( 176788 )  2024/06/02 16:49:43  
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2024年5月26日、陸上自衛隊の「富士総合火力演習」で射撃訓練を行った戦車の写真が共同通信より配信されました。

日本政府は軍事力における対中劣勢を改善するため防衛費を増額していますが、経済状況から増額継続は難しい状況にあります。

防衛費の削減も必要とされ、陸上自衛隊の削減や新戦闘機の開発中止などが提案されています。

防衛費の増額と経済改善の両立を図るため、防衛支出の見直しや中国対策にならない投資の削減が必要とされています。

陸上戦力の見直しや耐震改修の取りやめを含めた施設整理によって、対中軍事力の改善と防衛費抑制を両立させる提案がなされています。

(要約)

( 176790 )  2024/06/02 16:49:43  
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2024年5月26日に行われた陸上自衛隊の「富士総合火力演習」で射撃訓練する戦車(写真・共同) 

 

 日本政府は防衛費の増額を進めている。軍事力における対中劣勢を改善するため、2023年度からの5年間で従来1.6倍の43兆円、本年度の2024年には例年1.6倍の約8兆円を支出する予定である。 

 

 しかし、増額継続は難しい。国民経済が困窮しているから、今は防衛費抑制を図る時期だ。2025年度以降の3年間で残り28兆円、毎年9兆円超の支出は非現実的でしかない。 

 

 日本は対中軍事力の改善をあきらめるしかないのだろうか。その必要はない。陸上自衛隊を削減し、新戦闘機の開発を中止し、施設整理をすることにより対中軍事力の改善と防衛費抑制は両立できるからだ。 

 

■対中劣勢を改善するためだが… 

 

 なぜ、日本は防衛費の増額を進めているのだろうか。 

 

 対中劣勢を改善するためである。中国との格差は年々開く一方だ。改善のためには日本は戦力強化を図らなければならない。 

 

 すでに戦力比3割の維持も怪しくなりつつある。艦隊戦力はかろうじて4割台を維持している。空母、軽空母、駆逐艦、フリゲート、潜水艦の数は中国154隻に対して日本は68隻だ。 

 

 ただ、戦闘機はすでに2割と劣勢にある。中国海空軍の一線級戦闘機数1600機に対して空自戦闘機は330機しかない。 

 

 このままでは絶対的劣勢に陥ってしまう。海空戦力総合で3割を切ると対峙は厳しい。日本単独ではどうやっても負けてしまう。 

 

 それを避けるには自衛隊を増強しなければならない。護衛艦建造を年1隻から年2隻にする。F-35戦闘機の購入数を年8機から15機に増やす必要がある。 

 

 これが防衛費増額を進める理由である。しかし、増額継続は難しくなっている。 

 

 国にその余裕はない。日本は30年に及ぶ経済不振の中にある。しかも、この5年は消費増税やコロナ禍、円安の悪影響もある。国民生活も一段と困窮化している。 

 

 この状況で計43兆円の支出は厳しい。国民の税負担はすでに限界に近い。そのため防衛増税もままならない。実際に防衛費増額分の財源確保もできかねている。 

 

 さらにいえば防衛費をGDP(国民総生産)の2%にまで引き上げることは非現実的ですらある。2%とは、いわゆる「防衛3文書」(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)で目標として掲げた数字だが、衰退した日本経済にとっては重荷になりかねない。 

 

 むしろ今は、国民の負担を休ませることを優先する時期だ。社会保障の充実や中低所得層の底上げを図らなければならない。そうしなければ日本は自滅の道からはい出せなくなってしまう。 

 

 

 防衛費を増額して中国向け軍事力の改善を図りたいが、経済事情からその実現は困難なのだ。 

 

■まずは陸上戦力の見直しを 

 

 この問題を解決する方法は存在する。防衛費増額の継続のは難しいが、軍事劣勢の緩和と経済改善の両立はできる。 

 

 それは防衛支出を見直すことだ。防衛支出のうち中国対策とならない事業を見直す。その分の防衛費を削減する。あるいは軍事劣勢の改善に充てることだ。 

 

 まず1つ目は、陸自支出の縮小である。日中の軍事対立は海空戦力による対立だ。陸上戦力には中国対策の効果はない。そこへの投資を控えることで防衛支出の縮小と対中劣勢の改善の両立は可能となる。 

 

 陸自支出の縮小については、中国対策にはならない陸上戦力への投資を控える。それにより防衛支出の縮小と対中劣勢の改善の両立は可能となる。実際に、陸上戦力は存在感を示せていない。 

 

 両国は地続きではない。陸軍にあたる人民解放軍100万人が中国本土に存在しても、日本に14万人の陸自が存在していても、互いにとって脅威とはならない。つまり、陸自は中国対策とはならない。 

 

 平時の対立なら、なおさらである。陸上戦力は、いま競っている軍事力積み上げの対象戦力ではない。増強しても競争は有利とならないし、縮小しても不利ともならない。 

 

 だが、陸自は防衛支出の相当部分を占めている。年度で変わるが陸自向け支出は防衛費の35~37%と頭一つ抜けている。海上・航空自衛隊はそれぞれ22~25%だ。5割以上も多い。 

 

 これは防衛費増額後も変わっていない。支出割合の発表を中止したことから、それが推測できる。政府は防衛費の増額を決めた2022年の『防衛白書』から陸海空自衛隊ごとの支出割合の提示をやめている。 

