( 179693 )  2024/06/11 17:14:42  
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日本の出生率が年々低下しており、少子化を食い止めるためにはどうすれば良いかについて考察されている。

教育費無償化を含む子育て支援策が叫ばれているが、最新の調査ではその効果は限定的であることが示されている。

少子化の主要因は晩婚化や未婚率の上昇であり、子育て支援だけでは出生率を押し上げる効果は小さい。

教育費無償化も出生率に対して直接的な効果はないとされている。

現状では有効な少子化対策が見つかっておらず、政府の対策も限定的なものであると指摘されている。

(要約)

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年々低下する日本の出生率、少子化を食い止めるためには?(Photo/Shutterstock.com) 

 

 2024年6月5日、厚生労働省が2023年の「人口動態統計」を発表した。それによると、1人の女性が産む子どもの数の指標となる「合計特殊出生率」は1.20となり、8年連続で過去最低となった。また、都道府県別でみると、東京都が0.99と全国で最も低い数値であったという。少子化がさらに加速していく中、日本では、少子化対策として子育て支援や教育費無償化が叫ばれている。今の日本に求められるものとは。 

 

【詳細な図や写真】ワシントン大学が発表した最新分析の調査結果とは?(出典:「204の国と地域、811の地方における世界の年齢別死亡率、平均寿命、人口推計、およびCOVID-19のパンデミックの影響:世界疾病負担研究2021の包括的人口統計分析」) 

 

 厚労省が出生率を発表した翌日(2024年6月6日)に、今度は日経新聞が読者約5000人を対象に実施したアンケートを公開した。同記事によれば、 

 

「政府が打ち出す対処法以外に有効な策について尋ねた項目では、『小学校から大学までの学費無償化』が最多で46.3%を占めた。政府が打ち出す対処法以外に有効な策について尋ねた項目では、『小学校から大学までの学費無償化』が最多で46.3%を占めた」 

のだという。この記事に反応したのが、教育費無償化を掲げる日本維新の会だ。 

 

 維新共同代表である吉村洋文大阪府知事は、同日に上記日経記事を引用しつつ、 

「子育てで一番お金がかかるのが教育費。政府は『危機的状況!』というなら、高校の無償化、国公立大学の無償化くらいやればいい」 

と自身のXに投稿した。 

 

 維新代表の馬場伸幸衆議院議員も合計特殊出生率の低さに触れつつ、 

「今までの少子化対策が全然効いていないことが明白になりました。1日も早く教育無償化などやれることは全部思い切ってやりましょう!!東京もこのままでは老いていく!!」 

と自身のXへの投稿(6月5日)で述べている。これらのニュースと維新の両トップの投稿を分析していこう。 

 

 まず、冷静になって考えれば、高校や大学の教育費を無償化しても、出生率が上がらないことは、明らかなことだ。理由は簡単で、高校生や大学生を子どもに持つ母親が、妊娠や出産の適齢期を過ぎていることが多いためだ。 

 

 当初、教育費無償化は少子化対策の1つに考えられていたが、この認識が広まるにつれ、維新は「教育費無償化は、世代間格差の是正だ」という風に、論点を変えてきたところだったのである。 

 

 しかし、日経新聞のアンケートをみて、ここぞとばかりに、以前の主張を述べたということだ。アンケートはアンケートとして、何らかの価値があるのだろうが、少子化対策としては意味がないことは明白だ。 

 

 今日現在、少子化の主要因は、明らかになっている。それは、晩婚化と未婚率の上昇である。人口学の専門家である鎌田健司氏が『少子化対策の「ずれ」の正体:人口学からみた未婚化・晩婚化』(調査情報デジタル)で述べているように、政府が進める「子育て支援」は出生率を押し上げる効果が小さいのだ。 

 

 生まれた後の支援=子育て支援に、いくら注ぎ込んだところで、どうにもならないというのが実態だ。 

 

 政府内でも、維新内部でも、この認識が広まっているように感じていたが、衆議院選挙や都知事選が近くなると、国民をミスリードするようになるから恐ろしいものだ。 

 

 いずれにしろ、岸田政権は肝いり政策である「異次元の少子化対策」を撤廃すべきときだろう。それが岸田首相にできないというのなら、次の政権に譲るべきだろう。 

 

 

 さて、最近でも子育て支援が出生率上昇に意味をなしていないという調査が米国で発表されている。 

 

 この調査は、米国・ワシントン大学のIHME(Institute for Health Metrics and Evaluation)が主導する研究活動「GDB(Global Burden of Disease)」の最新の分析だ。 

 

 

 調査の資金提供者にビル・アンド・メリンダ・ゲイツ財団とあるから、マイクロソフト創業者のビルゲイツが調べさせた研究だ。同分析によれば、次のような調査結果が提示されている。 

 

・1950年以来すべての国で減少している世界の出生率は、今世紀末まで急落し続け、その結果、深刻な人口動態の変化が起こる。出生率は、1950年の4.84から2021年には2.23となり、2100年には1.59まで下がり続ける。 

・育児補助金、育児休暇の延長、税制優遇措置など、一部の国が実施している出産促進政策の効果も調べた。その結果、出産促進政策が実施された場合、女性1人当たりの出生数の増加は0.2人以下であり、強力で持続的な回復を示唆するものではなかった。 

・子育て支援政策は、ほかの理由からも社会にとって有益かもしれないが、現在の人口動態の変化の軌道を変えるものではない。 

・一方、低所得国での出生数の増加は、食料、水、そのほかの資源の安全保障を脅かし、子どもの死亡率の改善をさらに困難にする。政治的不安定や安全保障上の問題も、こうした脆弱な地域で発生する可能性がある。 

 

 この報告を読んだ『CNN』のミラ・チェン記者は、 

「この調査は、近代的な避妊具へのアクセスと女性教育(出生率の2大要因)が改善すれば、出生率が低下し、出生数の増加が抑制されることを示している」(『世界の出生率は今後数十年で急落、新報告書』CNN 3月21日) 

と指摘している。 

 

 日本では、少子化対策として子育て支援や教育費無償化が叫ばれているが、まったく意味がない。 

 

 女性の学歴アップや社会進出が出生率を下げている現実を論じること自体がタブーになっている可能性もあり、教育費無償化で女性の大学への進学率(50.7%)がさらに上がれば(高校への進学率は96%)、晩婚化が進むのは避けられないだろう。 

 

 筆者は、女性の大学への進学率を上げよと主張しているわけではない。女性が大学へ行きたければ、行けば良いし、行きたくなければ行かなければ良い。結婚したいタイミングで結婚をすれば良いと考えている。 

 

 単純に、教育費無償化が出生率を下げる事実を指摘しているだけである。世界中見渡しても、有効な少子化対策はいまだ見つかっていないのが事実だ。そのため、政府がどのような対策をしてもほとんど意味をなしていないのが現状だ。 

 

 「(出生率の)数字がどんどん下がっていくのに、手をこまねている見ていろというのか」というような、乱暴な意見が世論の大勢を占め、政治家や行政もパニックになっているが、もう一度、私たちは冷静になったほうがいいだろう。 

 

 まずは、出生率を下げる要因をできることから取り除くという意味で、教育費無償化政策は見直すべきなのではないだろうか。 

 

執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一 

 

 

 
 

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