( 184253 )  2024/06/25 01:59:39  
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竹中平蔵氏は、日本の広告費がインターネットに移りテレビが苦戦していることについて説明し、テレビ局や放送と通信の融合に関する問題点を指摘している。

また、日本のテレビ局の独占意識やコンテンツ力の低下、電波オークションの必要性などについても言及している。

さらに、電波の適切な利用方法や政府の介入についての考えも述べている。

(要約)

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 電通が発表した「日本の広告費」によれば、2023年のテレビ広告費は1兆7347億円で、インターネット広告費3兆3330億円のほぼ半分になってしまった。 

 

 経済学者の竹中平蔵氏は「テレビがインターネットに抜かされてしまったのは自業自得。私もテレビによる報道被害にあってきた」という。みんかぶプレミアム特集「さよなら、テレビ」第4回。 

 

 私の総務大臣時代(2005年~2006年)のことです。これからは放送と通信の融合の時代だと考え、キー局の社長全員と1対1で会いました。しかし、会ってみてわかったのは、放送と通信の融合についてちゃんと理解できている人は、ある一人の社長を除いて誰もいませんでした。 

 

 後から考えると、それもそうだなと思います。キー局の社長とは新聞社出身の方が務めるものだったのですね。当然放送に対する理解度も十分ではないのです。 

 

 本来、新聞とテレビというのは競合関係にあるはずなのに、日本の場合基本的にはテレビは新聞の子会社です。これをメディアのクロスオーナーシップ(相互保有)といいますが、先ほど話した経営者の問題のほか、お互いに批判することできないといった様々な問題を抱える要因となっています。健全な競争をしてこなかったのです。 

 

 クロスオーナーシップの発端については、故・田中角栄元総理が郵政大臣だったころに遡ります。角栄氏が電波を割り当てるわけですが、その時に新聞社がある程度コントロールできるように新聞社の系列に割り振ったのですね。公共性を保つため、すでにある程度の公共性を実現していた新聞社に任せた、というのが言い訳でしょう。しかしその結果として現在、ジャニーズ問題を始めとする芸能事務所とテレビにまつわる大きな闇などを新聞が報じることができなくなってしまいました。それ以外にも新聞とテレビがお互いのことを批判しにくいという仕組みが健全な競争を阻害してきました。 

 

 さてコンテンツとは、規模の経済性があるものです。たくさん資金があれば、いいコンテンツを制作でき、いいコンテンツが制作できれば、またお金が入ってきます。今、日本のテレビ局は縮小均衡に入っており、その結果、各局が安上がりな番組ばかりを作るようになってしまった。 

 

 そんな状況の中で、改めて電波オークションを実施し、その結果によっては既存のテレビ局から電波を取り上げてもいいと私は思っています。電波という特権を既得権益者に渡し続けている、今の政策は変えるべきであると考えています。 

 

 いま、テレビを見る人の比率がものすごく下がっています。私も地震が起きたときや、気になるスポーツ中継を時々観るくらいしか、テレビをつけることがありません。ネットの登場によって、テレビの視聴者が減っていくということは20年以上前からわかっていたことだったのにも関わらず、それに問題意識を持って改善する人が日本のテレビ局には皆無でした。そうしてあっという間にテレビは今の大変厳しい状況に追い込まれてしまったのです。 

 

 

 そもそも放送の強みとは1対多数に対して情報を送ることです。かつては、それができるのは電波しかなかったのです。一方で通信は1対1で情報交換するものでしたが、インターネット技術の発展により1対多数というのができるようになりました。これに対する対応が早かったのがアメリカで、だからこそネットフリックスなどが誕生したのです。 

 

 私も総務大臣当時、NHKにネットでの配信を提案しましたが、「私たちには公共性があるんだ」と全部拒まれました。だからこそ今のテレビ局の惨状には「自業自得」な部分が大きいと感じています。 

 

 またコンテンツ力でいえば、日本はいつの間にか韓国に抜かれてしまいました。これの原因も日本のテレビ局による放送に対する独占意識によるものです。アメリカや韓国など諸外国では、電波を公共物ととらえ、テレビ局の自社制作番組だけで構成するのではなく、放送事業者ではないものがつくったコンテンツを、一定量流すことを法律で定めています。アメリカではフィンシン・ルールといいます。 

 

 これによってコンテンツ産業の成長を促すこともできます。私は日本版フィンシン・ルールの導入もテレビ各局に提案しましたが、それも拒否されました。自分たち以外のコンテンツ産業を排除したのですね。 

 

 果たしてそんなテレビ局が公共物である電波を渡すにふさわしいのでしょうか。彼らの特権となってしまっている電波ですが、もし電波のオークションをすればもっといいコンテンツを出せる会社が入ってくるかもしれません。そして、こんな高い電波払えないと撤退するところも出てくるでしょう。技術が高まって圧縮できるようにもなったので、空いた部分を通信に割り当てる、といったこともできます。 

 

 最終的にそれを決める判断は総務省にあります。国が決断すればできるのです。「技術的にこんなに電波いらないでしょ」と冷静に、今の国民のニーズにあった電波の利用方法を実施してほしく思います。  

 

 ただ、一部政治家が言うように「放送内容の政治的に偏っている」といった理由で電波を取り上げるのは避けるべきだと思っています。正直、私もテレビによる報道被害にあってきたと思っていますが、それでもテレビのコンテンツ内容について政府が介入するべきではないです。それはBPO(放送倫理・番組向上機構)などで、別軸で問題を解決してもらえたら、と思っています。 

 

竹中 平蔵 

 

 

 
 

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