( 177385 ) 2024/06/04 16:00:45 0 00 AdobeStock
7月7日投票の東京都知事選への立候補を表明した蓮舫参院議員に「期待」と「批判」が同時に向けられている。立憲民主党のエース級登場には「国政を大きく転換する流れを東京から全国へと広げていきたい」(共産党の田村智子委員長)と野党の一部からエールが送られるが、その一方で「共産党と堂々と連携する人は応援できない。共産党と連携する人が東京の知事では困る」(国民民主党の榛葉賀津也幹事長)といった厳しい声が寄せられているのだ。SNS上には台湾と日本の「二重国籍」問題を追及するコメントも相次ぐ。はたして、蓮舫氏が投票日までに受ける風は追い風なのか、それとも逆風なのか。経済アナリストの佐藤健太氏が解説するーー。
「自民党の延命に手を貸す小池都政をリセットして欲しい。その先頭に立つのが私の使命だ」。5月27日に所属する立憲民主党本部で記者会見した蓮舫氏は、政治資金パーティーをめぐる裏金問題で大逆風を受ける自民党をあらためて批判しながら、6月20日告示の都知事選に出馬する意向を表明した。
「自民党政治を終わらせなければいけないと思っている」
「今の自民党の政治は看過しがたいとの思いが一番強い」
4月の衆院トリプル補選で不戦敗も含め「全敗」し、内閣支持率が低迷する自民党の岸田文雄首相に対する攻撃的な言葉を並べ、それを現職の小池百合子都知事と結び付けながら「小池都政をリセットする」と繋ぎ合わせる手法は強いインパクトを与えるものだ。蓮舫氏が共産党の支援を受けるからといって「共産党」ではないように、地域政党「都民ファーストの会」を事実上牽引する小池氏もいくつかの選挙で自民系候補を応援したからといって「自民党」であるはずはないのだが、強烈なメッセージを発することによって負のイメージを植え付けることには成功したと言える。
テレビ番組のコメンテーターも反応は様々だ。タレントのRIKACO氏が「東京を背負うにはピッタリの女性。頑張って欲しい」とエールを送る一方、タレントの真鍋かをり氏は「自民党の裏金問題に野党が『わぁ~』と言うが、もうウンザリと思っているところに都知事選でもそうなるのか」と厳しいコメントを向ける。メディアにも「公平性」「バランス」を気にしている様子はうかがえない。
注目度を増す蓮舫氏の「攻撃力」は有名だ。
ただ、何でもかんでも相手を叩くだけの“批判の女王”と映ることには我慢ならないようで、6月2日に東京・有楽町駅前で行った街頭演説では「蓮舫は批判ばかりと言われるのはおかしい」と語気を強め、小池氏が8年前の前々回知事選(2016年)で示した“公約”に対する批判を展開した。この他にも都庁付近の生活困窮者に対する食料支援状況を視察するなど、メディアを巻き込みながら露出を増やしつつある。
一方、蓮舫氏には弱点も指摘されている。それは「防御力」の低さだ。出馬表明以降、蓮舫氏は都知事選で掲げる自らの公約を発表していない(6月3日時点)。その理由は「もしも、私が出した公約と同じものを(他候補が)持って来たら辛い」などと説明し、小池氏の3選出馬のタイミングを待って同時に全体像を示すというのだ。
ただ、チャレンジャーがこうした姿勢はどうなのだろう。現職の小池知事はこれまでの都政の実績とさらなるブラッシュアップを掲げることは分かりきっている。いわば、オープン状態にある。仮に「同じもの」になるならば、それは蓮舫氏にこそ向けられる言葉のはずだ。まだ蓮舫氏が国会を飛び出して何を都政でやりたいのか分からない中、公約の全体像を早々に示すのが有権者に対する礼儀であるように思える。
ネット上には「東京選挙区選出の参院議員がいまさら視察でアピールか」「公約を早く発表すると民主党時代のマニフェストの未達成を思い出させるからしないだけでは?」などの辛辣なコメントも相次ぐ。
