( 169058 )  2024/05/11 01:32:35  
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100円ショップ「セリア」は、競合他社が高額商品を増やす中、全品100円を貫き、女性従業員比率が51.5%と高い。

商品の需給調整には自社開発のシステムを利用し、毎日データをチェックしている。

均一価格を続けることでコスト削減し、利益を上げている。

女性社員の増加は、商品発注システムの導入により仕事環境が快適になったため。

代表は開発のきっかけになった刀鍛冶をイメージし、商品ごとにうっすら利益を積み上げる戦略で業績を伸ばしている。

(要約)

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100円ショップ「セリア」の店内(提供写真) 

 

100円ショップ大手の「セリア」は、競合他社が300円、500円と商品価格のラインアップを広げるなか、いまも全品100円を貫く。セリアという名称になって20年余り。直営店とFC店の合計が昨年2000店を突破し、業界では第2位の座にある。同社は女性管理職の比率が51.5%と高く、女性社員の登用も顕著だ。女性からの人気が高いといわれるセリアの経営戦略について、代表取締役社長の河合映治氏に尋ねた。(文・写真:ジャーナリスト・古川雅子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部) 

 

白基調の明るい店内には、文具やキッチン用品、収納用品、スマホ関連用品のほか、食器や女性向けメイク用品など多彩な商品が並ぶ。そのすべてが100円だ。売上高で業界2位のシェアをもつ100円ショップ「セリア」の特徴は、女性からの支持が高いことが挙げられる。昨年3月公表のLINEによる消費者調査では、30~50代女性の4割超が「一番好きな100円ショップ」はセリアだと回答している。河合社長は、岐阜県大垣市にある本社の一室で、自社のこうした強みについて端的かつ論理的に語った。 

 

地銀に勤めた経験もあるセリア2代目社長の河合映治氏 

 

──セリアは女性からの人気が高いようです。業績好調の理由は女性向けの商品を増やしたことでしょうか。 

 

特に女性向けの商品構成を意識しているわけではないんです。大事なのは需要があるかどうか。売れている商品を欠品しないように補充し、売れない商品はやめる。その需給バランスを最適化していったら、結果的に女性が買ってくれるようになり、女性向けの商品が増えた。それだけのことです。 

 

──商品の需給調整はどのように把握しているんですか。 

 

自社で開発したシステム(※後述の「発注支援システム」)で、全国の各店舗においてどんな商品が何個買われたか、リアルタイムでデータを集計しています。商品は現在2万7000点ほど扱っていますが、商品の入れ替えを繰り返し、安定的に売れているものを残しています。売れる上昇カーブを描いている商品を見極め、輸送の状況を考慮しながら発注を増やせばいい。問題は売れていない2%の商品で、それをいち早く見極め、次は発注しないようにする。そうしたデータは毎日チェックしています。年間3割程度の商品を入れ替えていますね。 

 

 

欧州調の食器などの品揃えも豊富(提供写真) 

 

──競合他社では300円、500円といった「高額路線」の商品もそろえていますが、セリアはいまなお「100円均一」を維持していますね。 

 

均一価格は、お客さんに対してだけではなく、売る側の私たちにも有利なんです。お客さんは、店内でいちいち価格を見ずに買い物できる。当社にとっては、商品ごとの価格を周知するコストが低くて済む。いろんな価格帯の商品を置くということは、それに値札をつけたり、他企業との価格差などを考えたりしないといけないので、均一価格のほうがコストがかからない。また、商品の需給調整も、均一価格ならシンプルな計算式でできるメリットもあります。「100円」にはこだわります。物価高の時代ですが、コストを削るのではなく、在庫管理のシステム化で店頭に売れ筋商品を常にそろえる効率化の戦略と、原価率を下げてうっすらと粗利益を上げるような「アブノーマルな利益」を積み上げるという考え方と、合わせ技で利益を出しているのです。 

 

河合氏は、叔父である創業者から引き継ぐ形で、2014年にセリアの代表取締役社長に就任した。地元岐阜県の大垣共立銀行を経て、2003年に転職。河合氏が入社した時期に屋号がセリアに変わり、出店数が増え、売上高も大幅に伸びた。直営店とFC店の合計は昨年2000店を突破、2023年度の売上高は2200億円を超えた。そんなセリアの特徴は、組織の在り方にもある。社員551人のうち、7割にあたる約400人が女性だ。セリアは女性管理職(課長職以上)の比率も51.5%と高い(2023年3月31日時点)。 

 

──全国の店舗で勤務する社員の約7割。パートタイマーの約9割が女性だそうですね。全国の店舗で勤務する店長や店員も女性が多いということですね。 

 

そこについても、あえて女性の登用を意識してきたわけではないですね。2007年からパートタイマーを社員に登用する仕組みを導入した。そうしたら、結果的に女性の割合が増えてきたのです。人材登用する上で見るのは、仕事がきちんとできるかどうかだけ。性別も年齢も問わない。育児や介護が一段落した人が応募してくることも多いです。 

