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前回記事で「ハイパーインフレになる可能性もある」と述べた、元モルガン銀行東京支店長の藤巻健史氏。では、どうやって自分の資産を守ればよいのか。「ドルがいいですが、もっとよい資産もあります」というーー。みんかぶプレミアム「クライシス円安」第7回。
――現在の円安についてどのようにお考えですか。
藤巻健史
私は為替というものは国力を反映するものだと思っているのですが、現在のドル円相場はヨットではなくタンカーのように、段々と方向を変えて、長い期間をかけてドル高に進んでいるというふうに捉えています。
そう考える理由の一つは、まず債務の対GDP比というのは国の借金を返せるかランキングです。というのも、大雑把に言えばGDPが2倍になると税金も2倍になるので、借金をGDPで比べるというのは借金を税収と比べているようなことだからです。ですので、対GDP比で借金が断トツに多い日本は対GDP比で借金が断トツで多いということは、税収では到底借金を返すことができない国ナンバーワンということが言えます。
では、税収で返せないとなると他に返せる手段はもうインフレしかないと思っています。ハイパーインフレは実質的な大増税ですからね。日本は今その方向に向かいつつあると思います。
――為替は国力を反映しますか。また、国力が強くなれば通貨は強くなるとお考えでしょうか。その理由は。
藤巻健史
大原則として、日本のマーケットは完璧なものではなく、構造改革が必要な分野だと思っていますが、もしマーケットが完璧なものであれば国力を反映すると思います。
強い国であれば景気が良いので金利は高いですよね。儲かるチャンスも多いので株価が上がります。事業投資が活発になり、お金が他国からも流れ込むわけです。
弱い国はお金が流れ出していくわけです。
このように、国力が強ければ、通貨も強くなるのですが、強くなりすぎると国際競争力が落ちるので、今度は逆に弱くなっていきます。そして、その通貨建てで売るモノ、サービス、労働力が安くなるので、国際競争力が増します。為替の変動相場制とは、本来、経済の自動安定装置ですばらしいものなので、話を元に戻すと、基本的には弱い国から強い国へとお金が流れていくので、現状はドル高・円安が進むのは当たり前の話と言うことです。
――今年に入って、政府・日銀が複数回にわたって為替介入を実施したとみられていますが、これはすでに手遅れということでしょうか。
藤巻健史
そもそもの話ですが、為替介入というのは需給の問題です。マーケットは基本的にファンダメンタルズで動くものなので、需給を多少変えたとしてもトレンドは続いてしまうと思います。日本は株式や国債も日銀がものすごく購入しています。要するに、日銀は日本一の大株主です。しかし、中央銀行で自国の株を金融政策目的に買っている国なんて、G20には他にありません。スイスは為替目的で買っていたりしますが、金融政策目的ではありません。
しかし、日本では中央銀行である日銀が株式全体の大株主になっている上に、国債市場ではモンスター級な介入をしているわけです。
日本人はそれが当たり前だと思っていますが、このように計画経済的に中央銀行や政府が市場に入ってくると、市場原理が働かないのでマーケットが歪んでしまいます。資本主義においては禁じ手なのです。その結果、為替の場合も、政府や日銀が介入して何とかするだろうと思っているでしょうが、これは資本主義国家または市場主義国家においてはルール違反であることを知っておかないといけません。
藤巻健史
国債にしても株式にしても、政府や日銀が介入して市場を歪めることによって最終的に痛い目に遭うのは日本国民なので、他国は文句を言いませんが、為替に関しては相手国があるので、例えばドル円で言うと米国の利益を考えなければいけません。
日本は円安が嫌だからといって、ドル売り介入しようとしても周辺のアジア諸国もみんな同じことを考えています。小さい国ならさほど問題はないですが、日本のような大きい国がドル売り介入をして、万が一ドルが安くなった場合、米国にとっては大打撃ですよね。
今の米国経済の最大の問題は、インフレ再燃なわけです。もし、インフレが再燃してしまったら、バイデン氏は間違いなく大統領に再選されないと思います。また、トランプ氏はドル安の方が良いと言っていますが、それはバイデン氏を落選させるために言っているに過ぎないと思います。当選すればドル高が必要と言い出すのではないでしようか?繰り返しますが、米国の経済の最大課題はインフレ抑制なのですから。このように米国はインフレを引き起こすドル安を、現在毛嫌いしていますから、簡単に日銀の介入を許すわけがないのだと思います。
だからこそ、イエレン米財務長官がG7の国が為替介入するのは基本的に望ましくないという旨を何度も繰り返して言っているわけです。第一は、資本主義の原則に反することだから。
第二に、米国金融市場にとって良くない働きをするからということです。
仮に、日本が世界的に独立して米国と軍事面でも経済面でも協力せずにやっていけるということであれば話は別ですが、そうではないので米国が困るようなことはできないわけです。
藤巻健史
しかし、車のスピード違反を例にすると、50㎞/h制限の道路でも60㎞/hくらいで走っていてもそんなに厳密に取り締まられることはないですよね。10㎞/hぐらいのバッファはいいかな、という暗黙の了解があるわけです。その10㎞/hに相当するのがGDP2%程度の介入だと私は思っています。
ですので、米国がもし介入を許すとしたらGDPの2%なので具体的には約12兆円くらいまでなんじゃないかと考えています。今まで9兆円くらいはしてきたので、あと3兆円くらいは介入するんじゃないかとは思いますが、玉切れが予見されるなら介入など誰も怖がりません。効果なしです。
なぜ、GDPの2%までかというと、為替操作国に認定される3つの条件のうち、一つは円売りドル買いは2%までというルールがあります。これは貿易を守るために定められていることなので、ドル高のみを規制するためのものですが、私は逆サイド(ドル売り円買い)も同じようにアッパーで2%程度の許容はあるんじゃないかというふうに考えています。
あくまで推測ですが、米国は2%程度の介入であればインフレのトリガーにはならないと考えているのではないかと思っています。
しかしながら、為替介入は基本的にはルール違反であることと、米国はドル安になるとインフレが再燃するおそれがあるので、米国はGOP2%以上の介入は認めないだろうと思っています。
――米国の金利は今後どうなっていくと思いますか。
藤巻健史
米国の長期金利はまだ低すぎるんじゃないかと思っています。米国の長期金利は2~8%とJPモルガンのダイモン会長も言っています。サマーズ元米財務長官も長期金利上昇の可能性にふれています。私もかなり上昇すると思っています。
日本に比べるとはるかに少ないとはいえ、米国はお金をばら撒きすぎているので、その分を回収しないと、このインフレは収まらないと思います。1979年~80年のボルカー元FRB議長の「サタデー・ナイト・スペシャル」や1985年~90年の日本のバブルと同じようなことが起きるのではないでしょうか。というのも、1970年代の日本は狂乱経済だったのですが、当時のCPIは0.5%ととても低かったのです。当時は資産インフレでお金持ちが増え、本来ならCPIも上がるはずだったのですが、ドル円が毎年1ドル30円~40円ずつ強くなるという強烈なデフレ要因があり、相殺されていたのです。
米国は今まさにその状況で、株価指数は3銘柄とも史上最高値を更新しつつ、不動産価格も再上昇を始めています。日本のバブルの時と同じなのです。
特に米国では株を保有している人口が日本より圧倒的に多いので、意識的にはものすごくお金持ちになっているつもり、すなわち資産効果がすさまじいと思うのです。
藤巻健史
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