( 185020 ) 2024/06/27 16:01:46 0 00 金融政策決定会合後の記者会見を終え、退出する日本銀行の植田和男総裁=2024年6月14日午後、東京・日本橋本石町の同本店 - 写真=時事通信フォト
日本銀行は6月13日、14日の金融政策決定会合で、国債買い入れを減額する方針を決めた。日本経済はこれからどうなるのか。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「日銀は異次元緩和政策の修正を図っているが、実際は何も変わっていない。7月の決定会合が円暴落の『引き金』になる可能性は高い」という――。
【写真】令和5年4月10日、岸田総理は、総理大臣官邸で日本銀行の植田和男総裁と就任に当たって会談を行った
■日銀には、円安も物価高騰も止められない
6月18日の参議院財政金融委員会で、植田和男日銀総裁が「通貨及び金融の調節に関する報告書」の説明を行った。冒頭の「経済金融情勢」で植田総裁は「わが国の景気は、一部に弱めの動きがみられますが、穏やかに回復しています」と述べられた。
日本経済は、今、大恐慌の瀬戸際にあるわけではない。それにもかかわらず金融政策は史上最大規模の「超超超超超金融緩和状態」にある。日銀の金融政策は、彼ら自身の経済情勢分析と著しいミスマッチを起こしている。
短期政策金利である無担保コールレート・オーバーナイト物は0~0.1%でほぼゼロ%に等しい。さらには、異次元緩和政策以前の伝統的金融政策時代には禁じ手だった「お金ジャブジャブ」政策まで採用し、現在その状態は最高レベルだ。
日銀はその状況を日々加速させている(筆者注:日銀は国債を償還額以上に購入している=保有国債純増。国債購入の対価として市中にばらまかれたお金も増加を続けている)。円安は止まらず、人々が苦しんでいる物価高騰に何ら手を打てずにいるのだ。
■政府は物価対策と打っているのに…
岸田文雄首相は6月21日、国会閉会後の記者会見で、物価高に対応して8月から10月まで電気・ガス料金の補助を追加実施するなどと表明した。会見の中で首相は「年末までの消費者物価の押し下げ効果を措置がなかった場合と比べて月平均0.5%ポイント以上とするべく検討していく」と述べ、追加の経済対策についても言及した。
政府が物価上昇の抑制を図っている最中に、日銀は物価上昇を促すような真逆方向に思いっきり綱を引っ張ろうとしている。なぜ、日銀は「超超超超超金融緩和政策」にこだわるのか?
たしかに電気・ガス料金の補助で財政赤字は更に膨らみ、財源として増発された国債を日銀が買い取ることで、さらにお金が市中にばらまかれる。円安は進み、物価は上昇する。理論的には、日銀の思惑の通りともいえるが、それは悪い冗談だ。
■6月決定会合で再確認された日銀の限界
とはいえ、日銀は異次元緩和の修正を進める発言を繰り返してきた。YCC(イールド・カーブ・コントロール、長短金利操作)の修正・再修正、撤廃、マイナス金利解除がこれにあたる。
今回の6月13日、14日に開かれた日銀の金融政策決定会合では、マーケットが円安防止のための「国債買いオペ減額」決定を期待していた。にもかかわらず日銀は、国債の買い入れの規模を減らす方針を決めたものの、「国債買い入れの減額にあたっては予見可能な形で丁寧に実施したい」と述べただけだった。
すなわち「超超超超超金融緩和政策」の変更を、ほぼ全くしなかったと言ってもよい。
マーケットは「日銀は国債購入を減らすことで円安進行防止を図る」と読んでいた。平時なら当然の分析だろう。しかしながら、日銀はほぼゼロ回答だった。マーケットは失望し、156円台だったドル/円は、一時158円まで上昇(=円安)した。
急速な円安進行に慌てたのだろう。14日午後3時ごろに始まった植田総裁の記者会見では、決定会合後に発表された文書には無かった「減額する以上、相応の規模になると考えている」との言葉が加わった。「相応の規模」という言葉を、マーケットは「相当の」と解釈したようだ。
