( 169868 )  2024/05/13 17:13:06  
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日本政府と日銀は急激な円安に対処するために2回の為替介入を行った。

介入によって一時的に円高に抑えることができたが、根本的な要因である金利差の解消がない限り円安の流れは続く。

介入は短期の時間稼ぎとしては効果があるが、介入の効果は限定されている。

市場は常に円安を傾向としているため、介入後にドルを買う投資家が増える傾向がある。

介入は一時的な対処策であり、根本的な金融政策の変革がない限り円高の流れを変えるのは難しい。

(要約)

( 169870 )  2024/05/13 17:13:06  
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急激な円安に対処すべく、日銀は2回にわたり為替介入を実施したが、その効果とは?(Photo/Shutterstock.com) 

 

 急激な円安に対処するため、政府・日銀は2回にわたって為替介入を実施したとみられる。介入によって円安の流れそのものを変えることは難しいが、しばらく市場は様子見となる可能性が高く、時間稼ぎの効果は得られたかもしれない。 

 

【詳細な図や写真】図表1:政府・日銀介入時のドル円相場(出典:各種資料より筆者作成) 

 

 年初来、ドル円相場は1ドル=150円近辺での展開が続いていたが、4月に入ってドルが再び急騰し、1ドル=155円を超える展開となった。その後、さらにドル高の勢いが増したことで、一時は1ドル=160円を突破。政府・日銀は二度にわたって為替介入を実施し、その後は1ドル=155円台で推移している(5月9日時点)。 

 

 円安が進んでいる主な要因は、日米の金融政策の違いと、それに伴う金利差であり、この部分が解消されない限り、大きな流れとしては円安が進みやすい。政府・日銀がドル売り・円買いの介入を実施したとしても、一時的に円高に戻す効果しか得られない可能性が高く、一時的な対処のために貴重な外貨準備を使うことについては批判的な意見もある。 

 

 一方で、円安が急ピッチで進んだ場合、物価上昇などを通じて国民生活に与える影響が大きく、仮に円安が進むにしても、可能な限りそのペースは緩やかにしたいと政府・日銀は考えている。介入の有無については明言していないものの、実施したのであれば、それは急激な為替変動を防ぐ目的ということになるだろう。 

 

 もっとも今、発生しているのは円安、つまり通貨安なので、介入の効果はおのずと限定されてくる。 

 

 円高を防ぐ介入の場合、円を売ってドルを買う取引になり、政府はいくらでも日本円を調達できるので、事実上、無制限の介入が可能だ。一方、円安を防ぐ介入は手持ちのドルの範囲でしか実施できないので、上限が決まってくる。加えて、国際社会では自国の利益のみを追求した為替介入は原則として認められないというのがコンセンサスとなっており、国際協調が得られない限り、大規模に実施するのは難しいという側面もある。 

 

 4月17日に米ワシントンで開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、為替相場についての文言が共同声明に盛り込まれるなど、米国が一定の理解を示したことがうかがえる。一方でイエレン財務長官は為替介入に関して日本に対してクギを刺す発言も行っているので、やはり米国は日本による大規模介入は望んでいないようだ。 

 

 そうなると政府・日銀は、限られた原資の中で、最大限効果を発揮させ、投機的な動きを抑制する必要がある。介入そのものの是非は一度、横に置いておき、短期的な激しい値動きを抑制することが目的と仮定した場合、今回の介入はそれなりに効果を発揮したと考えて良いだろう。 

 

 

 今回の介入は4月29日と5月2日の2回に分けて実施された。1回目の介入は約5.5兆円、2回目の介入は3.5兆円規模と推定されている。4月25日までドル円相場は154円台で推移していたが、26日になってドルが急騰したのは、同日に実施された金融政策決定会合において現状維持が選択されたからである。 

 

 もともと26日の金融政策決定会合で何も変化がないことは既定路線となっており、それ自体に驚きはない。だが前週にワシントンで開催されたG7の会合に出席した日銀の植田総裁は、円安が進んだ場合には追加利上げがあり得るというコメントを2度も行ったことで、市場関係者の多くは26日の決定会合で追加利上げが行われると予想した。 

 

