( 175690 ) 2024/05/30 14:56:20 0 00 (イメージ)
オフィスの電話が鳴るとビクッとする、受話器を取ると緊張で頭が真っ白になる―。特に働き始めたばかりの人ほど、こんな経験をしたことがあるのではないでしょうか。20~30代の7割超が「電話応対に苦手意識を感じている」という現代。「電話恐怖症」が広がる背景には何があるのか、どうしたら克服できるのか、取材しました。(時事ドットコム編集部 谷山絹香)
【図解】ひと目で分かる―年代別・電話のニガテ意識
◇電話よりチャットがありがたい
大型連休が明けた2024年5月中旬、JR新橋駅周辺でこの春入社した新入社員を探し、電話業務について尋ねてみた。「電話に出なければいけないのは分かっているが、一瞬ためらってしまう」と話すのは、営業に配属されたという女性(23)。「電話は考えながら話す必要があるので、言葉に詰まってしまうこともある。先方が聞きたいことを簡潔に答えられているか不安」と話し、「文面でのやりとりの方が不自然なところを確認できるので、急ぎでなければメールやチャットで連絡をもらう方がありがたい」と打ち明けた。
他の新入社員からも「敬語の使い方に自信がない」「電話が鳴っている音が聞こえると緊張する」といった声が聞かれた。金融機関で働き始めた男性(22)は「1日に10回ほど電話に出るが、一度、想定外の質問をされた時に頭が真っ白になった」と苦笑い。「入社から1カ月経ってようやく業務に慣れてきたが、初めは電話に出るのが怖かった」と振り返った。
◇新人記者も「自宅で電話出る機会なし」
なぜ若者が電話を苦手に感じるようになったのか、時事通信社の新人記者らにも話を聞いてみた。最も多かったのは、「実家に固定電話はあったが、電話に出る機会が少なかった」との意見。女性社員(22)は「自宅にかかってくる電話は、セールスや勧誘の内容がほとんどで、親に『電話がかかってきても出なくていい』と言われていた」といい、「知らない人と電話で会話したのは、アルバイトのときが初めてだったかもしれない」と話した。
「知らない番号から電話がかかってきたら、電話番号を検索してから折り返すようにしている」「店の予約も電話ではなく、できるだけインターネットサイトを使っている」という意見も。総じてうかがえたのは、若い世代にとって、電話は主に「素性が分かっている相手とするもの」であるということだった。
◇若者の7割、電話が苦手
こうした若手世代の苦手意識は、電話業務に関する調査でも浮き彫りになっている。AI電話応答サービスを展開する「ソフツー」(東京都中央区)は、2023年8月、20歳以上の働く男女562人を対象にオンラインで「電話業務に関する実態調査」を実施。それによると、「電話に対して苦手意識を感じているか」との質問に「とても感じる」「やや感じる」と回答した人は、全体の57.8%に達し、20~30代では72.7%に上った。
「オフィスで固定電話が鳴ると不快に感じる」と回答した人も全体の44.8%を占めた。不快に感じる理由を複数回答で尋ねたところ、40~50代のベテラン世代では、「手を止めて対応する必要があり、集中力が途切れ業務効率が悪い」との回答が7割以上を占めたのに対して、20代では、「自分の知識で正しく回答できるか不安(41.4%)」、「上司にうまく取り次ぎできるか不安(27.3%)」と答えた割合が他の年代に比べて高かった。
同社の担当者は「SNSでチャットやメッセージ機能が普及したことに伴い、電話で話す機会が減り、電話に苦手意識を感じる『電話恐怖症』に陥っている若者が増えている」と分析。「年代によって電話を否定的に感じる理由にも違いがある」とみる。
(イメージ)
若者世代に電話応対のルールやマナーを学んでもらおうと、社員研修に「検定試験」を取り入れる企業も多い。日本電信電話ユーザ協会が実施する「電話応対技能検定(通称:もしもし検定)」は、正しい日本語や電話の取り次ぎ方法などに関する筆記試験と、電話応対の実技試験(3級以上)で構成。2012年度の受検者は2658人だったが、19年度には1万2564人に増加した。20年度以降は新型コロナウイルスの影響で受検者数が減ったものの、09年の開始以来、既に10万人超が受検したという。
検定を導入した企業は、保険会社や証券会社、メーカーなどさまざま。同協会の佐藤幸雅事業推進部長は「最近はメールや人工知能(AI)によるチャットボットなど、企業への問い合わせの入り口が多岐に渡っているが、『最後はやはり人の応対』と思っている企業が多いのでは」と説明。「AIがいくら優秀だとしても、顧客としてはやはり人に応対してもらって、安心感を得たい。どんな電話応対をしているかが、その企業のブランド価値に繋がっている」と話す。
電話による問い合わせの内容も変化してきているようだ。同協会の千代田・東京中央地区協会事務局長の山地正浩さんは、「今は、簡単な質問であれば、ホームページのQ&Aやチャットボットなどで解決できるので、電話応対の中身は非常に濃い内容になっている」と指摘。「ネットでうまく手続きができなかったり、トラブルになってしまったりした時など、電話が『最終手段』として重視されるようになり、答える側も高度なクオリティーが求められている」と語った。
◇「電話が得意」になるには?
取材を通じて分かったのは、文字コミュニケーションの発達で「電話恐怖症」の若者が増える一方、電話応対は企業ブランドの維持や顧客対応の「最終手段」として、今後も欠かせないビジネススキルであり続けるということだ。では、どうすれば自信を持って電話に出られるようになるのか、日本電信電話ユーザ協会が主催する「電話応対コンクール全国大会」で日本一に輝いた、大同生命保険アクティブコミュニケーションセンター(熊本)の橋本美穂さんに話を聞いた。
―電話応対で心掛けることはありますか。
電話は相手の顔が見えません。だからこそ、言葉に感情を乗せるようにしています。会社の代表として電話に出るわけですから、口角をあげて明るくさわやかに発声するといいのではないでしょうか。言葉遣いは「慣れ」の部分もあるので、初めは気にしすぎず、誠心誠意対応するのが重要です。
―クレームには、どのように対処するべきでしょうか。
クレームの電話を受けたときは、会社の一員として、まずは真摯(しんし)に謝らなければいけません。一方で、心のどこかで、「この人は私に怒っているのではない」という気持ちを持っておきましょう。そうすることで心へのダメージを軽減することができます。話しているうちにお客様の怒りがおさまってくる場合もあります。
―電話が苦手な新入社員や若手社員に伝えたいことはありますか。
電話が苦手なのはあなただけではありません。電話を上手に取れないことで自分を責める必要はなく、みんな同じなんだなと思えば、少しは気持ちが軽くなるのではないでしょうか。慣れない職場で、自己判断できないことはたくさんあると思います。まずは電話の向こうの方の話をしっかり聞いて、分からない部分については折り返しする旨を伝えましょう。初めは完璧にできなくて当然です。
この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。
|
![]() |