また「場合によっては利上げもする」との発言も加わった。「ハト派」と言える日銀の決定がマーケットを見て急に「タカ派」に変わったようにも思える。そこで一応円安進行スピードは減速した。
■7月決定会合のハードルを自ら高くした
「国債買いオペ減額」の具体的な計画は、7月末の決定会合で決めるという。今後1年~2年程度の減額計画をまとめると、植田総裁は記者会見で明らかにしている。
このようなタカ派トーンへの変更で、日銀は自ら、7月以降の決定会合のハードルを極めて高くしてしまった。マーケットがかなりの政策変更を期待してしまったからだ。この期待に応えられないと「Xデイ」の引き金になる可能性は大いにある。「Xデイ」とは日本円の暴落、すなわち紙くず化である。
なぜハードルは極めて高くなったのか。なぜなら今回の「国債買いオペ減額」は“方針”の発表にすぎない。次回7月会合で、“計画”を発表する。そして“実施”は、先のまた先となる。6月会合での国債買いオペ減額実施を期待していたマーケットにとっては、空鉄砲を撃たれたに等しい。
植田総裁の記者会見での発言もあって、7月会合で「大砲」が撃ち込まれることをマーケットに期待させてしてしまった。特に外国人投資家に。不発に終わった場合の反動は今までの比較にならないほど大きいと思われる。
今後日銀はさらに難しい判断を迫られる。7月の決定会合では「円安が進まないほどの大きな減額」(=円安防止には減額幅が大きいほど長期金利が上昇するので望ましい)と「国債が暴落(=金利上昇)しない程度の小さな減額幅」という相反する条件を満たす方程式の解を見つけなければならない。これは非常に難しい。最適解が見つからず、円も国債も、ともに暴落する可能性は高い。これによって株の暴落も始まれば目も当てられない。
マーケットの円安防止の期待を考えると、再度、日銀が空鉄砲を打つ選択肢はあり得ないように思う。日銀は追い詰められている。
■市場参加者の意見を聞いても「最適解」は見つからない
この最適解を見つけるために日銀は、市場参加者の意見を1カ月かけて聞くという。市場参加者の意見を聞けば、最適解が見つかるのか?
私の長いマーケット経験からして、そんなに甘いものではない。
日銀がもし「毎月1兆円の買いオペを減額すれば、どのくらいまで長期金利は上昇すると思いますか?」と聞いた時、マーケット参加者は「1.5%くらいだと思います」と答えたとしよう。それを信じて行動した人は、生き馬の目を抜くと言われるマーケットで、最初に目を抜かれ、食べられてしまうだろう。
この「1.5%くらいだと思います」との回答は「1.5%くらいだと思いますから、皆さん買ってくださいね。皆さんが買ってくれて暴落が止まったら、私も買いに入ります」という意味でしかない。
国債発行額の半分以上を保有している日銀は、国債市場では池の中のクジラだ。その日銀が国債購入額を減らすなら誰も大暴落するまで、その巨大購入者の穴を埋めようなどと思わない。それがマーケットだ。どこの水準で買いが入るのか、などという理論はない。
■池の中のクジラに、サラリーマン・トレーダーはかなわない
日本国債市場には、ロクイチ国債暴落(1980年)、タテホ・ショック(1987年)、資金運用部ショック(1998年)など、今まで嫌というほど暴落の事例がある。
国債先物市場では、朝一番に値幅制限まで気配値が下落する。そこで張り付き、取引が成立しない日が連日続いた。そのようなマーケットで買い向かうのはサラリーマン・トレーダーには無理だ。倒産の恐怖に打ち勝つようなガッツのある人間にしかできない。
損が尋常ならないほどに日々膨む中で追加の新規の買いを入れる恐怖は、こうしたマーケットを経験した人にしかわからないだろう。
