今後さらに歪みや分断が助長されると懸念します」(くどうさん) 

 

 子どもを持たない女性の背景は千差万別だ。自主的に選択をした場合や、不妊治療や妊活などの努力をしたけれど授からなかったり、経済・健康面の理由で断念したりする場合もある。AERAが今年4月にインターネット上で実施したアンケートにも、それぞれの事情と想いが寄せられた。 

 

 大阪府在住の会社員女性(48)は、40歳を過ぎて結婚した。子どもは持たないと決めたことについて、こう振り返る。 

 

「高齢出産は、子どもが障害を持って生まれる可能性が高まる。仮に授かっても、双方の両親は遠方のため頼れない状況だった」 

 

 都内在住の会社員女性(41)は、30代で持病持ちになり、以前よりも妊娠がしづらくなった。当時、義理の母から言われた「子どもがいなくても幸せよね」の一言が胸にチクリと刺さった。 

 

 

「気遣いだと思うのですが、子どもを諦めたわけではなかったし、子どもがいることが幸せという前提に、何だか否定された気持ちになってしまいました」 

 

 現在は総務関連の仕事をしていて、産休や入学のお祝い金の手続きをする度に、胸が痛む。 

 

「今は仕事と子育ての両立が推奨されていることもあり、20代の社員が気兼ねなく産休や育休を取得する印象です。私が若い時もそうだったら、仕事との折り合いを考えず、子どもを産み育てていたかもと思ってしまうのが、正直な気持ちです」 

 

■違う立場への理解を 

 

 多くの女性たちと向き合ってきたくどうさんは、子どもを持たないことで感じる苦しみの要因は、主に二つあると分析する。 

 

 一つは、子どもが欲しかったけれど出来なかったことで感じる劣等感や、親に孫の顔を見せられない罪悪感などの内的要因。もう一つは、「子どもを産み育てるべき」といった社会的な圧や、「子どもがいない=かわいそう」と、勝手にレッテルを貼られてしまう外的要因だ。自分の望んだ道に進めなかった場合、「別の道の方がよかったのでは」と考えてしまうこともあるだろう。くどうさんは言う。 

 

「どんなライフコースでも、メリットとデメリットはあります。自分が歩むことになったコースを『これでよかった』と自身で正解にしていくことが、大切だと思います」 

 

 ライフスタイルと価値観が細分化する現代、子どもを持つ人も持たない人も誰もが生きやすい社会を目指す上で、違う立場の人を理解しようとする「エンパシー」が一層求められている。(フリーランス記者・小野ヒデコ) 

 

※AERA 2024年5月13日号 

 

小野ヒデコ 

 

 

 
 

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