( 180088 ) 2024/06/12 17:28:19 1 00 厚生労働省が先週発表した2023年の人口動態統計によると、出生数と合計特殊出生率が国の予測よりも大幅に低かったことから、少子化問題の深刻さがますます認識されるようになっている。 |
( 180090 ) 2024/06/12 17:28:19 0 00 写真提供: 現代ビジネス
---------- 少子化問題が深刻化しているとの認識が広がってきている最中、厚生労働省が先週発表した2023年人口動態統計の出生数と合計特殊出生率は国の従来の予測よりも大幅に低く、その認識を一段と深めるものになった。日本経済新聞は一面トップで「出生率1.20で最低 昨年、東京は1割れ 人口減に拍車」といった危機感もあらわの見出しを掲げて報じた。しかし、岸田政権の現在の「対策」は、この問題の根本原因がいまだにわかっていない頓珍漢なものだと、著書『「人口ゼロ」の資本論 持続不可能になった資本主義』の著者で慶應義塾大学名誉教授の大西広氏は警鐘に鳴らす。 ----------
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6月5日に厚生労働省が発表した昨年の出生数と合計特殊出生率は世間を驚かせ、少子化の深刻さを認識させる結果となった。出生数については当初75万9000人と伝えられていた速報値が72万7000人へと大幅に引き下げられたほか、合計特殊出生率も2022年の1.26から23年の1.20へと大幅に下がったからである。
政府は昨年、岸田総理を議長とする「こども未来戦略会議」を何度も開催、「異次元の少子化対策」というキャッチフレーズで「まずは今年からの改善を目指す」と張り切っていたが、その「実績」がこの一層の少子化の進行となっているのである。厚生労働省発表の翌日6月6日の日本経済新聞も「これまで66兆円もの少子化予算を投入しているのにどうして?」という感じの記事を書いているが、ポイントをはずした「対策」に効果がないのは当然である。この少子化は多くの若者が結婚したり、子供を作ったりできないような貧困な状態におかれているのが原因である。私はそのことを示すために昨年『「人口ゼロ」の資本論』という書物を出した。その点を理解できない「対策」に効果がないのは当然である。
たとえば、政府は来年度から「第3子以降の子どもの高等教育の無償化」を計ろうとし出しているが、これは子供を持てる家庭、また3人の子供と一緒に住める程度の家に住んでいる家庭に対する補助金でしかなく、出生数減の最大の原因である貧困層にはまったく目が向いていない。こういう対処療法的な「対策」ではなく、たとえば消費税の全廃とか、非正規労働の正規化とか、最低賃金を2000円にするとか、そうした社会の根本的な転換なしにこのトレンドは逆転できないのである。
したがって、この視点からすると、政府の「少子化対策」とは、そうした根本的転換をしないがためのパフォーマンスにすぎないこととなる。「やってる感」をかもし出すがためのパフォーマンスに騙されてはならない。
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しかし、ともかく、こうして本質的な無策が続けられる中での「予想を超えた」少子化の進行は、これだけの急激な少子化の進行を予測し得なかった政府予測部門の責任をも明らかにすることになる。この人口予測は国立社会保障・人口問題研究所によって担われているが、次の図にあるように、ことごとく過去の中位予測を下回っているだけでなく、1997年の予測における低位予測をも下回ることとなっているからである(ついでに言うと今年2024年の実績も2002年の低位予測を下回りそうだ)。
ただし、このグラフはそのこと以外にも2つの興味深い事実を教えてくれる。
そのひとつは、2004年に至る過程の当初(1997年)の予測と現実値との相違で、1997年中位推計が「増加」を予測していたのにもかかわらず、現実値がぐんぐん低下したということである。この頃に子供を持とうとした世代は第二次ベビー・ブーム世代なので、彼らの生活感覚の変化が見て取れる。
もうひとつは2010年代後半からの激しい落ち込みで、これは「就職氷河期世代」の結婚・出産行動を反映している。要するに目指した就職ができずに結婚と出産を諦めたのであるから、ここで言う「若者の貧困」にあたる。本稿が問題としているのはこのことである。
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したがって、人口予測を行なう予測機関も、もちろん政策当局も関心を払わなければならなかったのはこうした若者たちの状況で、それを知らずに頓珍漢な「対策」ばかりをし続けることへの真剣な反省が求められる。
たとえば、1997年をピークに下がり続けている実質賃金は2023年段階ですでに16.5%も低下し(その最大の被害者は若年世代である)、その2023年の実質賃金は前年度マイナス2.5%となっている。「30年ぶりの賃上げを実現」と言われた春闘があっても全体の賃上げ率は1.2%にとどまり、一方の消費者物価は3.8%の上昇を記録したからである。ちなみに、今年のデータはまだ完全ではないが、先月末に厚生労働省が発表した「2023年度」のそれも名目賃金の1.3%の上昇、物価の3.5%の結果、やはり実質賃金は2.2%の下落となっている。
考えてもみれば、こうした現状の下で婚姻率やその結果としての出生率が上がるはずはない。政府はなぜ出生数が下がり続けるのか理解できないといった対応を見せているが、問題の在りかを理解できていないのが原因である。国会で、あるいは選挙で示すしかないということなのかもしれない。
大西 広(慶應義塾大学名誉教授)
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