( 183373 ) 2024/06/22 16:57:45 1 00 トランコムの名古屋情報センターでは、アジャスターと呼ばれるスタッフが、荷主企業と運送会社の間で荷物情報と空きトラックのマッチングを人力で行っている。 |
( 183375 ) 2024/06/22 16:57:45 0 00 トランコムのオフィス。1人2台の電話を駆使し、マッチングを行っている(撮影:永谷正樹)
名古屋市東区にあるオフィスビルの14階。朝から60人ほどのスタッフがパソコン画面に向き合い、デスクに置かれた2台の電話を駆使して荷主企業と運送会社に応対していた。
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「〇〇方面の荷物が出る予定はないですか?」「来週愛知に運行する予定はありますか?」など、オフィス内にスタッフの声が響き渡る。
ここは物流企業トランコムの名古屋情報センターで、「アジャスター」と呼ばれる社員たちが働く。彼らは荷主と運送会社の間に立ち、荷物情報と空きトラックの情報を人力でマッチングする「求貨求車」サービスを提供している。
現在、物流業界は2024年問題に直面している。ドライバーに残業規制が課され、拘束時間や休憩時間などのルールも強化された。運送会社の収入は減る可能性がある。荷主企業も物流コストの増加は必至。双方にとって運送の効率化が急務になっている。
トランコムは全国1万3000社の運送会社と連携し、トラックの積載率を底上げすべく日々マッチングを進める。1日あたりの成約件数は約6000件だ。アジャスターの実務から見えてくる物流の現場、そして2024年問題の現実とは。
■人力だからできること
アジャスターがマッチングするのは、主にこのような事例だ。運送会社が岡山から愛知へ運ぶ荷物を受注し、トラックを運行するが、荷物を下ろした後、岡山へ持ち帰る「帰り荷」がない。空車ではもったいないので、トランコムのアジャスターに荷物を探してもらう、という流れだ。
アジャスターは文字どおり、さまざまな調整を行う。運送会社にヒヤリングするのは、トラックが荷物を下ろし、空車になる場所、どの方面に荷物を運びたいか、いつまで待てるかなど。車両の設備も把握し条件に合う荷物を探していく。
過去の運行データやリストを参考に荷主企業へ電話をかけ、「明日運ぶ荷物はありませんか?」と営業をかける。荷物があれば何時に積み、どこで何時に下ろすのか。重量や梱包の状態を確認する。そして「この荷物とこのトラックが近い」と当てはめていくわけだ。
これらを荷主企業の配車担当者が再現するのは極めて難しい。日頃から取引関係のある業者に電話をかけ、運行できるかどうか確認する。すぐに返事をもらえることもあれば、待たされることもある。
トラックを確保できなければ次の会社、また次の会社へと電話し、結局、付き合いの薄い業者から「通常より高い運賃なら受ける」と言われてしまうこともある。
この点、トランコムは1万3000のパートナー運送会社を抱える。現在、国内の運送事業者数は約6万3000社で、5社に1社はトランコムと提携している。着実にトラックを押さえられるのは強みだ。結果的に運賃を安く抑えられるケースもある。
■「混載」「におい」にも配慮
運送会社も同様だ。業界は営業拠点を持たない小規模事業者が多い。トランコムは全国51のセンターに約600人のアジャスターがいる。どの方面へ運行しても、帰りの荷物を確保してもらえることがメリットになる。
マッチングの中には、より高度な配車や提案を求められる場面もある。そのひとつは1台のトラックに複数の荷主の荷物を積む「混載」だ。スペースを確保できるか。荷下ろし時間を守れるか。後に下ろす荷物は何時まで待ってもらえるかなど入念に確認する。においが移る荷物の組み合わせを避けるなど、人力ならではの配慮も必要だ。
アジャスター歴13年、名古屋情報センターで西日本セクションのチーフを務める蟹江佑香理氏は、視野を広げてマッチングにあたるよう普段から指示を出す。情報はつねにチームで共有しており、マッチングが滞っている案件があれば、即座にチェックする。
