( 178338 )  2024/06/07 15:57:21  
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岸田文雄首相が内閣支持率が低迷している中で解散総選挙を見送り、政治資金パーティーや選挙敗北などに対処を優先する方針で調整していると報じられている。

しかし、経済アナリストの佐藤氏は首相が「破れかぶれ解散」を強行する可能性もあると指摘している。

首相は解散権を持つが、今の状況では解散総選挙を行うのは難しい状況とされている。

最終的に解散総選挙を見送り、秋以降の解散を慎重に検討する方針で調整中と報じられている。

 

 

首相の支持率は低迷し続けており、政府内でも解散に慎重論が広がっている。

公明党や自民党内でも選挙での敗北が懸念されており、解散総選挙を強行するか、それとも再選を目指すかの選択に迫られる状況にある。

現在の首相任期中に憲法改正を実現したいとの思いが強く、解散総選挙を機会にその議論を進める可能性もあるとされている。

党内の緊張や野党の動向も注目されている中、首相の決断次第で政局が大きく変わる可能性がある。

(要約)

( 178340 )  2024/06/07 15:57:21  
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 内閣支持率が低空飛行を続ける岸田文雄首相が秋の自民党総裁選前の解散総選挙を見送る方向で調整に入ったと報じられている。政治資金パーティーをめぐる裏金問題で逆風を受け、衆院トリプル補選や地方選での敗北が続き、与党議員の大勢は「選挙どころではない」(閣僚経験者)と否定的なためだ。だが、政界事情に通じる経済アナリストの佐藤健太氏は「このまま退陣不可避となるならば、岸田首相がイチかバチか『破れかぶれ解散』を強行する可能性はなお残っている」と見る。 

 

「今は政治改革をはじめ先送りできない課題に専念している。それらにおいて結果を出すこと以外のことは考えていない」。岸田首相は6月4日、今の通常国会での衆院解散の可能性について記者団にこのように語った。政界においては首相による「解散権」と「公定歩合」に関してはウソをついても構わないともいわれる。たしかに足元の政治状況を考えれば現時点で首相が“伝家の宝刀”を抜くとは考え難い。 

 

 公明党の山口那津男代表も同日の政府・与党連絡会議後に「地方選で自民党ないし与党の推薦した候補が負け続けている。真摯に受け止めなければならない」と記者団に語り、自民党の「政治とカネ」問題に対する批判が高まる中での衆院解散にクギをさした。自民党の小泉進次郎元環境相も「あの時より怖い」と、自民党が下野した2009年の総選挙時を上回る大逆風にあることへの危機感を強める。 

 

 通常ならば、連立政権を組む公明党の代表が反対し、自民党内でも慎重論が大半となれば解散権は事実上封じられると言って良い。だが、「何をするか分からない人」(岸田氏に近い閣僚経験者)といわれる岸田首相がいまだ解散総選挙による事態打開を狙っているとの見方は完全に消えてはいない。首相に近ければ近い人物ほど「どこかの時点で信を問わなければならない」などと声を潜めるのだ。 

 

 朝日新聞は6月4日に「今国会中の解散見送りへ」と大々的に報じ、今の通常国会の会期(6月23日まで)は延長せず、衆院解散を見送る方向で最終調整に入った、と記した。読売新聞も6月5日に「秋の総裁選前の解散・総選挙見送りへ」と報道している。「当面は経済の好循環の実現や信頼回復に集中し、総裁選で再選を果たせば、秋以降の解散を慎重に検討する考えだ」という。 

 

 

 これまで首相は、4月の訪米や5月の外遊で「外交の岸田」として存在感をアピールし、今春闘の賃上げ効果や6月の定額減税実施によって支持率を浮揚させるシナリオを描いてきた。だが、4月の衆院補選や5月の静岡県知事選などでの敗北が続き、直近のJNNによる世論調査(6月1、2日)でも支持率は前月から4.7ポイント下落の25.1%と低迷。不支持率は71.6%(前月比3.7ポイント増)に達しており、依然として厳しい状況を脱していない。 

 

 ただ、首相による「破れかぶれ解散」の可能性が消えない理由には、これまでの言動がある。首相は3月、衆院解散について「全く考えていない。政府・与党としては予算を年度内成立させることが何より重要だ」と述べた。4月には「政治改革に向けた取り組みの進捗や取り組みぶりを見ていただいた上で、最終的には国民の皆さん、党員の皆さんに判断いただく立場にある」と語っている。そして、5月22日の参院予算委員会では「今国会最大の焦点は政治資金規正法改正で、会期中に実現する」と説明した上で、「解散など、それ以上のことは何も考えていない」と答弁した。 

 

 これらの発言は自民党の「政治とカネ」問題に対する批判を政治資金規正法の改正によって、はね除けた上で信を問う「6月解散」が念頭にあったのは間違いない。シナリオとしては、7月7日投開票の東京都知事選との「ダブル選」も選択肢にあったはずだ。ただ、首相が公明党と日本維新の会との協議を経た改正案の国会提出は遅れ、参院での審議を踏まえれば会期末までの日程は窮屈となった。 

 