蓮舫氏と言えば、2009年の民主党政権誕生後の「事業仕分け」が知られる。都政においても行政改革に注力したいようで、蓮舫氏は「『蓮舫は削る、切る』と言われてきたが、行革は手段。つくった財源を必要な人に振り分けていく」とアピールする。たしかに国政において無駄な税金の使われ方に国民が怒りを覚えてきたのは事実だ。
しかし、新たな財源をつくるには何かを削る必要がある。どの予算を具体的にカットするつもりなのか、それによって「必要な人に振り分ける」だけの財源が本当に確保できるのかは現時点で定かではない。
むしろ、当時の民主党が行財政改革などで実現するとした「子ども手当2万6000円支給」「最低保障年金7万円」などが未達成だった点が改めてクローズアップされることにならないのかを懸念してしまう。
加えて、ネット上では「二重国籍」問題も批判材料になっている。蓮舫氏のオフィシャルサイトによれば、本人は1967年に東京都で台湾人の父と日本人の母との間に生まれているが、2016年に蓮舫氏の「二重国籍」疑惑が取り上げられ、台湾籍を除籍しているかなどが注目されることになった。
蓮舫氏は2017年7月の記者会見で、戸籍の一部を含む資料を示しながら「17歳の時に日本国籍を取得した」とした上で、残っていた台湾籍については「(放棄を)の手続きを父が完遂してくれたものと理解していた」と謝罪。二重国籍状態になっていたことには「私が強く学び、確認、行動をとらなかったことを反省している」と説明した。台湾籍については2016年9月に国籍喪失許可証書を台湾当局から受領した後、外国籍を放棄する「選択の宣言」を行ったという。当時の法相は国籍選択宣言までは国籍法違反の違法状態が続いていたとの見解を示している。
この「二重国籍」問題においては、蓮舫氏の記憶に基づく説明が二転三転していたことや、閣僚を務めてきたことなどに対する批判があるのは事実だ。ただ、少なくとも国籍喪失許可証書などが「偽造」「偽物」でない限り、現時点では日本国籍を保有する参院議員の1人である。
攻撃力の高い蓮舫氏は、カイロ大学を卒業したとする小池氏の学歴疑惑追及記事に関して「高い信憑性がある」「ご本人が説明しなければならない」とも述べている。小池氏は前回知事選(2020年)の直前にも疑惑を報じられ、当時の記者会見でカイロ大の卒業証書と卒業証明書を公開した。駐日エジプト大使館が小池氏の卒業を認める声明文も公表されているが、この声明文は小池氏の依頼で発出された可能性を最近になって元側近が指摘している。
今回も都知事選前の疑惑再燃のため、上記を踏まえながら冷静に見ておきたいのだが、1つ言えることは小池氏が公表した卒業証書や卒業証明書が「偽造」されたものでない限り、カイロ大学が卒業したと認める以上は「卒業している」のではないかと思える。ましてや、国立大学であるカイロ大の卒業をエジプト政府が認めている。
日本で言えば、特命全権大使がコミットしている形であり、小池氏側としては「これ以上、卒業を証明する方法はない」ということになるのだろう。バランスを考えれば、疑惑を追及する側は「偽造である」と証明する必要がある。
SNS上には「学歴問題VS二重国籍問題という究極の選択」などとユニークな投稿もみられるようになった。ただ、都知事選は言うまでもなく、わが国の首都を牽引するリーダーを選ぶ選挙だ。すでに20人以上が立候補の意向を示しているとされ、白熱した戦いが予想されている。出馬する人も支援する側も熱くなるのは理解できるが、それが単なる「批判合戦」「スキャンダル合戦」になることは期待されてはいないはずだ。あくまでも、都民のための選挙になることを切望したい。
佐藤健太
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