( 174308 ) 2024/05/26 16:31:57 1 00 警視庁は4月10日、モペッドの一斉取り締まりを行った。 |
( 174310 ) 2024/05/26 16:31:57 0 00 警視庁は4月10日にモペッドの一斉取り締まりを実施
見ようによっては自転車ともバイクとも言えそうな乗り物。最近、「モペッド」と呼ばれる、ペダルがついた電動オートバイが人気だ。公道を走るには免許やナンバープレート(自賠責保険の加入)、ヘルメット着用などが必要だが、そうしたルールを無視した「違法モペッド」が社会問題化しつつある。街を疾走するモペッドの“危うさ”について提起し続ける自転車評論家に取材するとともに、モペッドを販売する業者にも直撃した。フリーライターの池田道大氏がリポートする。
【画像10点】深夜の歩道を無灯火・ノーヘルで疾走するなど、街中に溢れる違法状態のモペッド。国民生活センターによる実車テストの結果も
* * * 最近、街を歩いていると、黒光りするゴツい乗り物が歩道を我が物顔で突っ走る姿をよく見かける。運転者はペダルを漕いでいないのに、なぜあの得体のしれない乗り物は、路上を猛スピードでかっ飛ばせるのか――。そんな疑問を抱いている人は多いはずだ。
謎の乗り物の正体は「モペッド」。「モーター(motor)+ペダル(pedal)」からできた造語で、その名の通りモーターとペダルを備えているが、バイクのようなスロットルがあり、ペダルを回さなくても走行できる。そのモペッドの代表的なタイプが、真っ黒い車体に太いタイヤを履いている「オラオラ系」だ。自転車評論家の疋田智さんが解説する。
「いま日本に蔓延しているモペッドの多くは中国製です。90年代後半に中国メーカーが自転車に電気モーターとバッテリーを載せて作ったのが始まりです。日本の電動アシスト自転車に似てますが、踏力センサーやアシスト率制御などがなく、単に自転車に電気モーターを付けただけの安価なシロモノでした。
ところが、その後バッテリーの進化などで、パワーと航続距離がどんどんのびました。それが中国でバカ売れしたのです。いったん商売になるとなればメーカーが乱立して商品が余るのは、あの国のいつものパターンです。そこでブルーオーシャンとして日本市場に目を向け、中国製の電動自転車を日本人向けにネットで売るようになったんです。一見欧米っぽいのもありますが、国民生活センターが『問題あり』のモデルを調べてみたら100%中国製でした」
ゴツい車体で自由自在に走り回る姿を見て、「わあ、カッコいい」と思う人もいるかもしれない。だが、ノーヘルで歩道を走るのは完全に違法だ。
「今年中にモペッドは必ず大問題になるでしょう」と疋田さんは語る。
「スロットルが付いたモペッドはフル電動でペダルを回さなくても自走できます。見た目は自転車っぽいですが、法律上の扱いは自転車ではなく、電動の原付バイクというカテゴリーに入ります。公道を走行するには運転免許が必要で、ナンバー登録をしてブレーキランプ、ウインカーなどの保安装備を取り付け、ヘルメット着用と軽自動車税(原付一種・二種・軽二輪)の納付、自動車損害賠償責任保険(自賠責)加入も義務付けられます。
それなのに現在、公道を爆走するのはナンバープレートがなくノーヘルの“違法モペッド”がほとんど。これは原付バイクがヘルメット未装着で歩道を走行するのと同じです」(疋田さん)
不思議なのは、違法で危ないモペッドを警察が積極的に取り締まりをしているようには見えないことだ。道路にはお年寄りや子供もいるのに、なぜ一般市民に恐怖心を与えるモペッドが野放しになっているのか。疋田さんは、2つの理由が考えられると言う。
「違法なモペッドと、合法でナンバープレートや運転免許などの義務がない電動アシスト自転車はともにペダルがついていて、見た目で区別がつきにくい。坂道をペダルなしでスイスイ上っていたらフル電動だとわかりますが、怪しいからと任意で調べてみた結果、合法タイプだったら、警察官は『誠に申し訳ありません』と平謝りするしかありません。しかも中にはスロットルは付いていないものの、電動アシスト自転車の基準を超えるハイパワーで走る“脱法タイプ”もあって紛らわしいから、警察はなるべく手をつけたくないんです。
