( 182880 ) 2024/06/21 01:59:15 0 00 (撮影:今井康一)
都民だけでなく全国民が注目する東京都知事選が6月20日に告示され、56人という過去最多の立候補者による多彩な選挙活動がスタートした。7月7日投開票の「七夕決戦」となり、「その結果は、支持率低迷にあえぐ岸田文雄首相の政権運営にも大きな影響を及ぼす」(政治ジャーナリスト)ことは間違いない。
話題満載の首都決戦の“主役”は、やはり3選に挑む小池百合子知事(71)と立憲民主党参院議員だった蓮舫氏(56)という「政治家としての知名度や実績が群を抜く二人の女傑」(政治ジャーナリスト)だ。ただ、“脇役陣”もこれまで以上に多士済々で、「巨大都市・東京」の次の顔を巡る選挙戦は、「異例づくめで、異様さも際立つ展開」(同)が想定される。このため、岸田首相をはじめ、与野党首脳らはそれぞれの立場から「固唾をのんで結末を見守る」(自民幹部)ことになりそうだ。
■注目集める「似た者同士」の闘い
告示前から、主要メディアが「どちらが勝つか」と煽り立てている「小池vs蓮舫」だが、そもそも、「首相とも比肩される都知事が“女の闘い”となるのは史上初」(自民幹部)となる。しかも、小池、蓮舫両氏は「いずれも民放テレビのキャスターを経て中央政界に華々しくデビューし、主要政党の党首も経験して初の女性首相候補と目されてきた似た者同士」(政治ジャーナリスト)だけに、「注目度の高さは過去最高」(選挙アナリスト)とみる向きが多い。
その一方で、今回都知事選には、前安芸高田市長・石丸伸二氏(41)、元航空幕僚長・田母神俊雄氏(75)、有名タレント・清水国明氏(73)らが参戦。さらに、先の衆院東京15区補欠選挙での度を超えた他候補攻撃で警視庁に公職選挙法違反容疑で逮捕され、現在も拘置中のつばさの党代表・黒川敦彦氏(45)も立候補している。
これら知名度の高い各候補は、黒川氏以外は政党色のない無所属で、メディアや各関連団体の「候補者討論会」にはそれぞれの立場で参加する構えだ。その一方で、近年急速に拡大しているいわゆる「SNS選挙」として、ネット上でも独自のアピールを展開する候補も多く、選挙アナリストの間では、「ネット選挙がどれだけ得票に結びつくかを検証できる絶好のチャンス」(有力アナリスト)とも言われている。
さらに、今回の「小池vs蓮舫」の政治的位置づけでは、両氏とも無所属での出馬だが、小池氏は自民、公明両党と地域政党「都民ファーストの会」に加え、連合や国民民主党が支持する構え。対する蓮舫氏は、立憲民主、共産、社民の各党が前面に出て支援する方針のため、「事実上の保革対決の構図」(選挙アナリスト)となっている。
東京都選挙管理委員会によると、19日現在の選挙人名簿登録者数は1153万3132人。前回都知事選の告示日前日に比べ約6万4000人多い。その上、「巨大都市・東京はその経済規模でも欧州の中堅国会に比肩する」(政治ジャーナリスト)こともあり、「世界でも例の少ない空前の大都市選挙」(同)であることは間違いない。
■「主要4氏」が候補者討論会で舌戦
こうした状況を踏まえ、告示前日の19日夕刻には、多くのメディアが「主要候補」と位置づけている小池、蓮舫、石丸、田母神の4氏が、恒例の「日本記者クラブ候補者討論会」で舌戦を展開。NHKの完全中継だけでなく、民放各局も定時ニュースや情報番組などで「ハイライト」として報じた。また、ネット上でも各媒体が生中継し、X(旧ツイッター)での書き込みでも「候補者討論会」がトレンド上位となった。
討論会は合計1時間余と短かく、候補者同士の質疑応答と、クラブ側からの代表質問の二部構成で進行。冒頭には4氏がボードで「政治屋の一掃」(石丸氏)、「首都防衛・大改革3.0」(小池氏)、「若者の手取り増・ガラス張りの都政」(蓮舫氏)、「結果を出す政治」(田母神氏)と掲げて所信を熱い口調でアピールした。
さらに、代表質問を軸に、少子化対策、原発とエネルギー政策という重要課題から、神宮外苑の再開発の是非や小池氏の学歴詐称疑惑まで、多岐にわたる論戦を展開。4氏とも20日からの選挙戦本番での街頭演説や各種討論会でも連日相まみえることになりそうだ。
■半世紀前の「美濃部vs石原」と同様の競り合いか
そこで、改めて都知事選の歴史などを振り返ると、現職が立候補した場合はすべて勝利しており、もし小池氏が敗れれば史上初の事態となる。また、投票率の推移をみると、1971年の72.36%が最高で、1987年の43.19%が最低。小池氏が出馬した2016年は59.73%、2020年は55.00%と近年では高率となっており、「話題性が高い今回は60%を超える可能性がある」(選挙アナリスト)との指摘も多い。
そうした中、今回と対比されるのが、現職と新人の大接戦となった1975年の美濃部亮吉知事(3選出馬)と石原慎太郎前参院議員(いずれも当時)の対決。結果的に美濃部氏268万余、石原氏233万余の得票で美濃部氏が3選に成功したが、「史上初の200万票台の競り合いという構図は今回にも当てはまる」(同)との見方も少なくない。
その一方で、注目度が高い都知事選だけにこれまでも「売名目的の立候補者の多さ」(同)が話題となってきたが、今回の立候補者数は、過去最多だった前回2020年の22人を大幅に上回る56人に激増。このため都内各所に設置される候補者の選挙ポスターを貼る掲示板も前回の倍以上となる大きさの48人分を用意していたが、それでも8人分不足し、都選管は49人目以降の届け出候補者分については当該各候補者にクリアファイルなどを支給し、それぞれが自ら掲示板に固定するよう求めることにした。こうした一連の作業のあおりで本来の都選管の業務遂行にも支障が出る事態ともなった。
さらに、政治団体「NHKから国民を守る党」(立花孝志党首)がなんと24人もの候補者を立て、現行の公職選挙法の“抜け穴”を突く形で、掲示板の占拠部分を“販売”して資金調達するという「狡猾な手法」(同)も表面化した。
■「何でもありのカオス」にどう対応?
こうした選挙の本質とかけ離れた騒動は「次回以降もさらに拡大するのは確実」(都選管)で、その先駆けとして「今回都知事選はすべて異例ずくめで、しかも、選挙の在り方自体が問われかねない、まさに何でもありのカオス」(選挙アナリスト)となり、関係者の頭痛の種は増すばかりだ。
このため、政界関係者の間では「今後の国政選挙や地方選挙のルールの歪みを正すため、政府や与野党が早急に公選法改正などに取り組む必要がある」(自民選対)との声が高まっている。
ただ、「基本的人権の1つである立候補の自由とどう折り合いをつけるか」(選挙アナリスト)など難題が多く、1年後の次期参院選や2025年秋までには確実に実施される次期衆院選までに法改正などにこぎつけられるかどうかは極めて不透明だ。
泉 宏 :政治ジャーナリスト
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