( 179718 )  2024/06/11 17:40:55  
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中国の不動産バブルが崩壊しており、2023年に入って景気回復が弱いL字型成長になっている。

中国は貯蓄率の高い国であり、金融市場の整備不足や投資の少なさから、多くの富裕層が不動産投資を選好してきた。

しかし、2021年、習近平主席の発言をきっかけに不動産需要が抑制され、さらにコロナ禍により不動産市場の過剰供給問題が浮上してバブルが崩壊した。

この影響で不動産業の弱体化だけでなく、金融機関や地方政府にも影響が及ぶ可能性がある。

中国政府は迅速な対応が求められるが、放置すれば不動産業だけでなく金融・行政・政府への影響も懸念される。

(要約)

( 179720 )  2024/06/11 17:40:55  
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中国不動産バブル 

 

中国経済の牽引役だった不動産業が不調だと言われている。そもそも中国における不動産バブルが如何にして形成されたか、なぜ不況に歯止めが掛からないのか。そして、この後中国で何がおきるのか。 

 

【図】年々上昇し続ける中国の貯蓄率 

 

書籍『中国不動産バブル』より一部抜粋・再構成し、どこよりもわかりやすく解説する。 

 

2023年に入ってからの中国経済は、予想外に景気回復の力が弱く、L字型成長になっている。 

 

これまで多くの地方政府は、不動産バブルのさらなる膨張を警戒して需要を抑制する政策を講じてきたが、2023年からは需要抑制政策を撤廃ないし緩和する方向へ方針転換している。 

 

地方によって内容は異なるが、具体的に、(1)住宅購入制限の完全撤廃、(2)住宅購入制限の部分的緩和、(3)住宅ローン借入制限の完全撤廃、(4)住宅ローン借入制限の部分的緩和、(5)住宅価格制限の緩和などである。 

 

そもそも中国は貯蓄率の高い国である。金融市場を管理する法制度が整備されておらず、安心して投資できる金融商品も少ないからだ。 

 

中国では金の現物を買って家においておく伝統があるが、その金を大量に買って貯め込むことは非現実的である。結局、富裕層の多くは不動産投資を選好することになる。 

 

2戸目、3戸目とマンションを購入して、値上がりするのを待ってから売るというもっとも古典的な投資を手掛けてきた。こうしたなかで不動産価格は急騰してバブルとなった。 

 

ところが2021年、習近平主席が「家は住むためのものであり、投機の対象ではない」と呼び掛けたのをきっかけに不動産需要が抑制され、住宅購入制限や住宅ローン制限が導入された。 

 

そのうえ、3年間のコロナ禍により、不動産市場の過剰供給問題が浮上して、不動産バブルは崩壊してしまった。多くの地方政府は前述の(1)~(5)のいずれかの緩和策を打ち出しているが、需要喚起の効果は期待されるほど表れていない。 

 

不動産バブルは先進国でも新興国でも起こりうるものだが、中国で不動産バブルが大きく膨張するのは偶然性によるものなのか、必然性によるものなのか。中国の場合はどちらかといえば、必然的で避けられないものと思われる。 

 

これまで述べてきたように、中国政府は都市再開発に伴う不動産開発を経済成長のエンジンと位置づけている。また、土地の入札手続きについては透明性を欠いているため、値段が上がりやすい。 

 

中国の貯蓄率はGDPの40%を超えているが(図表2参照)、その多くが不動産市場に流れている。 

 

理論的に考えれば、一国の貯蓄を投資主体の企業部門に効率よく仲介するのは金融市場と金融機関の役割である。 

 

貯蓄が銀行を通じて企業部門に仲介されるのは間接金融と呼ばれている。それに対して、貯蓄が証券市場などを通じて企業部門に仲介されるのは直接金融と呼ばれている。 

 

中国の金融仲介は国有銀行を軸に行われているが、国有銀行は効率も業績も悪いため、リターンを求める家計にとって銀行に預金することは魅力がない。 

 

結局、人々はより高いリターンを求めて金や不動産などの投資に走ったのである。コロナ禍前から世界の金価格が急上昇しているのは中国人の投資と無関係ではない。日本でも、10年前に比べれば、円建ての金価格は倍以上に上昇した計算になっている。 

 

 

今後、不動産バブル崩壊の影響はどのように広がっていくだろうか。 

 

あらためて不動産バブルの原因とプロセスをみてみよう。富裕層は投資目的で不動産を購入し、不動産バブルに拍車をかけた。 

 

だが、習主席の呼びかけと3年間のコロナ禍によって、不動産の需給バランスは大きく崩れてしまった。 

 

バブルが終息する条件は、供給が需要に見合うレベルにまで下がって需給がリバランスすることである。中国不動産市場の需給関係をみると、今のところ、サプライサイドの調整より需要の萎縮が速いため、リバランスするのに予想以上に時間がかかると推測される。 

 

不動産バブル崩壊がマクロ経済に与える影響としては、中国の経済成長率を一段と押し下げる恐れがある。中国の不動産業は、建設業のほか、広く捉えれば建材や家具などを含めて、GDPの3割を占めるといわれている。要するに、不動産バブルの崩壊は、経済成長を牽引するエンジンが弱まることを意味する。 

 

また、不動産バブルの崩壊は間違いなく、市中銀行(そのほとんどは国有銀行だが)に飛び火する。デベロッパーはすでに債務返済を延滞している。 

 

マンションを購入した個人の一部も住宅ローンの返済を延滞している。結果的に市中銀行のバランスシートに巨額の不良債権が現れると予想される。 

 

地方政府も影響を免れることはできない。中国の地方政府は地方債などを起債して、巨額の債務を抱えている。 

 

とくに地方政府は銀行から融資を受けやすいように、「融資平台」と呼ばれる投資会社をたくさん設立している。これらの投資会社は政府保証あるいはサポーティングレターを手に、国有銀行から巨額の融資を受けている。 

 

この融資を最終的に返済する義務があるのは間違いなく地方政府である。土地財政が崩壊していない局面においては、地方政府はなんとか切り盛りができていた。経済が順調に成長している局面においては、地方政府に対するガバナンスが機能せず、彼らは貴重な財源を好き勝手に無駄遣いしていた。 

 

中国の市役所や区役所はアメリカの議会議事堂と同じぐらい大規模なものが多い。これらの役所の建設費と修繕維持費はいずれも地方財政にとって重い負担になっている。土地財政が崩壊してしまえばあっという間に危機に陥る。 

 

繰り返しになるが、中国の年金などの社会保障基金は各々の市政府が所管している。地方財政が破綻状態に陥れば、年金ファンドも資金が枯渇してしまう恐れがある。 

 

こうして全体を俯瞰すると、中国政府は不動産バブル崩壊に迅速に対処しなければならないことが分かる。問題は、どのように対処するかである。このまま状況を放置すれば、不動産バブルの崩壊は不動産業に限らず、金融、行政、さらに共産党の統治体制を脅かす心配がある。 

 

写真/shutterstock 

 

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柯隆(か りゅう) 

 

1963年、中国・南京市生まれ。88年来日、愛知大学法経学部入学。92年、同大学卒業。94年、名古屋大学大学院修士課程修了(経済学修士号取得)、長銀総合研究所入所。98年、富士通総研経済研究所へ移籍。2006年より同研究所主席研究員。18年、東京財団政策研究所に移籍、現在、同研究所主席研究員。静岡県立大学グローバル地域センター特任教授を兼務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです) 

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柯隆 

 

 

 
 

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