( 176063 )  2024/05/31 15:28:55  
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自民党が政治資金問題で逆風を受ける中、立憲民主党が強気の勝負で政権交代を目指しており、最近の選挙結果を見ると勢いを維持している。

しかし、2009年の政権交代時のような熱は感じられず、立憲民主党にはまだ政権交代の風が吹いているとは言えないとの意見もある。

政権批判が立憲に利している傾向が強く、自民党支持率が低下している一方、立憲の熱は不足していると指摘されている。

(要約)

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 自民党が政治資金パーティーをめぐる裏金問題で大逆風を受ける中、野党第1党の立憲民主党が政権交代を目指して強気の勝負に出ている。衆院トリプル補選や東京都議補選(目黒選挙区)に続いて静岡県知事選で勝利をつかみ、7月7日投開票の都知事選にはエース級の蓮舫参院議員が「無所属」で出馬する。はたして、立憲は2009年以来の政権交代を果たすことができるのか。政界事情に通じる経済アナリストの佐藤健太氏は「国民は民主党政権時代の大迷走に嫌気がさしており、そこまで『風』は吹いていない。自民党批判だけで返り咲くのは難しいのではないか」と見る。 

 

 事実上の与野党対決となった5月26日投開票の静岡県知事選で、立憲民主党は前浜松市長の鈴木康友氏を推薦(国民民主党も推薦)し、自民党が推薦した元副知事の大村慎一氏らを破った。4月末の3つの衆院補選(東京15区、島根1区、長崎3区)で全勝した勢いをキープしているように見える。 

 

「政治とカネ」問題が直撃し、2つの補選で候補擁立を見送らざるを得なかった自民党には落胆ムードが漂い、立憲の泉健太代表は「早期の(衆院)解散を求めたい」と鼻息が荒い。ただ、それぞれの選挙の結果を深く見ると、2009年の政権交代時のような「風」は吹いていないことがわかる。 

 

 最初に指摘しておきたいのは「熱」を感じないことだ。政権交代選挙があった2009年はリーマン・ショックに伴う経済危機対応を優先した自民党の麻生太郎首相(当時)が解散総選挙に踏み切れず、自らの失言などで支持率が下落。代わりに、立憲民主党の「源流」である民主党の鳩山由紀夫代表は飛ぶ鳥を落とす勢いを見せた。 

 

 2009年4月以降の選挙で民主系は連戦連勝で、政権交代に向けた「熱」を感じさせた。それは投票率の高さにも現われた。4月の名古屋市長選は50.54%と32年ぶりに5割を超え、5月のさいたま市長選は42.78%で前回に比べ約7ポイント上昇、6月の千葉市長選も43.50%と前回比6ポイント以上アップしている。 

 

 さらに民主党が推薦して川勝平太前知事が当選した同年7月の静岡県知事選は投票率が16ポイント増(61.06%)となり、同じ月の東京都議選も約10ポイント上昇(54.49%)した。もちろん、単純には比較できないものの、立憲民主党系が勝利している直近の選挙結果を見ると、少なくとも投票率からは「政権交代前夜」とまで感じることはできない。 

 

 

 3つの衆院補選は東京15区が40.70%で前回に比べ18ポイント減となり、長崎3区は35.45%で25ポイント超もマイナスとなった。唯一の与野党対決となった島根1区も54.62%(前回比6.61ポイント減)にとどまっている。補選であることを差し引いたとしても、いずれも過去最低の投票率というのは「熱」が高まっていないことを意味する。 

 

 今年4月の東京・目黒区長選(投票率36.21%)においては、立憲が推薦した候補が現職に敗れている。その後の都議補選(目黒選挙区、投票率は24.19%)で勝利したとはいえ、当選したのは区長選で敗れた前都議だった。政権交代を賭けた次期衆院選の“前哨戦”と考えるならば、まだパンチが足りないのは明らかだ。 

 

 だが、岸田文雄首相が率いる自民党が国民から距離を置かれつつあるのは事実だ。5月の主要メディアによる世論調査を見ると、内閣支持率はNHK(5月10―12日)が23.9%(前月比0.9ポイント増)、共同通信(同月11-13日)は24.2%(前月比0.4ポイント増)、読売新聞(同月17―19日)が26%(前月比1ポイント増)、産経新聞(同月18―19日)が27.7%(0.8ポイント増)、日経新聞(同月24―26日)が28%(前月比2ポイント増)だった。 