さらには交通警察官の人員の問題があります。端的に人手が足りず、急増する危険なモペッドに取り締まりが追いついていません」
警察庁によると、2023年に全国の警察が摘発したモペッドの交通違反は345件で、前年の96件から約3.6倍増加した。内訳は、無免許運転111件、ウインカーやミラーなどの保安装備がない装備不良102件、歩道走行などの通行区分違反43件が上位3位で、人身事故も前年の2倍を超えた。
「交通違反や人身事故が急増しているのは、モペッドが原付バイクであるという周知が進んでいないからでしょう。特にネット販売は野放し状態で、モペッドが“オシャレ自転車”として売られています。モペッドを乗り回している若者の多くも、ちょっと便利な電動自転車のつもりで乗っているのだと思われます」(疋田さん)
確かにネットの通販サイトを見ると、オラオラ系のモペッドが「ファットバイク自転車」「フル電動自転車」などと紹介され、《そのひと漕ぎに、魔法を》《暮らしを、スイスイ》といった胸が躍るキャッチコピーがそえられている。
細かな商品説明欄には「公道に使用する場合、ナンバー登録と日本国内有効免許必須」「自賠責保険又は共済の契約が必要」などと記されているが、注意しないと読み飛ばすレベルで、モペッドを「アシスト自転車」のカテゴリーに含むサイトもある。
実際にネット販売店はどれほどの説明をしているのか。5~6種類のモペッドをネット販売する北関東の販売店員は「基本的に客任せです」と語る。
「商品と一緒に免許やナンバー登録が必要と説明する資料を同封して送りますが、購入者がナンバープレートを登録したかまでは把握していません。事故が怖いので保険には必ず加入してくださいとも注意書きしていますが、結局のところはお客さんに任せています」
都内のネット販売店員も、「手を尽くしているが、限界がある」と本音を漏らす。
「モペッドを注文いただいたお客さんには必要事項を記した確認メールを送り、ナンバーなどの条件を了承してもらってから商品を発送します。メールを読んだお客さんが『運転免許が必要ならやっぱり買えません』と注文をキャンセルすることもあるし、メールに返信がないお客さんには、こちらから電話して案内します。二重の対応をしていますが、実際にお客さんがルールを守っているかまでは確認できません」
販売時に年齢や運転免許所有の確認はしているのだろうか。九州地方のネット販売店員は「正直、それは難しい」と語る。
「ネット通販では年齢や運転免許の確認は難しい。写真を撮って送ってもらうことも、個人情報の問題があるから現実的ではない。こちらとしては、お客さんを信じるしかない」
販売店も努力しているが、違法状態を食い止めるにはいたらない。さらに抜け道となっているのがフリマサイトだ。前出の都内のネット販売店員が語る。
「モペッドの多くはフリマサイトでも取引されているようです。実際にウチでモペッドを購入した人がフリマサイトで売りに出し、それを購入した人が事故を起こしたこともありました。その事故を起こした人は、『モペッドは自転車だと思っていた』と語ったそうです。
購入の際にルールを説明すると、『でも、バレなきゃいいんでしょ』と言うお客さんもいます。もちろん、そういう方には販売しませんが、買う側の意識も大切だと思います」
警察の対応力と乗り手のモラルが問われる中、知っておきたいのは、一生を台無しにしかねないモペッドの巨大すぎるリスクだ。違法モペッドに乗って事故を起こした場合、“地獄の賠償ロード”が待っているのだ。
取材・文/池田道大(フリーライター)
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