( 187604 )  2024/07/05 01:39:15  
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ビジネス服のカジュアル化により、紳士服大手企業は業績が悪化している。

コロナ禍でスーツ需要が減少し、オーダースーツや冠婚葬祭需要のみが回復していると言われる中、大手企業は業績回復に苦しんでいる。

スーツの購入額も急激に減少しており、在宅ワークの普及で需要が落ち込んでいる。

着用頻度が低下していることや、カジュアルスーツ、ジャケパンなどのスタイルが台頭していることも要因となっている。

さらに、従来のスーツ需要が減少しているため、業界全体で低価格オーダースーツやカジュアルスーツの需要が増加している。

大手企業は存続を図るために新たな戦略を模索しているが、今後はスーツ業界がさらに厳しい状況に直面する可能性もある。

(要約)

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洋服の青山生駒店(写真=Tokumeigakarinoaoshima/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons) 

 

ビジネス服のカジュアル化で、紳士服大手が業績悪化に苦しんでいる。ライターの南充浩さんは「オーダースーツなど一部で『復調』というジャンルもあるが、大手は軒並みコロナ前の業績に届いていない。紳士服業界は根本的な構造転換を迫られることになりそうだ」という――。 

 

【図表】紳士服チェーン大手4社の業績 

 

■カジュアル化が進んでスーツ業界は大苦戦 

 

 今年もまたクールビズの季節が始まりました。2005年にクールビズが導入されてから、この20年間で、夏に限らず通期で男性のビジネスにおける服装は圧倒的にカジュアル化が進みました。さらに、2020年春からのコロナ禍によるリモートワークの普及がさらにカジュアル化に拍車をかけたといえます。 

 

 ビジネス時におけるドレスコードは、三十数年前に私が社会人デビューしたころと比べて格段にゆるくなっています。当時男性社員は真夏でもスーツの上着着用でネクタイを締めることが義務付けられていました。 

 

 半袖のシャツを着ることは禁止されていませんでしたが、どこの社内にも「本格派」のオジサンが何人かおられて「スーツの下に着るシャツは長袖に限る」という固い信念をお持ちでした。信念をご自身にだけ適応されるのは全く構わないのですが、中にはその信念を他人に押し付けてくる困ったおじさんもおられました。懐かしい話です。 

 

 現在、銀行員などの堅い職業でも真夏はジャケット無しの半袖シャツ1枚が普通になっており、あの頃と比べると全く別世界のようです。 

 

 そんな中、帝国データバンクが「紳士服に復調兆し」というレポートを公表しました。 

 

 レポートによると、コロナ禍で激減したスーツ需要が、冠婚葬祭の再開やオーダースーツ人気の高まりなどで「復調」しているというのです。 

 

 これは本当なのでしょうか。 

 

■スーツ購入額は30年で5分の1以下に 

 

 メンズビジネスウエア(いわゆるスーツ、ワイシャツ、ネクタイなど)の売れ行きは2005年以降右肩下がりを続けてきました。筆者がアパレル業界にいた90年代後半以降、多くのワイシャツメーカー、ネクタイメーカーが倒産してきました。 

 

 総務省の家計調査(2人以上世帯)によると、1991年に約1.9万円だった背広服(スーツ)の購入金額はコロナ禍の2021年には2721円にまで下落し、回復したとされる2023年でも3382円となっています。 

 

 2020年春から始まったコロナ禍によって、在宅ワークが長期間続いたことから、さらに急激に売れ行きが減ることになりました。実店舗営業ができなかったためアパレル企業は全体的に売れ行きが大きく落ち込みましたが、中でもメディアの目を引いたのが、メンズスーツ大手各社の苦戦でした。 

 

 青山商事、AOKI、はるやま、コナカのいわゆる紳士服チェーン大手4社の業績を見てみましょう。報道にもあるようにコロナ自粛が緩んだ直近の業績は軒並み底打ちを脱したという感じです。 

 

■大手は軒並みコロナ前の業績に届いていない 

 

 青山商事とAOKIは増収大幅増益、はるやまHDとコナカは減収ながらも大幅増益となっており、23年5月以降のコロナ自粛解禁が大きく後押ししたと考えられます。 

 