私は現役時代、部下に「一流トレーダーになるには血反吐を3回吐かなければならない」と言っていた。最近20年ほどはマーケットに激動が無かったから、今の現役トレーダーには、血反吐を1度も吐いたことのない人が多いと思う。相場が急落し始めたら、右顧左眄(うこさべん)するだけで立ち向かう人などいないと私は思っている。
■誰が国債を買い支えるのか
そもそも日銀が「国債買いオペ減額」をしたら、誰がその穴を埋めるのか。
6月21日付け日経新聞朝刊「国債買い手、銀行に照準 財務省、発行計画見直しへ 保有者の多様化も必須」には、「研究会のこれまでの議論では三菱UFJ銀行から、預金取扱金融機関が国債を購入する余力は日銀が保有する分の3割前後(22年末時点)との試算を紹介する資料も示された」とある。
日銀保有のたった3割しか吸収できず、銀行が全てを引き受けられるはずがない。
それ以上に「購入余力がある」と「実際に買う」は全く違うのだ。
6月22日付け日経新聞朝刊「国債の年限短く、購入促す 財務省提言 日銀の買い入れ減額に対応 金利変動リスクを抑制」にあるように、「買い入れはゼロではないが、経済合理性とポートフォリオ管理で(買い入れ額を)判断する」と述べた大手銀行幹部のような見解が常識的であると思う。
■「国債発行の年限を短期化」は危機の先送り策
仮に日銀が長期国債の購入を減額したら……と、国債マーケット(長期金利の行方)を心配していたら、「財務省、国債発行年限の短期化を検討 日銀の減額方針で」(6月20日付け日経新聞朝刊)とのニュースが飛び込んできた。長期債の発行額を抑え、銀行などの買い手がより国債を購入しやすくする、という狙いがあるそうだ。
「あれ~、ここまでやるの? いよいよやばい。悪あがきもいいところ」と思った。購入を増やすために財務省も懸命だ。
日銀の次回7月会合で相当額の「国債買いオペ減額」をやらなければ180円、200円を超える円暴落があり得る。しかし「国債買いオペ減額」が大きすぎると需給のアンバランスで長期金利が暴騰し、日銀自身が債務超過になり、国債入札でも未達(国債入札額が発行額まで届かない=デフォルト)が起きるリスクもある。
ならば、政府は相当額の「長期国債発行の減額」をせざるを得ない。円暴落を防ぐには需要が減る分(=日銀の国債の買いオペ)、供給も減らす(=長期国債発行減額)しかないだろう、という発想だ。
(筆者注:日銀「国債減額オペ減額」の対象が長期債なので、政府は長期国債の発行を減らす必要に迫られる可能性もある。ただし長期債を減らした分、短期債の発行を増やさないと政府の支出を賄えない)
「国債発行の年限を短期化」は、政府・日銀がいかに円暴落を怖がっているかを物語っている。まさに「次々に出てくる難題をもぐらたたきで収めよう」という最終段階にあると私は見ている。自分たちの任期さえ何事も無ければいいという日本得意の危機先送り策の典型例だ。
■日銀破綻だけでは済まない
そもそも金利上昇期には短期資産、長期負債のポートフォリオを構築するのが我々リスクテーカーの常識だ。資産サイドはなるべく短期で運用し、長短金利が高くなってから長期資産を買って高い金利を長期にわたってエンジョイする。
借金は金利が低いうちに長期間モノを確保し、金利が上昇しても低い金利の支払いで済むようにする。金利上昇期に皆さんが住宅ローンを変動金利ではなく固定金利で借りようとする理由と同じだ。
国も同じ。しかし、これから金利が上昇しても低い金利を10年間払えばいいだけだったはずなのに、より短期の債務として金利上昇期に脆弱な財務体質にしようとしている。
こんなことをして格付け機関は日本国債の格付けを据え置いてくれるのか? Xデイ後に日銀をとっかえるだけでハイパーインフレを鎮静化させ日本は再興達成と思っていたが(=国はハイパーインフレで究極の財政再建)、こんなことをしたら、日銀だけでなく、国も(究極の財政再建を果たす前に)財政破綻で、日銀と共にドボンだ。
|
![]() |