( 174913 )  2024/05/28 14:34:35  
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政治家が政治資金として100万円を受け取る様子が描かれており、その中で政治家が政策活動費を使って資金を候補者に渡すことが問題視されている。

政治家同士の裏金や裏取引の疑惑も報じられ、その出どころが不透明な状況が続いている。

政治家が選挙の際に現金を配ることがあるが、その使途は明確でなく、政治資金の問題点が指摘されている。

(要約)

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国会議事堂 

 

 「はい、これ。お役立てください」。慣れた手つきで差し出された茶封筒には100万円が入っていた―。 

 

【一覧】2019年に「政策活動費」を受け取った政治家と金額 

 

 自民党派閥の裏金事件をはじめ、政界の不透明なカネの問題が後を絶たない。具体的な使途はなかなか明らかにならないが、選挙の際に使われているとの指摘が多い。前代未聞の買収事件が起きた2019年の参院選広島選挙区でも政権中枢からの裏金疑惑が持ち上がっている。なぜ不透明なカネが横行するのか。出どころはどこなのか―。中国新聞の記者が取材を進めると、現在の国会で問題になっている政策活動費の存在が浮かび上がってきた。(4回続きの1回目) 

 

2019年の参院選で宮城選挙区の応援に入った甘利氏から後援会幹部が100万円を受け取った経緯を説明する愛知氏 

 

 5年前。19年参院選で全国有数の激戦区だった宮城選挙区(宮城県)。予期せぬ出来事は選挙戦3日目の7月6日に起きた。 

 

 それは、密室ともいえる車の中。自民党公認候補だった愛知治郎(54)の後援会幹部男性が、応援演説に来てくれた自民党の大物政治家に代理で応対していた。愛知本人は別ルートで遊説中だったためだ。「はい、これ。お役立てください」。丁寧な口調で語りかけられた。 

 

 慣れた手つきで差し出されたのは1枚のクリアファイル。A4判の茶封筒が挟まっていた。「選挙の資料か何かかな」。そう思って受け取った。 

 

 事務所に戻って封筒を開けると、出てきたのは1万円札が100枚。帯封で束になっていた。「どう処理したら…」。男性は初めての経験に驚くとともに、困惑した。候補者に迷惑がかかるものかも―。すぐに返したかったが、その政治家は立ち去った後だった。 

 

 その大物政治家とは、自民党の選挙対策委員長だった甘利明(74)だ。経済産業相や自民党政調会長を歴任した衆院議員13期の大ベテラン。首相で総裁の安倍晋三(22年に死去)を支える党四役の一角として、党の選挙を仕切っていた。勝敗は自身の責任論にも直結する。 

 

2019年の参院選当時、自民党選挙対策委員長を務めていた甘利氏 

 

 現金100万円入りの封筒は後援会幹部の男性を驚かせたが、政党から候補者側への資金提供は政治資金収支報告書に記載することを条件に法律で認められている。「選対委員長とか幹事長とかそれなりの人は手ぶらで来るわけにはいかないのだろう」。甘利の意図を、参院議員を3期務めた愛知はそう推し量る。後援会幹部からの報告を受け、100万円は収支報告書に記載するように事務方に指示したという。 

 

 「以前の参院選でも応援に来た党幹部から現金入りの封筒を渡されたことがある」と、愛知は明かす。遊説に使う党の車で2人になった時に渡されたという。「わざわざ現金で渡すから意味がある。応援してやったという形ができるから」。そうしたカネでつながる関係性を「自民党のあしき慣習」と批判する。 

 

 ただ、100万円を出した側の甘利の主な政治団体や自民党の収支報告書には100万円の記載はいずれもなかった。カネの出どころはどこなのか。愛知に尋ねると、「それは分からない」。一転、表情を曇らせた。 

 

 

自民党本部に対し、甘利氏が発行した2019年の政策活動費の領収証。参院選10日前の6月24日には5千万円を受け取っていた 

 

