( 186583 )  2024/07/02 14:59:08  
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親の就職活動への介入が増加しており、企業が親に入社の意向を確認する「オヤカク」連絡を行うことが一般的になってきている。

親向けの就活説明会や個別相談会も増えており、なぜ親が就活に参画するようになったのか、その背景が探られている。

(要約)

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(イメージ) 

 

 就職活動での親の存在感が高まっている。就職情報会社の2023年度の調査によると、企業が内定学生の親に入社の意向を確認する「オヤカク」の連絡を受けた親が半数を超えたことが分かった。大学でも親向けの就活説明会や個別相談会を開く動きが広がっている。学生が就職先を決めるための活動に、なぜ親が参戦するようになったのか、背景を探った。(時事ドットコム編集部 川村碧) 

 

【ひと目で分かる】「オヤカク」データ 

 

◇採用には「親の納得も必要」 

 

 商品買取・販売会社のバイセルテクノロジーズ(新宿区)は2021年入社の学生の採用選考から「オヤカク」を正式に取り入れた。会社を知らない親から不安の声が寄せられたり、親の反対で学生が内定を辞退したりしたケースがあったといい、採用担当の小泉俊一さんは「一緒に働きたいと思っていた人材に内定後に辞退されるダメージは大きい。学生だけでなく保護者も納得しないと採用が難しい時代となり、不安を事前に解消しよう、という考えが生まれた」と説明する。 

 

 実際の流れとしては、内定を通知する時に学生に「保護者の方は弊社をどう思っていますか?」などと尋ね、親の反応を確認。疑問点や悩みがあれば詳しく話を聞き、親に会社のパンフレットを送ったり、担当者が電話で話したりして不安を取り除いている。残業の有無や諸手当の仕組みなどを心配する声が多く、たいていは会社側の説明で納得してもらえるという。 

 

 24年卒の採用では約240人全員に対し、9人の担当者が分担してオヤカクを実施。学生に加え、親にも目を配ることは負担にも思えるが、小泉さんは「学生の今後の人生を一部預かると考えれば、企業として保護者への説明義務がある。学生も保護者も安心した状態で入社を決めてもらうのがベストで、長期的に見れば早期離職も防げると思う」と語った。 

 

◇「オヤカク」、半数が経験 

 

 就職情報会社マイナビが24年1月に実施した「2023年度就職活動に対する保護者の意識調査」によると、子どもが内定をもらった親851人のうち、企業から「内定確認の連絡」を受けた割合は52.4%で、初めて半数を超えた。オヤカクについて調査を開始した18年度の17.7%から大幅に増加した。子どもの内定した企業に反対したことがあるかを尋ねた項目では、「ない」が96.1%、「ある」が3.9%との結果で、子どもの決めた就職先を受け入れる親が大半のようだ。 

 

 一方、24年卒内定者意識調査で、内定先に関する意思決定の際、誰かの助言や意見を聞いたかを学生に複数回答で尋ねたところ、「父親・母親」が61.9%で最も高く、「友人(学校内)」の23.9%、「誰の意見も聞かなかった」の21.5%が続いた。マイナビの担当者は「学生の意思決定への保護者の影響は大きいと言え、こうした背景から内定学生の親に同意の確認を行う企業が増えていると考えられる」と分析している。 

 

◇親向け説明会は大盛況 

 

 親側の就活への関心も高いようだ。6月上旬の週末、大妻女子大(千代田区)で開かれた親向けの就活説明会には650人以上が集まり、夫婦そろって参加する姿もあった。同大の就活支援担当者らがスケジュールや子どもの就活に向き合う心得などを説明すると、熱心にメモを取りながら耳を傾けていた。 

 

 「こんなに参加者がいるとは思わなかった」と驚いた様子の50代女性。「バブル時代に就活した自分とは状況が違うので、娘に間違ったアドバイスをしたくないと思って参加した。就活は本人が主体で、あまり親が出過ぎないようにしたいが、一人っ子なので本心は心配」と話す。 

