( 186328 )  2024/07/01 15:39:07  
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湖池屋が2024年5月に発売した「湖池屋プライドポテト 日本の神業」シリーズは、全国各地の名産品を使用したプレミアムなポテトチップスで、30~50代の女性からも支持を受けている。

ポテトチップス市場が高価格帯に向かう中、湖池屋はプレミアム路線に進み、プライドポテトシリーズを展開。

成功を収めている。

(要約)

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2024年5月に発売された「湖池屋プライドポテト 日本の神業」シリーズ。小豆島の手摘みオリーブや神戸ビーフなど、全国各地の名産品を取り入れたラインアップだ 

 

 慢性的に続く物価高に歯止めが利かない。長年、子供のおやつとして愛されてきたポテトチップスも、いまや気軽に購入するのがためらわれる価格だ。そんな時世を見越して、いち早くプレミアムなポテトチップスの展開を進めてきたのが、ポテトチップス業界2位の湖池屋だ。2024年5月から展開している「湖池屋プライドポテト 日本の神業」シリーズでは、これまで少なかった30~50代の女性層からの支持も獲得し、新しい鉱脈の開拓に手応えを語る。 

 

【関連画像】湖池屋がプレミアムなポテトチップスとして新たに投入した「日本の神業」シリーズは物語性を重視し、裏面全体にわたって、生産地や素材の情報を盛り込んだ 

 

●ポテチは「1袋平均200円」時代へ 

 

 2024年1月に総務省統計局が発表した「小売物価統計調査」によると、ポテトチップス1袋あたりの価格は全国平均197円となった。また、スナックメーカー最大手のカルビーは、24年6月1日納品分から3~10%程度値上げする価格改定を行った。 

 

 1袋あたりの容量はもちろんばらつきがあるものの、ポテトチップスが「1袋平均200円」の大台に乗るのも時間の問題だろう。 

 

 子供を中心に、庶民のおやつとして愛されてきたポテトチップスも、気軽に購入するのがためらわれる価格に突入する。スナックメーカー各社がコストパフォーマンスだけでポテトチップスを訴求するのは限界になりつつある。 

 

 そんな中、業界で一足はやく、付加価値を乗せたプレミアム(高付加価値)な商品を連発してきたのが湖池屋だ。16年に、キリンビバレッジ社長だった佐藤章氏(現・湖池屋社長)を迎え入れ、コーポレートブランドを統合して以降、これまでとは逆をいくプレミアム路線に舵(かじ)を切った。 

 

 17年には国産や製法にこだわる「KOIKEYA PRIDE POTATO(湖池屋プライドポテト)」シリーズを立ち上げる。2020年には、同シリーズを刷新。表記を「湖池屋プライドポテト」とした。 

 

 同シリーズからは、“幻の芋”と呼ばれる、今金男しゃくを使用した高価格帯のラインを年1回販売。湖池屋オンラインショップでの23年の販売価格は、6袋(各70g)で1480円(税込み)だった。また24年3月には、食塩不使用の「湖池屋プライドポテト GOLD STYLE 食塩不使用」を全国のスーパーやコンビニエンスストア向けに発売した。 

 

 プライドポテトシリーズの成功は、同社売上高の上昇にも貢献している。プライドポテトシリーズ誕生前の16年6月期(15年7月1日~16年6月30日)は324億3000万円だったのに対して、24年3月期(23年4月1日~24年3月31日)は548億2900万円となっている。 

 

 今でこそ品質重視で、大人向け路線のポテトチップスも定着している。しかし、16年当時は「ポテトチップス=コスパ」という認識が一般的で、大半のメーカーも安さで勝負する時代だった。そんな中、湖池屋は、正反対をいくチャレンジングな方向転換を見せ、奏功した形だ。 

 

 プライドポテトシリーズ誕生の経緯を、湖池屋マーケティング本部の志鎌奈津美氏が振り返る。 

 

 「佐藤が就任する以前の15年ごろ、スナック市場は頭打ちの状態で、当社も2期連続で赤字だった。当時は、各社いかに安く大容量で販売できるかにかけていたため、価格競争は激化。追い打ちをかけるように、少子高齢化でボリューム層の人口も減り、バイヤーからも『スナック市場は厳しいだろう』と言われていたほど。ジリ貧の状態からいち早く脱却するため、『とにかくやるしかない』と切羽詰まった状況だった」 

 

 高価格帯路線への転換は、現在の消費者のライフスタイルも見据えてのものだった。 

 

 一昔前は家族や友達など、ポテトチップスを大人数でシェアするシチュエーションが多く、大容量で定番の味わいが売れていた。しかし、女性の社会進出や未婚人口増加とともに個食ニーズが拡大し、その分、ユーザーの趣味嗜好も多様化するように。ユーザーのライフスタイルに合わせ、単身世帯の女性や年配の層にも手に取ってもらえる商品開発が必要となった。 

 

 ただ当時は、プレミアムなポテトチップスが売れると思っている人間などいなかった。プライドポテトシリーズの展開が決まった時、「流通関係者からは『湖池屋は大丈夫なのか?』と心配されたほど。当社は業界2位ということで、売れ筋を大量生産することができれば、売り上げも上がるのに、既定路線の真逆を進むことは暴挙ではと思われていた」(志鎌氏) 