 

 

岐阜県大垣市にあるセリア本社商品部の会議風景。近年、部内の女性比率が増えているという 

 

──それでも、これだけ女性社員が増えたのには何か理由が考えられるのではないでしょうか。 

 

やるべき業務の進め方は変えました。特に商品の発注です。以前男性社員が多かった頃、商品発注は店舗ごとに自己判断でやっていた。一方、当時の女性社員にとって、会社の利益に関わる判断を背負うのは責任が重く、ストレスだという声があった。そんななか、2006年に自社で開発した「発注支援システム」を全店に導入しました。これは、各店舗から送られるPOS(販売時点情報管理)データを基に、独自のアルゴリズム(分析手法)で商品の売れ行きを予測するシステムです。それからはシステムが自動的に提示してくるデータに従って商品の発注をすればよくなった。そうしたら責任の負担が減って、女性社員が増えていった。そういう感触はありますね。 

 

──自動化したことで女性が働きやすくなったと。 

 

そうです。いまでは商品のチェックだけでなく、日々の業務内容も、朝出勤するとシステムに表示されるようになっているので、それを実行すればいい。さらに、システム上の改善で人間的な摩擦も和らげられるようになりました。 

 

女性社員が多い商品部の職場の風景。自社製品の「ちいかわ」フィギュアも並ぶ 

 

──どういうことですか。 

 

私は職場における「嫁姑問題」と言っていますが、パートの従業員が嫌がるのは「人に教えてもらうこと」。仕事を教わる相手が自分よりもずっと年上だったり、あまり仕事ができなさそうな人だったりしたら、気を使うんです。こういう人間関係によって職場は疲れてしまう。だったら、基本的な業務内容をわかりやすく説明する業務ガイドのページをつくり、それを各自見てもらうようにすれば、職場に摩擦が起こらなくなると考えた。実際、導入したら、そうしたトラブルも減っていきました。 

 

「ただ現場を見ているだけではダメ」だと語る河合社長は、セリア躍進の秘訣(ひけつ)は前述の「発注支援システム」にあると力を込める。このシステムでは、発注支援状況、店舗採算など「データ活用」に関する34項目のほか、「採用・人事・給与」に関する8項目など、さまざまな項目が数値化されている。市販のソフトではなく、すべて自社エンジニアの開発によるシステムであり、そのアイデアのほとんどは河合社長自身が考えたものだという。 

 

 

従業員それぞれが業務内容を把握するための業務ガイドのページ 

 

──システム構築には銀行勤務時代の知見も生かされていますか。 

 

銀行の審査部にいた時も、融資が可能かどうかの判断をコンピューターを使って自動化する仕組みをつくっていました。開発予算が取れないので、自分でプログラミングもやってね。やっていることはセリアでも同じです。データを扱って、精度よく予測を入れるということですから。こうしたデータ化は、結果的に「100均」業界が一番ハマった。価格が均一というシンプルなビジネスで、コンビニのように値段を細かく操作して棚割りを組むような、複雑なマネジメントをしなくてもいい。数字による統計と、親和性が高いと感じています。 

 

──導入したシステムはさまざまな指標を数値化するようになっていますね。 

 

私は「レジにPOSシステムを入れるだけではうまくいかないよ」と入社時から言っていたんです。売れたものを補充するだけなら、いずれだいたいの商品は売れなくなり、全体の売り上げもしぼむ。そうではなく、商品の売れ行きカーブを見ながら、どれだけ追加で発注するか、あるいは廃番にするか。その基準を根拠をもって決めていく。そのロジックの最適化が大事なんだと考えていました。そこでひらめいたのが、POSデータから最適解を導き出す「発注支援システム」なんです。 

 

セリアが独自に開発した「発注支援システム」の画面 

 

──どんなふうにひらめいたのですか。 

 

ヒントになったのは、岐阜県関市に観光で行った際に見た刀鍛冶の光景です。熱した鋼をトンカンと何回も槌でたたく。同じ作業を繰り返すことで、靭(つよ)い刀剣にしていく。その像が頭に残っていて、セリアの店頭に立っていた時に「あっ、そうか」と。レジを通過した商品一つひとつに、うっすら利益が乗っていれば、その積み上げでやがては大きな利益になる。ならばセリアでも、毎日繰り返し計算できる仕組みをつくって、最適な計算式さえ入れれば、大きな利潤を生むビジネスがつくれるぞとイメージが浮かんだんです。 

 

──そうしてつくったシステムは最初からうまくいったのですか。 

 

アルゴリズムの歪みを直すのに2年かかりました。システム開発から2年間は試行期間でしたが、私はシステムによる商品発注の度合いを、20%、40%というふうに、徐々に上げていきました。試行期間中はシステム化を失敗と捉える人もいました。でも中長期での成功を考えていた私には「100%の機械発注をやり切れば必ずうまくいく」という確信と勝算があった。実際システムを軌道に乗せた2009年ごろからは、毎年のように営業利益率が上がっていきました。 

 

 

 
 

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