西日本セクションは中国、四国、九州と3つのエリアに分かれている。山口に荷物があるが、条件に合った空車がない状態もありうる。そんなときは山口ばかり探すのでなく、広島や九州などほかのエリアから配車の可能性を探るなど、広い視点が必要だ。別の情報センターと連携してトラックを探すこともある。
多くのトラックは午前中に荷物を届け、午後に荷物を積み込むサイクルで運行している。僻地や荷主の都合で午後指定の荷物があると、アジャスターもパートナー運送会社へ依頼するか悩んでしまうケースがあるという。
■配送方法はいくつもある
蟹江チーフはこうした例を見つけると「午前中に積み替えて、下ろし先に届けられる車両を探すなど、別の方法を探そう」などとアドバイスをする。答えは一つではない。工程を切り離して考える柔軟な発想も必要だ。
たとえば、名古屋に広島行きの荷物があるとする。しかし、岡山までのトラックしか確保できない。そんなときは岡山まで運び、その先は広島に届ける別のトラックを手配するなど、アジャスターがリレー形式の輸送を組み立てることもある。
運送会社の事情も加味して提案するのは容易ではない。荷主に対し「運賃は高くなるが、この方法でよいか」と交渉する力も必要だ。不測の事態もしばしば発生するため、現状、アジャスターの業務はネット上のマッチングやAIに置き換えることはできない。
蟹江チーフは組織力でマッチングする強みを語る。「荷物を受けるかどうか迷ったらやろうと言っている。自分でトラックを探せなくてもチームで探す。センター全体でも探す。途中までしか運行できないなら別のセンターに頼んで探せばいい。全国に何人アジャスターがいると思っているんだと(笑)。なんとかなります」
「コンパス」と呼ばれるシステムの画面で荷主の情報と空車の情報を確認しながらマッチングを行うアジャスターたち。一見パズルのようにロジカルな作業にも見えるが、実はマッチングで重要なのは普段からの人間関係でもある。
西日本セクションを担当する花井貴矢氏は「トランコムという会社より、アジャスターの〇〇さんに荷物をお願いしたいといったお客さんも多い。日頃から関係をつくっていくことが大事」と語る。
荷主が荷物を送ろうと思い立ったとき、いつも電話をくれるアジャスターの名前を思い出してもらうわけだ。
荷主の中には、真っ先に電話がきた会社に運送を依頼する会社もあるという。絶えずコミュニケーションをとり、閑散期も着実に荷物を獲得してマッチングにつなげる。アジャスターは営業マンの側面も大きい。
■閑散期で迎えた2024年問題
日々配送の成約を進めるトランコムだけに、物流2024年問題の影響は肌で感じ取っている。運送会社は拘束時間や休息時間などの規制も考慮し、450キロを超える長距離の運行をやや渋るようになってきた。名古屋発の運行では岡山周辺がメドになるという。
現在の物流業界は閑散状態だ。原材料高や円安による値上げラッシュなどで消費が低迷し、荷物が少ない状態で2024年問題を迎えてしまった。そのため、運賃の値上げは難題だ。
コスト増の対応や社員、協力会社の待遇改善に向けて、業界大手のヤマト運輸や佐川急便、西濃運輸などは運賃値上げを進めるが、荷物が少ない状態は荷主が安い運送会社を選べる状態でもある。トランコムも荷主に対する値上げは進んでいない。
トランコムは粘り腰で荷主と交渉を続ける構えだ。アジャスターと情報センター長が荷主を訪問し、直接交渉する機会も増えている。もちろん、運賃を上げてパートナーの運送会社に還元するためだ。
いずれ荷物量が回復すれば、ドライバー不足や運べないリスクは必ず浮上する。マッチング技術と1万3000社のネットワークを堅持する必要がある。神野裕弘社長は「運び方を工夫する力は長年培ってきた。最適な運び方を提案し、荷主にも運送会社にも支持されるようにする」と語る。
AIでは代替不可能、人力を武器に業界の効率化を進められるか。トランコムにとって、2024年問題への対応はこれからが勝負どころだ。
田邉 佳介 :東洋経済 記者
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