 当日には、利上げにつながる措置(国債の買入額縮小)を検討という報道もあり、市場は利上げを前提に動き始めた。ところがフタを開けてみると、現状維持となり、植田総裁の発言も前週と比較して大幅にトーンダウンしてしまった。日銀に迷いがあると判断した投資家は一気に円売りを加速、会合直後から急激に円安が進み、一時は160円を突破する状況となってしまった。 

 

 1回目の介入は160円を突破したタイミングで実施されている。一時は154円台まで戻したものの、その後、再び円安が進んだことから158円前後で2度目の介入が行われ、その後、為替相場は少し落ち着きを取り戻している(図表1)。 

 

 

 1回目の介入は160円を狙って、最初から計画していたというよりは、植田総裁の発言で想定外に円安が進んだことから急遽、介入を決断したと筆者は見ている。市場というのは常に先を見て動くものであり、160円を突破すると、今度は170円、180円が視野に入ってしまう。急激な円安を放置すれば、政府・日銀が制御能力を失っているとみなされる可能性があり、とりあえず160円を超える円安は阻止したいと考えた可能性が高い。 

 

 1回目の介入がやむを得ず実施されたものだとすると、2回目の介入はそれなりに戦略性のある介入だった。その理由は、投資家の動きを考えた上で、適切なタイミングで実施されたからである。 

 

 

 何度も説明しているように、為替市場の大きな流れは円安であり、この流れを介入で逆向きにすることは難しい。したがって介入実施後、一時的に安くなったドルを買う投資家が増えることは最初から予想できた事態と言える。実際、1回目の介入が行われた29日には、155円まで円が下がったタイミングで多くの投資家がドルを購入した。その結果、為替市場は再び円安に向かって動き始めた(注目点1)。 

 

 だが、このタイミングでドルを買った投資家は、短期的な利益を目的にしている可能性が高く、相場が2円程度戻せば、すぐに売却して利益を確定すると予想された。実際、158円までドルが戻した段階で利益確定の売りが増え、5月1日以降は、再び円高に戻る動きを見せ始めた(注目点2)。 

 

 実は5月1日と2日の両日には、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)において、FOMC(連邦公開市場委員会)が開催されることになっていた(FOMCは日銀の金融政策決定会合に相当する)。ここで米国の追加利上げなどが決まった場合、円安が進む可能性があったものの、会合は現状維持となり、29日にドルを買った投資家としては恰好の売却タイミングとなった。 

 

 政府・日銀による2回目の介入はこのタイミングで実施されている。もともとドルを売りたい投資家が増え、FOMCに大きな変化がなく、さらに多くの投資家がドルを売ろうとしていた。ここに政府・日銀によるドル売りが加わるので、介入金額以上のドル売りが市場で行われる。この介入の結果、ドルはもう一段下落となり、投機筋の動きは落ち着くことになった。 

 

 何度も説明したように、為替介入というのは一時しのぎの措置に過ぎず、日銀が金融政策を抜本的に転換しない限り、円高の流れに転換させることは難しい。したがって今回の介入も、さらに円安が進むまでの時間稼ぎという効果しか得られないだろう。 

 

 だが、今の日銀には短期間の時間稼ぎであったとしても、それなりの意味がある。 

 

 日銀は9月の金融政策決定会合においてゼロ金利を解除する予定であり、場合によっては7月に前倒しされる可能性もある。もともとは今年に入って商品の値上げが一段落したことや、4月に賃上げが実施されたこともあり、夏には家計に余裕ができるので、その流れを確認した上で9月のゼロ金利解除という算段であった。 

 

 ところが足元で急激な円安が進んでいることから、これ以上、円安を放置すると、このシナリオが大きく崩れる可能性が出てきた。日銀としては7月もしくは9月まで何とか時間稼ぎをしたいというのが本音だろう。 

 

 政府にとっても状況は似たようなものである。 

 

 当初、岸田政権は4月の賃上げと5月の定額減税を材料に6月に解散に打って出る腹づもりだった。だが円安が進みすぎると、食品の値上げラッシュとなり、解散どころではなくなってしまう。もっとも先日行われた3つの補選で自民党が連敗したことから、6月の解散はかなり難しくなっており、9月に行われる総裁選が次の政治イベントとなっている。 

 

 短期的とはいえ、急激な円安を抑制し、9月の総裁選まで何とか現状維持したいと考えているはずだが、その時まで介入効果が持続しているのかは疑問だ。 

 

執筆:経済評論家 加谷珪一 

 

 

 
 

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