 

 時事通信の調査(同月10―13日)では支持率が18.7%と前月から2.1ポイント増加しているものの、岸田氏に首相をいつまで続けてほしいかとの設問では「9月の自民党総裁任期満了まで」が38.2%で最多となり、「すぐ交代してほしい」27.4%、「今国会閉会予定の6月まで」15.7%と続いている。「9月以降も続けてほしい」は6.0%にすぎない。これは毎日新聞の調査(同月18、19日)でも同様の傾向がみられ、首相は「交代した方がいい」が7割を超えている。 

 

 では、自民党の政党支持率はどうなのか。NHKの調査で自民党は27.5%と前月比0.0ポイント減となり、3カ月連続で20%台に落ち込んでいる。だが、立憲民主党は6.6%で0.1ポイント増にとどまる。無党派層は増加傾向にあり、44.3%だ。 

 

 

 NHKの調査を基準に考えても、やはり今の立憲民主党は2009年に政権交代を果たしたような「熱」がないことがわかる。当時の民主党は政権奪還の2年以上前から勢いがあった。NHKのデータによれば、2007年1月の政党支持率は自民が36.4%、民主は14.8%で、同7月の参院選時に民主の支持率は2割を超えている。 

 

 この勢いは翌年の2008年も維持され、同年1月の政党支持率は民主党が22.9%、自民党は32.0%。12月には自民28.0%、民主23.7%まで縮まった。そして、2009年1月には民主党は24.5%、自民党が28.4%となり、衆院選を直前に控えた7月に民主党が26.4%、自民党は24.9%と逆転している。政党数などが異なるため比較は難しいが、直近の立憲民主党の支持率は当時の4分の1程度でしかない。 

 

 これらのデータを踏まえれば、今は立憲民主党に期待しているというよりも、岸田政権への批判票が自民党以外に分散し、結果的に立憲を利している傾向が強いように見える。その第1は「政治とカネ」問題の直撃だろう。NHKの調査でも、岸田首相が指導力を発揮しているかとの問いに74%が「発揮していない」と回答した。野党支持層に限れば9割に達しており、無党派層でも82%に上る。与党支持層も「発揮していない」は6割近い。 

 

 さらに足元の物価高も政権にはマイナスとなる。日経新聞とテレビ東京が5月24―26日に実施した世論調査によると、6月に実施される定額減税が物価高対策に「効果があるとは思わない」が75%に上った。政府・与党は大企業を中心に今春闘で大幅な賃上げ回答があったことや減税効果をアピールするが、景気回復の実感が国民に届いているとは言い難い。 

 

 歴史的な円安水準が長期化し、物価上昇に頭を抱える国民に対して効果的な施策をタイミング良く打ち出せず、「政治とカネ」問題が直撃する岸田政権に厳しい状況が続いているのは事実だ。ただ、先に触れたように今の状況が2009年と同じかと言えば、現時点では「似て非なるもの」と指摘しておく方が正しいだろう。 

 

 今後の注目ポイントは、やはり7月の東京都知事選ということになる。3選を目指す現職の小池百合子都知事に民主党政権で閣僚を務めた蓮舫氏が勝利すれば、来夏の都議選や参院選、そして何より次期衆院選に大きな弾みがつくのは間違いない。 

 

 

 ただ、国民には依然として民主党政権時代の大迷走が残る。米軍普天間飛行場の移設問題や公約になかった消費税率の引き上げ、「埋蔵金」などを活用すれば捻出できるとしていた「子ども手当」の失敗など、マニフェスト(公約)そのものに対する不信感もある。 

 蓮舫氏は「反自民、非小池」と声高に訴えるが、自民党の支持率はいまだ断トツに高く、自民党所属でない小池氏に対して国政の枠組みを持ち出すのはどうなのかといった批判も出ているところだ。蓮舫氏は立憲を離党するものの、立憲や共産党の支援を受けるという。「崖から飛び降りる覚悟で」と語り、どこの政党からも支援は受けなかった小池氏との違いがどのように知事選に影響するのか。 

 

「敗れたとしても、また立憲に復党して国会議員に戻るんでしょ」との声も聞こえる中、いまだ感じられない政権交代の「熱」を高められるかが勝敗を分けることになりそうだ。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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