 

 40代の女性に子どもの就活への関わり方について尋ねると、「普段から娘と積極的に会話してどういう会社が良いのか、一緒に考えていきたい」と語った。同席していた大学3年生の娘は、「悩みは親に話して意見をもらいたい。自分の決めた会社は親にも納得してほしいと思っている」と話した。 

 

 参加者の中には複雑な思いを抱く人も。甲府市から来た40代男性は「就活情報を入手できるのはありがたいが、大学でも親向けの説明会があるなんて過保護になったなと感じる」と苦笑いしていた。 

 

 

大妻女子大で開かれた親向け就職説明会の様子=2024年6月8日、東京都千代田区の同大 

 

 大妻女子大の親向け説明会は全学年が対象で、2年連続で参加する親もいるという。就職支援センターの井上信人課長は、「就活環境は1年で激変する。子どもをサポートするために最新の情報を知りたいという人が多い」と話す。 

 

 親への情報発信に力を入れる大学は他にもある。青山学院大(渋谷区)は、親向けガイドブックを作成。就活中の親の対応でうれしかったことや、つらかったこととして、「指摘をせずに話を聞いてくれた」「企業選びの軸を押し付けられた」といった学生の声を紹介している。 

 

 青山キャンパスで毎年6月頃に開催する説明会や個別相談会も人気で、今年の個別相談会には約100組が参加。3年生の親が多いが、就活が停滞している4年生の親が子どもには内緒で訪れることもあるそうだ。進路・就職センターの担当者は「保護者が子どもの就活に無関心でいるのは良くないが、前のめりになり過ぎている場合もある。学生の意向を尊重し、見守ってもらえるように呼び掛けている」と説明する。 

 

 東北大(仙台市)は、学生の就活事例などをまとめた親向けの就活講座と個別相談を実施しており、「就活や進路について親としてどう対応したらいいか」などの内容が寄せられているという。 

 

◇親の介入は不可避? 

 

 就活を巡る学生と親、企業の関係について、人事コンサルティング会社「人材研究所」(港区)の曽和利光代表に話を聞いた。曽和氏は、「オヤカクの背景には学生の売り手市場と一人っ子の増加などが関係している」と指摘する。人手不足の中、高卒や中途採用を含めた採用市場全体で人材獲得競争が激しくなっており、一番採用しやすい大卒マーケットで確実に人材を確保したいという企業の意識が強まっているという。 

 

 また、出生動向基本調査で夫婦の子どもの数を調べると、一人っ子の割合は30年前に比べ2倍となり、全体の2割を占める。「子どもへの関心が高まり、保護者が就活に介入するようになってきた。企業側は、保護者の心配を解消することが学生の内定辞退の防止につながると考え、オヤカクをするのが常識という雰囲気になっている」と分析する。 

 

 今後も少子化が進み親子の距離が近くなれば、就活に親が参戦するのは当たり前となっていきそうだ。しかし、曽和氏は「今の就活状況を知らない保護者のアドバイスが子どもに悪影響を与えることもある」と警鐘を鳴らす。急成長企業や企業間の取引が中心の「BtoB」企業に関する知識が不足していて正しい助言ができないケースや、売り手市場といえども従業員5000人以上の大企業の求人倍率は0.34倍で難関であることを知らず、大手企業を受けるように安易に勧める場合もあるという。 

 

 親にはどのような姿勢が求められるのだろう。「大学が説明会を開くのは、過保護だからではなく、保護者に正しい情報提供をして適切な関わり方を求めているというのが真の狙いでしょう。就活に関する情報やサービスは充実していても、最終的には自分を第一に考えてくれる保護者を信頼して意見を求める学生は多い。保護者もしっかりと準備した上でサポートしてあげてほしい」と語った。 

 

 この記事は、時事通信社とYahoo!ニュースの共同連携企画です。 

 

 

 
 

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