 国民民主党の玉木雄一郎代表が記者会見で「解散戦略にも狂いが生じてきているのではないか」と指摘したように、たしかに「6月解散」どころの状況ではなくなった。むしろ、首相が「今国会最大の焦点」と位置づけた政治資金規正法の改正案を円滑に会期内成立できるのか黄信号が灯り始めている。 

 

 そこで気になるのは、6月23日までの国会会期を延長する可能性があるのか否かだ。党首討論の開催や立憲民主党などによる内閣不信任決議案の提出などをにらめば、与党内には会期延長に慎重論も少なくない。しかし、「最大の焦点」であるはずの改正案を強引に成立させたとなれば野党からの格好の攻撃材料になる。 

 

 

 朝日新聞は「会期延長なし」と報じているが、政府・与党が最終的にどのような結論を下すのか注目されるところだ。攻勢を強める立憲民主党の安住淳国会対策委員長は「何が起きるかわからない。緊張感をもってやらせていただく」と語り、日本維新の会の馬場伸幸代表も「(解散の可能性が)0%になったとは思わない」と警戒を隠さない。 

 

 首相による「破れかぶれ解散」の可能性が残る理由は、もう1つある。むしろ、こちらの方が頷けるものだろう。それは岸田氏の「任期」だ。現在の衆院議員の任期満了は2025年10月末で、今秋に残り1年となる。ただ、自民党総裁の任期は9月末で満了を迎えるため、岸田首相がそれ以降も続投したい場合は党総裁選で再選を果たさなければならない。 

 

 今、首相の脳裏に浮かぶのは菅義偉政権の末期だろう。菅氏は首相時代に参院補選や地方選での敗北が続き、政権末期は内閣改造や解散権を行使できなかった。党総裁選への出馬も断念せざるを得ず、代わりに登場したのが岸田氏だ。 

 

 実は、現職宰相である岸田氏は党総裁選への出馬に必要な推薦人20人を集められるのかどうか不安な状況にある。2021年の前回総裁選で岸田氏は最大派閥だった「清和政策研究会」(安倍派)や麻生太郎副総裁が率いる「志公会」、茂木敏充幹事長の「平成研究会」から4人ずつの推薦人を確保し、自らが会長を務めていた「宏池会」(岸田派)の2人や無派閥議員らで枠を埋めた。 

 

 だが、派閥の政治資金パーティーをめぐる裏金問題によって安倍派や岸田派などは解散することになり、派閥が結束して総裁候補を擁立する力はもはやない。政治資金規正法の改正案づくりなどで生じた麻生氏や茂木氏との亀裂も報じられ、無派閥議員にも「岸田氏の下では衆院選を戦えない」との声が広がる。各種世論調査でも岸田氏の宰相としての人気は低迷したままだ。 

 

 来年夏には参院選や東京都議選もある。小泉元環境相が言及するように再び下野することを回避したいならば、少なくとも今年中に解散総選挙を実施しておきたい議員心理が働く。とはいえ、その前に自民党総裁選があり、しかも推薦人すら現職宰相が確保できない可能性があるとすれば―。 

 

 残される選択肢は、岸田氏が菅前首相と同じように総裁選出馬を断念するか、解散総選挙を強行するかのいずれということになる。もちろん、総裁再選を目指してきた岸田氏が選ぶのは後者のはずだ。その場合、国会会期を延長してでも政治資金規正法の改正案を成立させた上で、憲法改正などを争点に衆院を解散することが考えられる。 

 

 首相は5月末に開催された超党派の新憲法制定議員同盟の大会にビデオメッセージを寄せ、憲法改正は先送りのできない課題とした上で「国民に選択肢を示すことは政治の責任で、いたずらに議論を引き延ばして選択肢の提示すら行わないならば、責任放棄と言われてもやむをえない」などと改憲に向けた決意を表明した。 

 

 

 今年1月の施政方針演説で岸田氏は「自分の任期中に(憲法)改正を実現したいとの思いに変わりはない」とも述べており、9月までの総裁任期中に改正原案を国会に提出し、改憲への道筋をつけたいとの思いは強い。 

 

 憲法改正を争点に衆院を解散すれば、足元で増幅している保守層離れを食い止め、「下野」まではいたらないダメージコントロールをできるのではないか、との計算もあるのだろう。何より、解散総選挙に打って出れば求心力が回復し、党総裁選への推薦人も確保して再選を手にすることができるとの読みも働いているはずだ。 

 

 岸田氏は2021年の首相就任直後に10月19日告示、同31日投開票というスピード解散に踏み切った。岸田氏の公式サイトには解散した理由について「この岸田に、お任せいただけるのかどうか。それをまず、国民の皆さまに問わなければならない」と記されている。それから3年近くが経ち、自民党内で“勝負師”の異名もある岸田氏がイチかバチかの勝負をする可能性は低いとまでは言えないのではないか。 

 

 もちろん、自民党が大逆風を受ける現在の状況下で与党議員の多くは衆院解散に反対のはずだ。ただ、仮に次期総裁選で勝利した人物がすぐに総選挙で勝負に出ても現在の議席数を確保できる保証はどこにもない。議席減となり、来年夏の参院選でも敗北すれば憲法改正は夢のまた夢だ。レームダックのように見える首相だが、「死んだふり解散」に踏み切る可能性はなおも残されているように映る。 

 

佐藤健太 

 

 

 
 

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