( 173088 )  2024/05/22 17:15:19  
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2024年12月2日に予定されている保険証廃止とマイナ保険証導入に関する懸念が広がっている。

マイナ保険証の利用率は低いままであり、懸念は個人情報保護やセキュリティの問題、増税にも及んでいる。

専門家や識者はマイナ保険証の導入を歓迎しているが、トラブルが続出している現状も踏まえた慎重な見方や批判も存在している。

特に個人情報の流出や偽造などのリスクが指摘されており、個人情報保護の重要性が訴えられている。

(要約)

( 173090 )  2024/05/22 17:15:19  
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マイナカードに関するトラブルが続く中、保険証の廃止は正しいのだろうか(Photo/Shutterstock.com) 

 

 現行の保険証は2024年12月2日に廃止され、その後、「マイナ保険証」に1本化される。そもそも、マイナンバーカードの取得は任意であり、義務ではなかったが、保険証が廃止されたあとは、事実上取得を強制されることになった。しかし、マイナ保険証の利用率は、2024年4月時点で6%台とほとんどの人が使っていない状態が続いている。このまま進むと何が起きるのか。大きくは2つの懸念がありそうだ。 

 

【詳細な図や写真】セキュリティを高めても何らかの形で情報は漏えいしている可能性が高い(Photo/Shutterstock.com) 

 

 2023年9月、河野太郎デジタル大臣は、「健康保険証や運転免許証、在留カード、そのほかカード、資格証など、全部マイナンバーカードにもれなく一本化し、(一本化を)加速をしていきたいと思っている」と発言しており、あらゆる公的な証明書が、マイナ保険証に一本化されていくのは既定路線となっている。 

 

 弁護士で地方自治研究の専門家の神奈川大学法学部・幸田雅治教授は、マイナ保険証制度について、以下のように指摘している。 

 

 

「国は、医療機関や保険薬局に対して、マイナ保険証制度の導入を強制したと言われても仕方のないやり方をしたのです。ですが、根本的なことが間違っています。『療養担当規則』は、法律でなく省令(規則)です。法律の根拠を欠くもので義務付けているというのは大問題です」 

 

(カンテレ・2024年5月20日) 

 

 

 しかし、現在、イノベーションの推進を支持する立場の識者やコメンテーターが、マイナ保険証の導入を歓迎している。彼らの発言を聞くと、今起きているマイナにまつわるトラブルが、あたかも「木を見て森を見ず」の議論であり、「大きな制度変更をするのだから、初期トラブルには目をつぶれ」「世の中にゼロリスクのことなどない」と主張し、マイナンバーカードの普及を推進させようとしている。 

 

 ほかにも、NHKニュースに登場したマイナンバー制度と情報管理に詳しいと紹介されている弁護士は、なぜか政治家や役人が個人情報を覗くことは、「違法」だから起こらないという説明を行っている。 

 

 これらの発言は本当だろうか。筆者自身、イノベーションがどんどん起きてほしいという立場の人間であるが、このマイナンバーカードについては一貫して懐疑的な立場をとってきた。 

 

 

 かつて、サイバーセキュリティを専門とする米国企業の役員に、マイナンバーカードについて話を聞いたところ、 

 

 

「新しいサイバーセキュリティを導入すれば、確実にハッカーからの侵入が起きる。これは管理者がどんな制度設計をしていようとも当然の前提だ。日本のマイナンバーカードは、セキュリティへの懸念から、暗証番号を二重にし、ログイン時にミスを繰り返すとすぐにロックがかかり、役所へロックの解除をしにいかなくてはならない。しかし、どんなに入口のセキュリティを高めても、ハッカーたちからすれば無意味な防御壁だ」 

 

と話していた。 

 

 米国でも個人情報漏えい事件は頻出しており、たとえば、2017年には、消費者の信用度を計算する米国の信用調査会社大手エキファックスが大規模なハッキング攻撃に遭い、1億4500万人分の社会保障番号(Social Security Number、通称「SSN」)が個人情報(名前、住所、生年月日、運転免許証番号、クレジットカード番号)とともに漏えいしてしまった。 

 

 インターネット犯罪を捕捉するために2000年にFBIによって設立された「インターネット犯罪苦情センター」が公表したデータを見ると、米国では2016年に29万8728件の被害の申し立てがあった。それでも同センター長はこの件数は「サイバー犯罪被害者全体の約10~12%にすぎず、全世界の被害者の数分の一にすぎない」(ニューヨーク・タイムズ・2018年2月5日)という。 