 政治資金は政治団体や政党を通じてやりとりするのが原則で、双方が収支報告書に載せる必要がある。甘利が愛知に提供した100万円で考えると、報告書に記載しないことが認められているのは「政策活動費」くらいしか考えられない。 

 

 政策活動費は、政党が政治家個人に支出する。受け取った政治家がどう使ったかを報告する義務はない。制度上の欠陥を突き、与野党双方が自由に使える「裏金」として活用してきた。 

 

 19年の自民党の収支報告書を見ると、甘利は1月23日に500万円▽5月8日に1560万円▽6月6日に1千万円▽6月24日に5千万円―を受領。7月4日に始まった参院選までに計8060万円の政策活動費を受け取っていた。何に使ったのかは書かれていない。 

 

2019年の甘利氏を巡るカネの流れ 

 

 甘利によると、この参院選で同じく激戦になっていた広島選挙区(広島県)でも自民党公認候補の河井案里の夫で元法相の克行(61)に100万円を渡した。 

 

 甘利が元法相に渡した100万円もやはり、甘利が関係する政治団体の収支報告書に記載されていない。それが発覚したのは、元法相がこの参院選で起こした大規模買収事件がきっかけだった。捜査を進めていた検察当局が元法相の自宅を捜索した際に裏金提供疑惑を示すメモを発見、押収していたのだ。 

 

 メモはA4判。「総理2800 すがっち500 幹事長3300 甘利100」と手書きで記されていた。関係者によると、検察当局は、当時首相だった安倍が2800万円、官房長官だった菅義偉が500万円、党幹事長だった二階俊博が3300万円、甘利が100万円を提供した疑いがあると分析していた。ただ、元法相は取り調べに応じず、安倍ら4人の幹部を任意聴取することもなく、捜査を終えていた。 

 

 昨年9月、中国新聞が関係者への取材でこのメモの存在をつかみ、報道した。故人の安倍を除く全員を取材した結果、菅と二階、元法相の3人は現金のやりとりを否定したが、甘利はメモの記載通り100万円の提供を認め「選対委員長として陣中見舞いで届けたと思う」と説明。全国の党公認候補の陣営へ一律に渡した陣中見舞いだったとし、原資は党の資金だったと述べた。陣中見舞いの原資は政策活動費だった可能性が高まっている。 

 

 

 この参院選で甘利は応援で全国各地を回った。そのうち、少なくとも広島と宮城では候補者側に陣中見舞いとして100万円を渡していた。8千万円超の政策活動費を使い、全国の候補者に現金を配っていたのだろうか―。 

 

 中国新聞の取材に対し、甘利は文書で回答した。政策活動費の使途については「使途公開は政治活動の自由とも密接に関わる。お答えは差し控える」とし、明かさなかった。 

 

 政策活動費の使途について党選挙対策委員長の経験者の一人が取材に応じた。重点選挙区を回る際に地元の党県連幹部や候補者の妻に陣中見舞いの現金を渡したと明かした。100万円のケースが多かったという。「(陣営の)気合を入れるためだ」 

 

 東京大大学院教授の谷口将紀は選挙の際に地方議員に陣中見舞いを渡す贈答文化が相当残っているとし「政策活動費も陣中見舞いのような形で渡されている部分が大きいだろう」と指摘。「政策活動費は、表の金から裏の金に抜ける大きな抜け穴になっている。抜け穴をふさぎ、問題の再発を防ぐための改革をしないといけない」と強調する。(文中敬称略) 

 

中国新聞社 

 

中国新聞「決別 金権政治」取材班 

 政策活動費は選挙にも使われているとされるが、自民党は具体的な説明をしようとしない。そんな中、参院選で党幹部から100万円を受け取ったという愛知治郎氏の後援会幹部の証言はリアリティを感じる。政策活動費をこうした陣中見舞いに使っているなら、自民党は正々堂々と説明すべきだろう。 

 

※この記事は中国新聞とYahoo!ニュースによる共同連携企画です 

 

中国新聞社 

 

 

 
 

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