( 176688 )  2024/06/02 14:51:31  
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日本の幸福度が低いことが懸念されており、多くの調査でその低下が示されている。

2011年から2024年の13年間で日本人の幸福度は低下傾向にあると報告されており、国際的にみても日本人の幸福度は低水準である。

さらに子どもの幸福度も同様に低いことが指摘されており、友達ができにくい環境や自己肯定感の低さが問題とされている。

日本の幸福度の低さの原因については、「人並み志向」が影響している可能性が指摘されている。

(要約)

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara 

 

多くの国際調査で日本人の幸福度が低いことが指摘されている。拓殖大学教授の佐藤一磨さんが「最近の調査で、幸せな日本人の割合はこの13年で13%も下がっていることがわかった。また別の調査では大人だけでなく子どもの幸福度も低水準で推移していることがわかっている」という――。 

 

【図表】日本人の幸福度の推移 

 

■日本人の幸せの推移 

 

 昔と比較して日本は豊かになりましたが、それに伴って私たち日本人は幸せになってきているのでしょうか。また、国際的に見て、私たちの幸せの水準は高いのでしょうか、それとも低いのでしょうか。 

 

 日本は世界第4位の経済大国であり、他国と比べても豊かな暮らしを享受できます。これに加えて、高い健康度、治安の良さ、町の清潔さ、四季によって移り変わる美しい景色、アニメ・漫画・ゲーム等の独特のカルチャーもあり、日本に住むことの利点は大きいと言えます。ただ一方で、バブル崩壊以降の長い低経済成長や少子高齢化による人口減少、増加する自然災害、なかなか解消されないジェンダー不平等などの問題も存在しています。 

 

 これらの相互関係によって私たちの幸せの水準が決定されると考えられます。 

 

 この4月、幸福度を定点調査した結果が発表されました。今回はその調査結果を中心に、私たち日本人の幸せの推移について見ていきたいと思います。 

 

■日本人の幸福度はこの13年間で低下 

 

 調査を行ったのは、世論調査会社イプソスです。この調査では、日本を含む世界約30カ国を対象に幸福度を調べています。この調査は、16~74歳の日本人約2000人を対象としており、サンプルの構成が国勢調査による成人の人口動態を反映するように調整されています。 

 

 この結果を見ると、興味深い2つの発見があります。 

 

 まず1つ目は、2011年から2024年の13年間で、日本人の幸福度が低下傾向にあるという点です。 

 

 図表1は、「幸せである」と回答した割合の推移を示しているのですが、2011年から2019年にかけて低下し、その後は持ち直したものの、2024年にまた低下しています(*1)。2011年を基準とすると、その後の13年間で幸せだと回答した日本人が13%減ったことになります。 

 

 (*1)図中の値は、「すべてのことを総合すると、あなたは「とても幸せ」「どちらかといえば幸せ」「あまり幸せではない」「まったく幸せではない」のうちどれだと言えますか?」という質問に対して、「とても幸せ」「どちらかといえば幸せ」と回答した割合を示しています。 

 

 

■日本人の幸福度は国際的にみて低い 

 

 2つ目の発見は、国際的にみて、日本人の幸福度は低水準にあるという点です。 

 

 図表2は2024年に調査された30カ国の幸福度を比較しているのですが、日本人の「幸せである」と回答した割合は、調査対象国の中で下から3番目でした。 

 

 実は他の年の値を見ても、日本の幸福度の水準は低い場合が多くなっています。 

 

 図表3はイプソス社の調査で2011年から継続して調査対象となっている20カ国のうち、日本の幸福度の高さが何位になっているのかを示しています。これを見ても、日本の相対的な順位は高いとは言えず、下から数えた方が早い場合が多くなっています。ちなみに、2011年から2024年の間で一貫して日本よりも幸福度が低いのは、ハンガリーのみでした。 

 

■日本は「働く幸せ」が世界で最下位 

 

 以上から明らかなとおり、日本の幸福度は低下傾向にあり、しかも世界的にみて相対的に低くなっています。 

 

 実は他の調査を見ても、日本の幸福度が低くなりやすいという傾向が確認できます。 

 

 例えば、OECDが行っている「より良い暮らし指標(Better Life Index)」では総合的にOECD諸国の暮らし向きを比較可能なのですが、この中で主観的な幸福度を調査しています。2017年の調査結果を見ると、OECD35カ国中で日本は27位となっていました。 

 

