( 176945 ) 2024/06/03 01:41:31 0 00 建設が進む大阪・関西万博会場の大屋根リング=4月、大阪市此花区の夢洲(恵守乾撮影)
来年4月に開幕する2025年大阪・関西万博を巡って、企業や自治体は経済波及効果(経済効果)に大きな期待をかけている。発表されている主な試算には、経済産業省の2兆9千億円、民間シンクタンクの最大3兆3千億円という数字がある。万博という同じイベントを扱いながらその試算が異なるのはなぜか。理由を探ると、項目設定などに違いがあり、詳細に分析すると、開催効果をさらに高めるために必要な要素も見えてきた。
【写真】ガス爆発が起きた万博会場で建設中のトイレ。コンクリートの床などが破損した
「(万博は)非常に大きな効果がある。この経済効果を日本全体に波及させたい」
大阪府の吉村洋文知事は今年4月、万博の府内の経済効果が1兆6182億円に上るとの大阪府市の試算を公表した。
これに先立ち、経産省が3月に経済効果が全国で2兆9155億円になるとの最新の試算を公表。府市の数字はこの試算にもとづき、府内の効果が全国の約56%に相当するとして算出したものだった。
万博の全国の経済効果に関しては、経産省の数字と、民間シンクタンクのアジア太平洋研究所(APIR、大阪市)が今年1月に公表した2兆7457億円の数字が報道などでも頻繁に引用されている。
経済効果は単純なもうけや収入を指すものではない。イベントや建設などの経済活動をきっかけに消費や投資が発生し、関連するさまざまな産業の生産に広がっていく効果を試算したものだ。イベントや建設で発生した「需要」に係数をかけて算出している。
ではなぜ、経産省とAPIRの試算結果が異なるのか。そもそも2つの機関による発生需要額の想定項目や、試算が異なることなどが影響した。
需要額のそれぞれの内訳は、建設費が2350億円と共通しているが、運営費の内訳である会場管理費や出展者の運営費に関して、試算額が異なった。また、APIRは経産省が計上していない「関連基盤整備」とプロモーションなどの「自治体費用」の項目を追加しているのも違いの一つになっている。
一方、APIRが試算した大阪府への波及効果は2兆621億円となり、大阪府市が発表した1兆6182億円を大きく上回った。これは、万博の来場者消費について、府市が他地域との交易の波及効果を除いて7217億円と試算したのに対して、APIRは近畿の他府県との交易の相乗効果を見込んで1兆86億円としたことで、3千億円近い差が生まれたためだった。
APIRの稲田義久研究統括は「万博でより高い経済効果を実現するためには、来場者消費の効果を引き上げる必要がある」と強調する。さらに、関西全体をパビリオンに見立て、さまざまな経済活動を広域で展開する「拡張万博」とすれば、効果は3兆3667億円まで上振れると期待した。(井上浩平)
■インバウンド増で効果上振れも りそな総合研究所・荒木秀之主席研究員
2005年愛知万博から約20年となり、経済環境は変貌した。大きな違いはインバウンド(訪日客)の有無だ。当時の訪日客数は年間700万人弱だったが、大阪・関西万博が開かれる25年は約6倍の4千万人前後が見込まれている。
愛知博は来場総数2204万人のうち、訪日客が105万人と全体の5%を占めた。25年万博は想定来場者数2820万人のうち、350万人(12%)が訪日客となる予想だ。訪日客市場の成長度を考えると、万博の中身次第だが、上振れする可能性は相当高い。
そうなれば、経済波及効果(経済効果)も予測値を上回ることになる。
経済効果の信憑(しんぴょう)性についてはさまざまな声もあるが、試算内容には有用な情報が含まれている。
来場者の消費による効果が全体の7割を占め、国内客と訪日客の比率は大体3対2といった見方もある。単純にいえば、効果の約3割を訪日客が担うことを意味する。過半数に満たない訪日客が、大きな経済効果を生む。こうした特徴を把握しておいて損はない。(聞き手 井上浩平)
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