 

 

 誰も気づかない間に、個人情報はどんどん盗まれてしまうと考えたほうがいい。先の弁護士は、現在の行政や政治家が、違法に個人情報を覗いているという実態を知らないのだろう。 

 

 婚約相手の出自を調べる際にも役所の情報は漏えいしていたし、個人の医療情報やクリニックの医療状況などは比較的簡単にアクセスできる。違法だからやらないというのは、あまりにも安易な考えだ。 

 

 

 最近でも、マイナンバーを使ったなりすましの事件が続出している。八尾市議会議員である松田のりゆき氏は、偽造されたマイナンバーカードを使って勝手に携帯電話を機種変更され、合計で350万円の被害に遭っている。 

 

 マイナンバーカードの偽造は思いのほか簡単なようで、2023年の12月には、このような報道もあった。 

 

 

「自宅でマイナンバーカードなどを偽造したとして、警視庁国際犯罪対策課は4日、有印公文書偽造容疑などで、中国籍の無職周桜※(※女ヘンに亭)容疑者(26)=大阪市大正区=を再逮捕した。容疑を認めているという。/同課によると、警視庁によるマイナカードの偽造拠点摘発は初めて。情報を印字する前の無地のカードも約750枚見つかっており、同課は多数の偽造カードが流通したとみている。(中略)カードには外国人の名前と日本国内の住所などが印字され、男女4人の顔写真が使い回されていた。本物に似せるため、チップのようなものが埋め込まれており、携帯電話の契約などに使用できる状態だったという」 

 

(時事通信ニュース・2023年12月4日) 

 

 

 チップのようなものを埋め込んだ無地のカードに、ネットで得た情報を打ち込み、写真だけは自分(犯人)のものに替えてしまえば、マイナンバーカードの出来上がりということだ。 

 

 この偽造事件に関し、デジタル庁は「(カードに印字された)マイナちゃんがパールインキで印刷されており、色が変わる」(Xへの投稿・2024年5月17日)として、目視によって見抜くことができるとしているが、パールインキでできた無地のカードは誰にでも手に入る形で流通している。 

 

 たとえば、日本カード印刷会社のホームページへ行くと、「1,000 枚 片面パール加工表オフセット1色/裏1色 9万7280円」として、1枚97円で販売していることがわかる。簡単に偽造ができるということだ。 

 

 マイナンバーカードを本人確認に使うのであれば、ICチップに書き込まれた認証キーを利用すべきとの意見もあるが、相応にコストが発生するし、導入までこうした犯罪が今後も頻出することは間違いない(さらに、機器を導入後も安心して運用できるとは限らない点は前述の通りだ)。 

 

 

 マイナ保険証制度を導入するにあたり、筆者の懸念は2つある。 

 

 1つは、行政・金融機関・医療機関によって、個人情報が1箇所に集約されてしまうということだ。行政がバラバラに管理していたものが、同じところに集められてしまうと、もし、何らかの理由でセキュリティを突破したり、覗く権限のある公務員が、不法に(もしくは不当に)個人情報のすべてを見てしまったりするケースが発生し、先の調査で指摘されているように、覗かれていることすら気づけないという状態になる。 

 

 簡単に言えば、今までは横に繋がっていなかったから、被害が限定的になっていたのに、まとめたら、被害が一挙に増えてしまうということだ。これ以上、情報をマイナンバーカードに集約するのは控えるべきだ。 

 

 もう1つは、増税だ。あらゆる資産が、国家が管理しやすくなることによって、簡単に資産へ課税することができてしまう。消費税のように1%上げるだけで膨大な税収を獲得できる性質を「資産税」は持っている。 

 

 消費税増税が起きた直後に、財政規律が緩むことはよく知られたことで、税収に余裕ができれば、政治家と官僚はムダ遣いをはじめるというわけである。銀行預金、不動産などあらゆるものに幅広く課税する「資産課税」を許すと、ムダ遣いを減らすモチベーションを持たなくなってしまうのである。 

 

 以上の観点から、犯罪が頻出する「マイナ保険証」は、解体的出直しを図るべきなのではないだろうか。 

 

執筆:ITOMOS研究所所長 小倉健一 

 

 

 
 

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