( 186323 )  2024/07/01 15:32:16  
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東京都知事選挙が終盤を迎え、異常事態と言える状況になっている。

選挙運動のありかたや表現の自由が問題になっており、選挙妨害の疑いや規制強化の必要性が指摘されている。

多くの候補者が立候補し、ポスター掲示場の不足や選挙遊説時の威嚇行為が報告されている。

警察や関係団体による対応や規制強化の必要性が国民から求められている。

このような異常な事態を受けて、法改正や規制強化に向けた議論が進む中、選挙運動や言論の自由に関わる微妙な問題が浮かび上がっている。

国会各党が議論を進める中で、法改正の必要性や運用上の課題についての懸念も示されている。

様々な提案や専門家の意見を参考にしながら、民主的かつ有意義な法改正に向けた具体的な議論が進められることが期待されている。

(要約)

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首都・東京のリーダーを決める選挙は「異常事態」と言える状況となっている(chachamal/gettyimages) 

 

 終盤に入った東京都知事選。都民の審判結果は神のみぞ知るだが、ひとつだけはっきりしているのは、今回を機会に選挙運動のありかたの見直しが進むということだ。 

 

【写真】都知事選で掲示された選挙とは関係のないポスター 

 

 候補者を擁立した一部の党が、選挙運動、表現の自由を口にしながら、実際は存在感誇示、ビジネスに利用していると批判されている。規制強化は必要だろう。 

 

 しかし、もろ手を挙げて歓迎していいのか。将来、権力者側に悪用されないと断言できるか。杞憂にすぎないとしても、「自由」を叫ぶことによって、逆に自由が侵害される懸念を引き起こすとしたら皮肉であり、罪が深い。 

 

 6月20日の告示日には、現職小池百合子氏、元行政刷新相の蓮舫氏らが名乗りをあげ、さすが〝首都の顔〟を選ぶにふさわしい華やかさだった。 

 

 しかし、その裏で異常な事態が進行していた。立候補者が過去最高の56人にのぼり、都内1万4000カ所に用意されたポスター掲示場(いずれも48人分)の枠に不足が生じた。 

 

 届け出が49番以降の候補者に対してはクリアファイルを渡し、それを掲示板に掲げてもらうことで急場をしのいだ。すでに報じられているとおりだ。 

 

 都選管の対応について、一部メディアは、「54人が前日までの書類の内容確認を終えていた」(朝日新聞6月22日付30、31面)として、その不手際を批判している。事前に予想されていた事態への備えを怠った選管が批判の矢面に立たされるのは当然としても、そのこと自体問題の本質ではないだろう。 

 

 「NHKから国民を守る党」からは、当選者が1人の首長選であるにもかかわらず、関係団体を含め24人もが出馬した。 

 

 この団体は、一定額を寄付した人に、掲示場1カ所24のスペースへ独自のポスターを掲げることを認め、その結果、候補者ではない人の独自デザインのものが登場する結果となった。渋谷区内の掲示板には選挙と無関係な風俗店の広告が貼られ、党首が警視庁から風営法違反の疑いがあるとして警告を受けた。 

 

 

 4月に行われた衆院東京15区補選にからみ、選挙妨害の疑いで逮捕・起訴された「つばさの党」代表の出馬にも驚いた。拘留中だが、有罪無罪が確定したわけではないから出馬は法的に問題がないとはいっても、他陣営の警戒感は強い。 

 

 東京15区補選の期間中、候補者や代表が、演説中の他候補に詰め寄って大声で罵倒したり、選挙カーで執拗に追い回したりして威嚇した。主義主張での秩序立った論争ではなく、乱暴な言動で他候補を文字通り追い詰め、その動画をライブ配信する手法は、閲覧を増やすのが目的ではないかとも指摘された。 

 

 他陣営は候補者にボディガードを同行させるなど自衛手段をとり、警視庁も警備を強化した。 

 

 「法の範囲内なら何をしてもいい」というのが両グループの共通点(東京新聞)で、選挙がもつ本来の趣旨を損なうとして、市民団体などがすでに規制を求める署名運動を始めている。当局にも動きがみられる。 

