( 183620 ) 2024/06/23 15:16:44 0 00 「パパのお嫁さんになりたい!」ほのぼのした父の日の新聞記事は、なぜ炎上したのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
毎日新聞が6月16日の父の日に合わせて掲載した記事がX上で不評を買っている。記事のタイトルは「『パパのお嫁さんになりたい!』 かなえる記念写真 父の日に好評」で、メイン写真にはウェディングドレス姿の幼い娘を抱き上げるタキシード姿の父親が写っていた。SNSでの批判を受け、現在は「『成長が何よりのプレゼント』 父娘の記念写真、父の日に好評」とタイトルが差し替えられている。一体どのような点が批判を呼んだのか。(フリーライター 鎌田和歌)
● 「こういうことじゃない!」 微笑ましいはずの発言がなぜ……
まずはXでの批判の声を見てみよう。「こわい」「こういうことじゃない」「気持ち悪い」といった声が多く、「娘がいる俺でも気持ち悪いと思う」といった趣旨のコメントも散見されることからリプライや引用投稿で批判を寄せているのは、女性だけではなく男性(父親)もいるようだ。
記事の内容は、関東圏などに多数店舗を持つフォトスタジオが仕掛けた、父と娘がどちらもドレスアップして記念写真を撮る父の日企画を紹介するものだった。「『母の日』より注目度が落ちる「父の日」だからこそ、写真でお父さんたちに喜んでもらいたいと企画」とある。
記事内では撮影に来た客の親子について「まるで小さな花嫁さんのような娘を見て、スーツ姿のAさんは思わず「おーっ」と感嘆の声を上げた」(※記事中でAさんは実名)とあるものの、記事タイトルにあった「パパのお嫁さんになりたい!」という子ども視点のコメントはないことも批判が殺到した理由の一つのようだ。
一昔前までは「パパのお嫁さんになりたい」という子どもの発言は微笑ましいものとして受け止められた。愛娘からこう言われて相好を崩した経験を持つ人もいるだろう。しかしそれはそれとして、子どもらしい幼い発言に大人が安易にビジネスとして乗っかってしまうことへの反発が、批判の中にはありそうだ。
● 批判を招いた4つの理由 重要視される「子どもの意思決定」
批判の声を分析してみると、批判のポイントはおおむね以下の点に分けられる。
(1)「パパのお嫁さんになりたい」は子どもの希望なのかどうかわかりづらい。
(2)ウェディングドレスを着てパパと写真を撮りたいのは、父親の願望なのか、子どもの願望なのか(父親の願望であれば、それに子どもを付き合わせるのはいかがなものか)。
(3)母の日に「ママのお婿さんになりたい!」企画があるのかという疑問。
(4)直接的に言及しづらいものの、近親姦(性虐待)を連想させる。
(1)については、すでに書いたように、子どもの「願望」を編集部が勝手に推測して書いていないかという批判である。昔のように、幼い娘の「パパのお嫁さんに」発言を微笑ましいものとして安易に乗っかるには、世間の目が厳しい時代になったということなのだろう。
(2)については、父の日に記念撮影を行うことに異論を唱える人はまずいないだろう。しかしそれが、なぜ「父と娘」限定の企画なのか、さらになぜ娘がウェディングドレスなのか……となると疑問が生まれる。
そもそも「女の子だからドレスを着たいはず」というジェンダーによる刷り込みについても、昨今は敏感に考える保護者が多い。フォトスタジオからすると、子ども用のドレスがあるからこれを使うことのできる企画を考えた、程度のことなのかもしれないが、企画のアウトプットだけを見ると、このような反応が出てきてしまう。
また、ここ10年ほどでアップデートされつつあるのが「子どもの意思決定」への意識である。日本は「子どもは親が責任を持って管理するもの」とか「子どもは大人に比べて未熟な生き物だから躾が必要」といった考え方が強く、これが教育現場での体罰や行き過ぎた指導につながってきたとも言われる。
その反省もあり、また子どもを支配下に置きたがる「毒親」への問題提起もあり、最近では幼子であっても「それは本当に子どもの意思なのか?」が重要視されがちである。
子どもの顔をネット上に野放図にアップしてしまう親が批判されることがたびたびあり、これも「子どもの意思決定」問題だろう。
今回の企画の場合、「父の日」なのだから父が喜ぶ企画という前提があり、そう考えると「娘とのウェディングフォトを父が望んだ(少なくとも喜んだ)」と受け取るのが自然である。これが「子どもの日」のサービスで「大好きなパパとドレスで記念撮影」だったら、そこまでの批判は受けなかったと予想される。
● 「ママと息子のお泊まりプラン」も 過去に炎上していた
(3)について逆のパターンは連想しづらいが、調べてみると、母の日には母親がウェディングドレス、息子がタキシードを着て記念撮影をするという企画も行われていた。しかし幼い子どもが「将来はパパ(ママ)と結婚したい」と言うことはしばしばあるだろうし、その様子は子どもらしく愛らしいものであるが、それに大人が本気で付き合いだすと、おやおや大丈夫かな……と感じるものがある。
ちなみに2021年には有名ホテルリゾートが仕掛けた「ママと息子のお泊まりプラン」がネット上で炎上している。このときはホテル側がすぐにプランを取りやめたため、詳細は明らかではないが、批判した人たちは子どもを恋人のように扱うことの危険性を指摘していた。また同時期には、息子、娘と異性親がそれぞれデートするモチーフの自動車のCMにも同様の指摘がなされていた。
問題が問題だけにあまり率直な指摘のされ方はなされないが、こういった企画への批判の深部にあるのは(4)の近親姦(性虐待)の問題だろう。
日本では海外より性虐待は少ないのではないかと漠然と考えられてきたが、昨今の法改正に追随する報道の中で、明るみに出ないだけで家族や親族からの性虐待は決して少なくないという認知が広がりつつある。
「考え過ぎ」と思う人もいるだろうが、たとえば「成長期の娘の体つきをからかう」「息子がエロ本を隠し持っていたことをSNSで公にする」といった親がいた場合に、昔より今の方が断然世間の目が厳しくなっているのは確かだ。
子どもを恋人のように扱うことへの批判的な視線はこの延長線上にあり、やっている側が無自覚であればあるほど、指摘は厳しくなると言える。
企画を仕掛ける側の企業からすれば、顧客への訴求や自社のリソースなどを色々考えた結果としてなのだろうが、親子の恋人設定は現代においてかなりタブー化していると思っておいた方がよいだろう。また、こういった企業の企画を取り上げるメディア側も、取り上げ方を考慮した方がよいと言えるだろう。
鎌田和歌
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