( 176428 ) 2024/06/01 15:25:16 1 00 岸田文雄首相と日銀の植田和男総裁がデフレの状況について異なる見解を持っており、この認識の違いが円安の原因となっていると指摘されている。 |
( 176430 ) 2024/06/01 15:25:16 0 00 photo by gettyimages
岸田文雄首相は「デフレ脱却していない」といい、日銀・植田和男総裁は「インフレの状態にある」という。この政府と日銀の認識の差が、いまの円安を生んでいるといっても過言ではないだろう。
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前編「円安「1ドル160円」攻防のウラで「岸田と植田の大バトル」大勃発…! いよいよ高まる「円ショック&超インフレ」への警戒感」では、そんな岸田首相と植田総裁の対立が、物価高を国民に押し付けている状況を解説した。
困るのは円安だが、そのために一刻も早く、日銀には金利をあげてほしい。しかし、政府と日銀の対立がある以上、日銀は利上げできないと筆者は考えている。
日本はデフレを「脱したのか」「脱していないのか」どっちなのか。なぜ、政府と日銀の間には認識の差が生まれたのだろうか。
政府と日銀が手を結び「デフレ脱却」を目指し始めたのは、2013年1月のことだ。当時、政府と日銀は共同声明を出している。両者は「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現する」ことを目標に、政策連携を強化した。
この時、日銀は「2%の物価安定を目標に金融緩和を推進する」こととした。大規模な金融緩和策実施への裏付けは、この共同声明だった。
日銀は3月19日の決定会合で、デフレ脱却のために行われていた金融緩和策を転換し、利上げを行った。ということは、「デフレを脱却した」との認識が前提になければならない。しかし、政府はデフレ脱却を否定しているのだから、これでは、日銀が政府との約束(共同宣言)を一方的に反故にしたということになってしまう。
では、政府はどのような状況ならば「デフレ脱却」と考えるのだろうか。政府は2006年3月に「デフレ脱却の定義」を明らかにしている。その判断材料として示されたのは、次の4点だった。
・消費者物価指数が前年比で2%超になる ・GDPデフレーターの前年比がプラスになる ・単位労働コストの前年比がプラスになる ・需給ギャップがプラスとなる
その上で、デフレ脱却の定義を「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」とした。
政府が示したデフレ脱却4指標は、現状ではほとんど達成しているのだが、どうやら政府は「再びデフレ状況に戻る見込みがない」という点を根拠に、「デフレ脱却宣言」を渋っているのではないか。
為替介入を指揮する神田真人財務官 Photo/gettyimages
デフレ脱却宣言を行えば、マクロ経済政策は大きく転換することになる。
それは、政府にとっては、デフレ対策の名の下に実施が許されていた“役にも立たない、無駄な財政出動”ができなくなる上に、何よりも日銀が柔軟に利上げを実施すれば国債の利払い費が増大し、財政を圧迫するというリスクを招くことになるからだ。
しかし、岸田政権にとっては自民党の政治資金パーティ裏金問題と同様に、物価高は政権にとって強い逆風となっている。円安進行に対して冷ややかな日銀とは違い、これ以上の円安進行による輸入物価の上昇は、好ましくない。
そこで、政府(財務省)が主導して為替介入を行い、円安進行に歯止めをかけた。これにより、一時は1ドル=152円割れまで円高が進行した。
だが、これまでに筆者が何度も指摘したように為替介入には一時的な効果しかなく、トレンドを転換する力はないことから、5月29日現在では1ドル=157円前後にまで、再び円安が進行している。
円安進行の主な要因が日米金利差にある以上、日銀が利上げを行い、日米の金利差を縮小させることが円安進行を止め、円高へトレンドを転換させるためには、最も有効な手段なのは明白だ。
5月7日、植田総裁は岸田首相と会談した。3月19日の前回会談から2ヵ月も経っておらず、非常に短い期間での会談だ。
会談後、植田総裁は、「経済・物価に潜在的に大きな影響を与え得るものなので、最近の円安については日銀の政策運営上、十分注視をしていくということを確認した」と述べている。
これは、物価高への円安の影響について政府に“歩み寄った”ということだろう。つまり、物価高を抑制するための次の利上げは、政府がカギを握ったということでもある。
政府は1ドル=160円は許さないという姿勢を介入によって明確に示した。焦点はどの時点でデフレ脱却宣言を行い、次の利上げを認めるかだ。
会期延長のない限り、6月には通常国会が閉会を迎える。これが次の利上げのタイミングとなるのだろうか。それとも、9月30日に迎える岸田首相の自民党総裁の任期だろうか。
植田総裁の胸中やいかに…Photo/gettyimages
いずれにしても、日銀は次の利上げを“政治の顔色を見ながら判断する”ことになりそうだ。
このため、6月13日からの日銀の金融政策決定会合では、利上げはないと筆者は予想しているが、さらに心配なのは、利上げが日銀の政策判断に委ねられないという状況だ。
利上げできないことをさらに見越したヘッジファンドなどは、もう一段の円安のために攻勢をかけても不思議ではない状況が徐々にそろいつつある。
その時、財務省は今の1ドル160円の状況を本当に守り切れるだろうか。
国民の円安や物価高への不満は、より一層、深まることだろう。
さらに連載記事「その時、現場は凍り付いた…! 植田日銀総裁に「経済学の大天才」が噛みついた! その「空気よまない直言」のヤバすぎる中身」では、今の日本経済の実態を解説しているので是非参考としてほしい。
鷲尾 香一(ジャーナリスト)
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