 

 林芳正官房長官は、つばさの党関係者の逮捕時、「候補者、関係者はルールを順守し、公正、適切に選挙運動を行わなければならない」とコメントした。いわずもがなのことを言わなければならないところに事件の異常さがある。 

 

 今回の掲示板譲渡問題について林官房長官は、規定がないことを認めながらも、「候補者以外、使用はできるものではない」との見解を明確にした。その一方で、法制度の見直しは、「国会各党で議論していただく」と述べ、国会での議論を見守りたい考えを明らかにした。 

 

 自民党の茂木敏充幹事長も「公選法が規定していない問題が発生している」として法改正を含めた見直しの必要性に言及している。 

 

 国民の関心の高い問題であるため、法改正について国会の各党各派、有権者のコンセンサスを得るのは容易かもしれない。しかし、問題は見直しの内容、基準だ。 

 

 今後、さまざまな案が出され、国会内外での議論も活発化するだろうが、選挙運動ひいては言論、表現の自由にかかわる微妙な問題だけに早急に結論を得るのはむずかしいだろう。最終的に法改正が実現したとしても、運用上の問題、恣意的な適用の恐れへの懸念も払しょくできない。 

 

 2019年の参院選で、応援演説中の安倍晋三首相(当時)にヤジを浴びせて警察官に排除された男女2人が損害賠償を求めた訴訟で、札幌高裁が、警察に行き過ぎがあったとして1人に賠償を認めたケースがあった。演説へのヤジが節度を欠く激しいものだったにしても、こうした事例を見るにつけ、取り締まる側に悪意はなくとも、結果的に法の乱用と同様の結果を招くのではないかとの疑念が生じてもやむをえまい。 

 

 

 日本維新の会、国民民主党が、つばさの党の問題を受けて公選法改正の独自法案を提出した際、与党内からも「まずは現行法を厳格に運用することが重要だ」(山口那津男・公明党代表)という指摘がなされているのも、国民の間に懸念が広がりかねないことを認識したうえでの発言とみられる。林官房長官が議論を国会に委ねる考えを示したのも同様だろう。 

 

 規制強化の具体策についての議論はすでに始まっている。維新、国民民主党の法案は、選挙の自由妨害について「著しく粗野または乱暴な言動」と明記した。 

 

 専門家、研究者からの指摘も少なくない。掲示板譲渡防止の具体策として、東北大学大学院の河村和徳准教授(政治情報学)は、ポスターに候補者自身の名前と写真を掲載することを義務付け、抑止効果を高めることなどを提案する。 

 

 河村氏はさらに、過去の摘発例などを参考に、総務省、警察当局が選挙違反の基準を明確化、それを立候補書類の事前確認などの機会に徹底すべきとしている。今後の法改正議論において参考になる見解だろう。 

 

 戦前の反省から、日本の中央政府、警察は、選挙運動の規制を躊躇してきた。「羹(あつもの)に懲りてなますを吹く」類だろうが、公選法改正が実現した時において必要なのは、慎重な運用の担保だ。 

 

 筆者は特定の思想、政治的な立場に与しているわけではない。〝反権力〟を叫ぶものでもないし、日夜激務にいそしんでいる警察当局に、敬意を払いこそすれ、敵視するつもりももちろん、ない。ただ漠然とした不安を感じているに過ぎない。 

 

 取り越し苦労という反論もあろうが、リベラル・保守、与党・野党など特定の政治勢力を支持、反対するかに関わりなく多くの国民がいだく懸念だろう。 

 

 衆院補選、都知事選での妨害、掲示板譲渡問題は、法制度の不備に付け込んだあざとい行為というほかはない。規制強化を招くことへの国民の不安をかきたてるとしたら、それだけでも責められるべきだ。 

 

 しかしながら、これを機会に、民主的かつ有意義な法改正に向けて具体的なの論議が始まるならば、国家・国民には、むしろ「もって瞑(めい)すべし」だろう。 

 

樫山幸夫 

 

 

 
 

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