 

 

 一方で、周囲から猛反対を受けながらも、湖池屋がプレミアム商品の販売に踏み切ったのは確かな勝算があったからだ。 

 

 それが15年当時、チョコレートの高級化が進んでいたことだ。2010年半ばは、カカオを多く配合したプレミアムなダークチョコレートが売れていた時期だった。 

 

 この状況を見ていた湖池屋は、ポテトチップスでも同じような流れをつくれないかと期待した。チョコレートに比べ、ポテトチップスのようなスナック類はジャンキーなイメージがあり、プレミアムのイメージとは縁遠かった。しかし、だからこそいち早く品質重視の商品を展開すれば、プレミアム市場を創造できると考えたのだ。 

 

 加えて、かつてのポテトチップスは、嗜好品として売れていたという事実も同社の背中を押した。 

 

 湖池屋が初めてポテトチップスを発売した1962年当時、ポテトチップスはレストランなどの飲食店でしか食べられない珍しい食べ物だったという。 

 

 その後、同社が現在に続くポテトチップスを開発、量産体制が整い、競合も増え、冒頭に挙げたようなコストパフォーマンスのいい身近な菓子となる。この歴史も踏まえ、今こそ、嗜好品としてポテトチップスに原点回帰するタイミングだと捉えた。 

 

 こうして開発されたプライドポテトシリーズは、前述の通り好評を博した。国産にこだわる品質向上や、食塩不使用の健康志向、個食のニーズなどに合致。シリーズ誕生以前に比べて、湖池屋全体の購買層は40代が大幅に増加し、これまでには見られなかった70代の流入も確認できた。 

 

 さらに慢性的に続く物価高も、湖池屋にとってはプラスに働いた。 

 

 昨今では、水やティッシュペーパーなどの生活必需品は倹約するも、その反動で酒やコーヒーといった嗜好品にはお金をかける、いわゆる“メリハリ消費”が浸透している。 

 

 この流れの中、これまで気軽に購入されていたポテトチップスも、コーヒーや酒と同じように嗜好品として見られる側面が強まっている。呼応するように、消費者の選定基準が厳しくなったことも、業界で一足はやくプレミアム路線を進んできた湖池屋に味方した。 

 

 「急激な物価高の影響により、外食するほどではないが、スーパーで150~200円のポテトチップスを買ってプチぜいたくしようと考える人が増えている」と志鎌氏。 

 

 今の時代、ファミリーレストランで食事にドリンクバーをつければ1500円はかかり、300円を超えるコンビニスイーツも多い。それに比べてポテトチップスはより“ハードルの低い嗜好品”として選ばれる傾向にあるというわけだ。 

 

 

 これまでプライドポテトシリーズで得た実績や手応えを元に、同社はプレミアムなポテトチップスの投入を加速する。 

 

 2024年5月から、新たに「日本の神業」シリーズの展開を開始した。国産のじゃがいもに、全国各地の名産品の味付けをのせたシリーズ商品を、160円前後(価格はオープン、内容量53g)で順次発売する。 

 

 フレーバーもバラエティー豊かだ。5月20日発売の「手摘みオリーブ」と「神戸ビーフ」、6月24日発売の「京都柚子七味」と「九州焼のり醤油」、7月15日発売の「くまもとあか牛」と「縄文香る帆立だし」、11月発売予定の「金沢の甘えび」と、ユニークな7種類のフレーバーをそろえる。 

 

 「『日本の神業』シリーズの特徴は、世界に誇る日本食材や生産者の魅力を、プライドポテトを通して発信。我々が一方的に食材や味付けを選定するのではなく、生産地が薦める食材や味付けの声を取り入れて開発している。神戸ビーフの場合は、現地の商店街で神戸牛が入ったコロッケを食べたり、現地でオーソドックスな塩やすき焼きを試したりと、地元由来の食べ方を参考にした」(志鎌氏) 

 

 パッケージは、表面に食材のビジュアルを大々的に出し、裏面に原材料の説明や物語性を記載した。 

 

 他社のスナック菓子のパッケージが、中身のシズル感を前面に出して、量が多いことをわかりやすく訴求している中、上質な商品であることが伝わるように工夫。さらに、1袋あたり1円を生産地に寄付することも明示し、社会貢献の要素も訴求した。 

 

 「神業シリーズのターゲットは、30~50代の女性で、こだわりを持って生活している層。大人の女性がポテトチップスを持ち運んでも、違和感がないようなパッケージにこだわり、ごほうびやくつろぐ時間のお供としても満足してもらえるように設計した。実際に、他のブランドと比べても、狙い通りの結果が出ている」 

 

 かつては「安い」「大容量」が売りだったスナックも、ターゲットや訴求方法を軌道修正しないと生き残っていけない時代。いち早く、市場のニーズをくみ続けている湖池屋の商品展開から目が離せない。 

 

佐藤 隼秀 

 

 

 
 

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