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京急蒲田駅が「京急蒲タコハイ駅」と改名し、田中みな実を起用したキャンペーンを展開したが、アルコール依存症のNPOから公共の場にそぐわないと指摘され、看板は撤去された。

この騒動は今後の酒類のPR活動にどのような影響を与えるかについて、中川淳一郎氏が考察を行った。

(要約)

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「京急蒲タコハイ駅」の看板が撤去される騒動に 

 

 京浜急行蒲田駅がサントリーとコラボして、田中みな実を起用した「京急蒲タコハイ駅」キャンペーンが大きな波紋を呼んだ。構内で缶チューハイのタコハイと蒲田名物の餃子を楽しめるようにしたが、アルコール依存症の問題に取り組むNPO法人から「公共の場にそぐわない」などと指摘を受け、看板は撤去された。今回の騒動は今後のアルコールメーカーの販促活動に影響をいかに与えるか。大手広告会社出身のネットニュース編集者・中川淳一郎氏が考察した。 

 

【写真】田中みな実を全面に押し出した「タコハイ駅」の様子 

 

 * * * 

 今回の件は、広告業界の会議でも大きな話題になりました。結論としては「酒のPRはより難しくなるな……」というものです。元々タコハイは1980年代に登場し、「カールおじさん」の制作者として知られるひこねのりおさんがタコのキャラを作りました。 

 

 ひこねさんはサントリーの缶ビールでもペンギンのキャラを描いていますが、両方のキャラが「酒のキャラとしては可愛すぎる。未成年が安易に手に取ったらどうするのだ」などと批判を受けた経緯があります。その後も同様のケースでは、キリンビールが「氷結」のウェブ限定でアニメCMを制作したものの、撤回した例があります。 

 

 令和版タコハイはアニメのタコキャラは採用されていませんが、そこはサントリーが昨今のコンプラ意識の高まりを重視したのでしょう。20~30代の若者とタコハイについて語る時、現在50歳の私は「1980年代にね、タコハイはタコのアニメキャラがCMに出ていたんだよ。今のタコハイってその系譜を継いでいるんだよ」なんて言ってしまいます。すると「えっ? タコ焼きと合うからタコハイなのかな、なんて思ってました!」なんて答えが来ます。 

 

 さて今回、京急蒲田駅では看板は撤去したうえで飲食ができる場所の運営は継続。NPOの主張はある程度受け入れたうえで、社会的に問題がないと判断できる範囲でのキャンペーン展開を続けました。 

 

 この企画は多額のお金がかかっていると見ます。金額を推測で述べるつもりはないものの、広告会社社員の話を聞くと、「かなりデカいキャンペーンで、もしも自分が携わった場合は『代表作』になる」なんて声もありました。 

 

 

 そこまで大規模なキャンペーンが縮小されたわけで、こうなると今後酒類のPRはいかにしてやるか……という話になってきます。まず、駅や空港を使ったキャンペーンは難しくなるでしょう。 

 

 基本線としては、公共の場では難しく、入場料を支払ったり、来場者が明確な意図を持ってお酒を飲もうとする場所なら許されるということになるのでは。駅も運賃という名の入場料を払ってはいるものの「公共交通機関」の名が示す通り、公共性が強すぎる。 

 

 今後、こうしたお酒がらみの販促キャンペーンをやる際は、今まで以上に「公共性」を考慮する必要があるといえます。公共性がある場所といっても、たとえば国立博物館で「酒の歴史展」といった文化の側面に絞った展覧会があった場合に、お酒の販売・試飲イベントを展開し、「国立酒博物館」というコーナーを作るのであれば問題はないかもしれない。 

 

 一体どこまでが「公共」なのかの線引きはNPO法人の判断次第となるでしょうが、キャンペーンを実施する企業の側もNPO的発想は持つべきではないでしょうか。そのうえで「ここは私空間である」と判断できる場合はキャンペーンを実施する。 

 

 とはいっても「オクトーバーフェスト」のようなビールのイベントは、東京都が管理している芝公園でも実施しているわけです。「タイフェス」「ラオフェス」等様々な酒が絡むイベントも代々木公園で実施しています。今回のサントリーの件は「駅の名前を一時的とはいえ酒の名前に変える」というところが「やり過ぎ」だと捉えられたのでしょう。 

 

 NPO法人の対応を「やり過ぎ」と見る向きもありますが、彼らはアルコール依存の人々・家族の苦悩を直接見ているからこその提言だと思います。だからこそオクトーバーフェストやタイフェスにはクレームを入れていない。今回の件はお酒やタバコをPRするにあたり、細心の注意をすべき観点を与えてくれたのかな、と呑兵衛の私も思いました。 

 

【プロフィール】 

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など多数。最新刊は『日本をダサくした「空気」』(徳間書店)。 

 

 

 
 

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