 また、パーソル総合研究所の『グローバル就業実態・成長意識調査-はたらくWell-beingの国際比較』では、世界18カ国・地域の主要都市の人々の働く幸せを調査しているのですが、幸せを感じている日本の就業者は、調査国中で最下位となっていました。 

 

■日本は子どもの幸福度も低い 

 

 このように他国と比較して日本人は幸せを実感しづらいようなのですが、実はこの傾向は子どもでも同様に確認されています。 

 

 2020年にユニセフのリサーチ部門であるイノチェンティ研究所が子どもの幸福度を分析しました。この中で生活満足度が高い子どもの割合や自殺率を用いて、精神的な幸福度の水準を各国で比較しています。 

 

 生活満足度に関しては、0から10までの数字で生活全般の満足度を聞いているのですが、この質問に6以上と答えた割合を見ると、日本は調査対象となった国の下から2番目でした(図表4)。大人と同じく、日本の子どもも幸せを実感する割合が低いと言えるでしょう。 

 

 また、15~19歳の若者10万人当たりの自殺率を見ると、日本の値は7.5人でした。これは調査対象国の中で上から12番目にあたり、平均よりも高くなっています。 

 

 このように、日本の子どもの生活満足度は相対的に低く、自殺率は平均よりも高いという結果になっています。日本の子どもの精神的な幸福に関する指標はあまり良いとは言えません。 

 

■「友達ができにくい」日本の子どもたち 

 

 さらにイノチェンティ研究所の報告書では、もう1つ気になる点を指摘しています。それは子どもの交友関係に関する課題です。 

 

 報告書では子どものスキルとして、読解力・数学分野の学力・社会的スキルについても見ているのですが、社会的スキルについては、「すぐに友達ができる」と答えた15歳の子どもの割合を各国で比較しています。図表5はその値を比較しているのですが、日本はまた調査対象となった国の下から2番目でした。 

 

 日本の子どもは交友関係を広げる面で課題があり、これが幸福度に影響している可能性も考えられます。 

 

 

■日本の子どもの「自分自身への満足感」は低い 

 

 さらに、子どもに関してもう1点気になるデータがあります。子ども・若者の現状を調べた内閣府の「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査(平成30年度)」では、日本を含む7つの国の満13~29歳までの男女に対して調査を行っています。この中で、「自分自身に満足している」という質問に対して、「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した割合は、日本が最も低くなっていました(図表6)。 

 

 また、同じ調査で「自分には長所がある」という点についても聞いているのですが、日本の「そう思う」「どちらかといえばそう思う」と回答した割合は、調査国の中で最低となっています。 

 

 これらの調査結果から、日本の子ども・若者は諸外国と比較して、自分自身への満足感が低く、自分の長所にも肯定的になれない部分があるといえます。 

 

■日本人の幸福度は低くなるのは「人並み志向」が原因か 

 

 これまで見てきたとおり、日本人の幸福度は他国と比較すると相対的に低くなりがちです。この傾向は大人だけでなく、子どもの時点からすでに確認されています。次世代を担う子どもたちが自分への満足感や長所を認めづらいという社会環境にあるのです。 

 

 日本は現在さまざまな問題に直面するものの、経済力が高く、健康かつ安心・安全に暮らせる国です。このような多くのメリットがある反面、幸福度が低くなりやすいという点は、やや不可解です。 

 

 日本人の幸福度が低くなりやすいという点に関して詳細に分析した研究は少なく、その原因については明確にわからないものの、京都大学の内田由紀子教授は、日本人の「人並み志向」が影響しているのではないかと指摘しています。 

 

 日本人は、他者と比較して「人並み」の人生を歩めているかどうかを基準とする傾向があるため、自分の幸福度評価が高くなりにくいと考えられるわけです。 

 

 この点は日本という社会の中で醸成されてきた特徴であり、すぐに変えていくのは難しいかもしれません。また、SNS等で成功した一部の人が注目を集めるようになっており、自分と比較してしまうと、どうしても幸せを実感しづらい社会環境にもなっています。 

 

 今後の私たちの幸せの感じ方を変えていくためにも、「人並み」ではなく、「自分の尺度」で物事を判断できるようになっていくことが重要となるでしょう。 

 

 

 

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佐藤 一磨(さとう・かずま) 

拓殖大学政経学部教授 

1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。 

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拓殖大学政経学部教授 佐藤 一磨 

 

 

 
 

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