 

 陸自向け支出も従来比に合わせて増額したことをわからなくするためである。それからすれば、陸自向け支出は今なお35%前後を占めていると考えてよい。 

 

 2024年度予算の8兆円であれば3兆円以上となる。ちなみに海自・陸自向けは2兆円に満たない。その1.5倍以上を消費している。 

 

■戦車や野砲は対中抑止力になりえない 

 

 戦車と野砲の発注増も大幅な増額を示唆している。2024年度予算では、10式戦車10輌と19式軽自走砲16門で合計26輌・門を発注する予定となっている。これは2020、2021、2022年度予算の平均13輌・門の2倍だ。当然だが、どちらも中国対策とはならない兵器である。 

 

 

 この陸自向けの支出を抑えればどうなるか。陸自支出を従来額に戻す。または従来よりも節約する。さらには陸自の組織規模ごと縮小すればどうなるのだろうか。 

 

 中国対策と防衛費抑制を両立できる。海空戦力を増強しながら防衛費の引き下げも可能となる。 

 

 2024年予算に当てはめれば、6兆円代まで圧縮できる。陸自関連支出の割合を今までと同じ35%と推定すれば3兆円である。それを従来額の1.8兆円に戻すだけで防衛費は8兆円から6.8兆円になる。海空と同等額の1.2兆円とすれば6.2兆円となる。 

 

 将来的に組織整理を進めれば、陸自向け支出は1兆円以下まで圧縮できる。たとえば、陸自14万人を7万人まで絞れば、従来と同様の支出をしても0.9兆円で済む。 

 

 2つ目は、新戦闘機開発の中止だ。日本・イギリス・イタリアの3カ国で共同開発する戦闘機について、日本は現時点で1.7兆円を投じる計画である。それを中止する。 

 

 これも見直してよい支出だ。ものになる見込みは低い。そのうえ、アメリカ製のF-35を購入することで代替できる。中止しても中国対策には差し支えは生じない、 

 

■新戦闘機の開発も中止してよい 

 

 なによりも新戦闘機の能力は現行のF-35戦闘機にはまったく及ばない。まず、F-35を超える性能を、新戦闘機には期待できない。開発する日英伊の技術力は、アメリカ航空産業には遠く及ばない。いずれの国の軍用航空機を見ても同時代のアメリカ製には劣っている。 

 

 そのうえ、共同開発の弊害も出る。性能を設定する段階から日英伊の会議で決めるやり方である。総花的で中途半端な戦闘機しかできない。 

 

 また、価格でも太刀打ちはできない。F-35は現段階でも発注予定数は3000機を超えている。対して、新戦闘機は300機売れるかもわからない。生産規模からF-35より安く作れる見込みはない。 

 

 実際のところ、1機当たり開発費の段階でF-35の購入価格を超えてしまう可能性もある。開発費は総額4兆円、うち日本負担額は1.4兆円とも言われている。実際には少なくとも2倍、場合によれば3~5倍まで膨らむためである。 

 

 

 そのうえ、いつ完成するかもわからない。航空機の開発では、予定より10年遅れることも珍しくない。現時点では2035年に生産1号機が完成する計画だが、実際には2040年から2045年だろう。 

 

 そのころにはアメリカでは新戦闘機「NGAD」の生産が始まっているだろう。日英伊がF-35の同等品を開発する間に、F-35の次の戦闘機は完成している。となると、空自が「共同開発した新戦闘機はいらない、NGADがほしい」と言い出すはずだ。 

 

 防衛省界隈でも内心ではそう考えている。F-35を超える性能を実現できるか。F-35よりも安くなるのか。NAGDよりも早く納品できるか。それを聞いても口ごもるだけだ。ポジション・トークとしても、「見込み」と予防線を張るしかない。 

 

 結局、完成してもいいことはないし、いつ完成するかもわからない。それなら早期に手仕舞いしたほうがよい。現段階の日本支出1.4兆円、3倍に膨張するとすれば4.2兆円が節約できるのだ。 

 

 3つ目は、耐震改修を取りやめることだ。防衛省は大規模な耐震改修事業に着手している。その額は24年度だけでも3200億円に及ぶ。これは不要な事業だ。当然だが中国対策ともなりえない。 

 

 こう言えば、突飛な話に聞こえるかもしれない。確かに自衛隊の建物は老朽化しており、耐震性も確保できていない。そのような内容の報道は多い。 

 

■自衛隊施設の耐震改修も不要 

 

 しかし、やめても大した問題はない。隊員が勤務している建物に関しては耐震性は確保済だからである。 

 

 耐震性が疑わしい建物も、確かにいくつか残っている。戦争中や戦後の進駐軍向けに作った木造建築は危険である。ただ、勤務場所としては使っていない。武道場や、不要品をしまう物置に使う程度だ。 

 

 このような建物は、本来は存在してはいけない幽霊物件だ。いずれも鉄筋コンクリートで建て替える際には取り壊す予定のものだった。それを「もったいないから」と残しただけだ。 

 

 しかし、そのような幽霊物件に2024年度には3200億円もの予算をつけている。老朽化と耐震対策の名目だが、実際には防衛費を使い切れないためだろう。 

 

 

 
 

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