( 187456 ) 2024/07/04 17:05:40 0 00 (写真:genzoh/PIXTA)
数学を使って世の中の仕組みを知ることで、物事を見る視野が広がります。現役東大生の永田耕作さんが数学の魅力について解説する連載『東大式「新・教養としての数学」』。今回は「関数の極限」について解説します。
■数字は本当にゼロで割ることはできない?
皆さんは、小学生から「数字を0で割ると答えはどうなるの?」と聞かれたとき、どのように答えますか?
今の学習指導要領では、小学3年生で「割り算」を学習します。例えば「10÷5=2」という計算であれば、「10」が「割られる数」であり、「5」は「割る数」と名前がつけられています。この「割る数」が「0」である計算は成立するのかどうか。おそらく多くの人が一度は疑問に思ったことでしょう。
先日、とある小学校の算数のプリントに関するXの投稿が話題となりました。その内容は「18÷0の答えはいくつになるか」というものでした。投稿者のお子さんが「答えなし」と回答したところ、先生にバツにされて、答えがゼロと言われたそうです。
それに対して、「数字を0で割ることはできないはずだ」「答えは0にならないので、この採点は間違っている」という意見が相次ぎました。
電卓やスマホの電卓機能を用いて確かめてほしいのですが、「18÷0」のような割る数が0である割り算の答えは「エラー」や「計算できません」という表示となります。
では、「数字は0で割ることはできない」で終わる話なのでしょうか。この問題はそこまで単純なものではありません。
数字を0で割るとはそもそもどういうことか。割り算の定義から考えてみましょう。四則演算(足し算・引き算・かけ算・割り算)の1つである「除法(割り算のこと)」は、乗法(かけ算)の「逆演算」であると定義されています。これは、
かけ算 2×3=6
割り算 6÷3=2
と並べて見てみるとわかりやすいでしょう。つまり、例えば「18÷3 =?」という問題であれば、その逆演算であるかけ算を考え、
3×●=18(あるいは●×3=18) という式の●に何が入るかを考えるといいのです。小学生が割り算を教わる際の教科書などでもこのような計算の順序で説明されることが多いです。
■18÷0の解答はどうなるのか?
この考え方にのっとり、「18÷0」の計算を考えてみましょう。この逆演算は、
0×●=18(あるいは●×0=18) の●の中身を考える計算となります。ここで、「0は何倍しても0」という「0(ゼロ)」の定義を用いると、●にどんな数字を入れてもこの式を成立させることはできない、とわかります。
ここまでは、おそらく皆さんの想像のとおりでしょう。そして、この例示している「18」という数字が「3」や「10」など、どんな数字であっても同じ議論になるように見えます。
しかし、1つだけ例外があるのです。それは「0÷0 = ?」という問題である場合です。
「0÷0=●」に対しても、対応する逆演算(かけ算)を考えてみましょう。今回の場合は、
0×●=0 (あるいは●×0=0) の●の中身を考えることになります。ここで、先ほども述べた「0は何倍しても0」という定義を踏まえると、先ほどとは真逆のパターンで、●にどんな数字を入れても式が成立する、となるのです。
つまり「数字を0で割る」という計算はすべて同じ結果になるように見えて、「割られる数が0であるかどうか」で2種類に分かれるのです。
これを、数学用語を用いると、
A÷0 = 不能(A≠0) A÷0 = 不定(A=0) と表すことができます。ここでいう「不能」とは「解を求めることができない(存在しない)」という意味であり、「不定」とは「解が1つに定まらない」という意味です。
どちらにせよ解は存在しないため、「答えなし」「エラー」という表記が正しいのですが、厳密にいうと「0÷0」と「3÷0」の答えは違うものなのです。
■高校の「数学Ⅲ」で学ぶ「関数の極限」
さて、ここまで「18÷0」という具体例を挙げながら、「数字を0で割る」ことの定義について説明しました。しかし実は、この問題を理系の高校生や大学生に聞くと、「答えは∞(無限大)である」と答えられることがあるのです。
現在の学習指導要領では、高校数学は「数学Ⅰ」「数学A」「数学Ⅱ」「数学B」「数学Ⅲ」「数学C」の6つの科目に分かれています。そのうち、数学Ⅲ・数学Cは選択科目であり、理系を専攻した学生が学ぶものとなっています。
この数学Ⅲの中に、「関数の極限」という単元があり、実はここで「数字を0で割る」という演算に対しての1つの答えが示されているのです。
「極限」とは、「変数を限りなく近づける」という考え方です。例えば、xを3に近づけたときに、「f(x) = x+3」という関数の値は「3+3」で「6」に近づくことが計算によってわかります。これを、「lim」という記号を用いて、
lim(x→3) x+3=6 と表すのです。この例だけを考えてみると、「わざわざ、そんなめんどくさい書き方しなくても、x=3のときx+3=6でいいじゃないか」と思う人が多いでしょう。
しかし、この極限の考え方は、変数や関数の値が「0」に近づくときにその真価を発揮するのです。
極限「lim(x→0)」を考えてみましょう。これは、xが限りなく0に近づいていく、という意味です。このときに、関数「f(x) = 18/x」はどのような値を取るでしょうか。
xを少しずつ小さい値にして確かめてみると、
x=1:f(x) = 18
x=0.1:f(x) = 180
x=0.01:f(x) = 1800
x=0.001:f(x) = 18000
X=0.0001:f(x) = 180000
と、関数の値がどんどん大きくなることがわかります。これを永遠に行うと、億、兆、京と位が上がっていき、最終的には無限大になることが予想されます。これを数学用語で、「無限大に発散する」と言います。
気づいた人もいるかもしれませんが、これはあくまで「xが正の値から0に近づくとき」に限定された話をしています。
■マイナスのパターンだとどうなる?
これとは逆のパターンの、xがマイナスの値から近づいていく場合も考えてみましょう。その場合は、
x=-1:f(x)=-18
x=-0.1:f(x)=-180
x=-0.01:f(x)=-1800
x=-0.001:f(x)=-18000
X=-0.0001:f(x)=-180000
となり、どんどん大きなマイナスの値になることがわかります。これは、「負の無限大に発散する」と表されます。
この考え方を用いると、「18÷0はいくつ?」という問いに対して、また新しい答え方ができるようになるでしょう。
もちろん、この考え方をすべて小学生に説明するのは非常に難しいことです。高校3年生になってやっと学習するようなことであるため、それは当たり前でしょう。
しかし「0で割ることはできないんだよ」の一言で終わらせてしまうのではなく、「0で割るって、どういうことなんだろうね?」と疑問を投げかけて、子どもの思考力を育むということが最終的にその子のためになるのかもしれない、と僕は考えています。
永田 耕作 :現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長
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