 ただ報道にあるように「復活」とまでいえるかというとそれは難しく、軒並みコロナ禍前の2019年度実績には届いていません。ですから「回復基調」くらいが実態でしょう。 

 

 実際に青山商事のコロナ前(2019年)の決算と比較してみましょう。 

 

 売上高と本業の儲けを示す営業利益は、19年3月期は24年3月期を大きく超えています。この業績で減収減益なのですからその前年の18年3月期はどれほど好調だったかという話になります。他の3社もほぼ同様です。 

 

 AOKIも売上高は19年3月期には届いていません。 

 

 かなり厳しいのがはるやまHDで、19年度比では大幅減収減益となっています。 

 

 現在の売上高は19年度と比べて約30%減に終わっています。 

 

 

■コナカは「サマンサタバサ」を上乗せしてようやく同程度 

 

 コナカはちょっと特殊で、まず決算期が9月期で他3社とは半年のズレがあります。また売上高も19年度から現在に至るまでさほど大きな変化がありません。 

 

 図表の通り、増収も赤字に終わっています。 

 

 コナカは24年9月期は黒字化の見通しを発表していますが、実は23年9月期も第二四半期(3月末まで)までは営業利益7億5900万円、経常利益10億500万円、当期利益10億5200万円と黒字だったものの、4月以降の半年間で赤字に転落してしまいました。そのため、24年9月期も残り半年で赤字転落してしまう可能性もあるので決して楽観できません。 

 

 コナカは一見すると売上高に関してはコロナ前を超えているように見えますが、実は特殊事情があります。それはサマンサタバサを19年7月に連結対象子会社化(現在は完全子会社化)したことです。 

 

 言ってみれば、20年9月期からはサマンサタバサの売上高が上乗せされています。見かけはコロナ前と同等かそれ以上の売上高があったとしてもそれはサマンサタバサの売上高が乗っかっているため、コナカ本体の売上高はコロナ前には及んでいません。 

 

 ちなみにサマンサタバサの売上高は23年2月期が252億4100万円、24年2月期が268億7200万円と発表されていますので、コナカ本体の売上高は400億円ほどということになり、19年9月期には遠く及んでいないことがわかります。サマンサタバサの影響が皆無だった18年9月期の売上高は651億4500万円もありました。 

 

■「スーツを着る頻度が1年に1回以下」が半数以上 

 

 最近、興味深いアンケート記事が繊研新聞に掲載されました。 

 

 記事によると、着用できるスーツの保有数は1着ないし2着という人が45%に上り、10年間スーツを購入していない人は、一度も購入したことがないという人を含めて40%を超えたとのことです。このアンケートは「20~69歳の男女1100人から回答を得た」とのことなので年代的にも幅広く男女ともに網羅できていると考えられます。この結果は如実にスーツ離れを表しているといえるでしょう。 

 

 また 

 

 「スーツの着用頻度は1年に1回以下の人が半数以上となった。女性の50代は3年に1回未満の人が特に多い。男性の40、50代は「週5日以上」が他の年代より高いものの2割程度にとどまっている」 

 

 という結果になっています。着用回数が年に1回以下が半数以上いて、男性の40代・50代は週5日以上着用が他の年代より高いがそれでも2割にとどまっているのですから、明らかに全年代で「スーツの着用回数が激減している」といえます。40代・50代男性の2割がスーツを週5日以上着用しているというのは、年代的に経営者や役員、事業部長クラスの高い地位に就いている人だと考えられます。 

 

 

■「ジャケパン」「ジャケスラ」スタイルの台頭 

 

 コロナ禍が終わり、出社する回数も増えてきてはいますが、純然たる昔ながらのスーツ姿での出社というのは減ったままだと感じられます。筆者は仕事柄百貨店のイベント催事などを手伝ったりするのですが、百貨店の男性社員でもスーツ着用者はあまり見かけなくなりました。 

 

 代わりに見かけるようになったのが、ジャケットと異素材のパンツを組み合わせて着用している人たちです。「ジャケパン(ジャケット+パンツ)」や「ジャケスラ(ジャケット+スラックス)」と呼ばれる着こなしです。代表的な着こなしでいうなら、紺色ブレザーとチノパンという組み合わせになりますが、今ではさまざまな色合いのジャケスラ、ジャケパン社員が百貨店内にも増えています。 

 

 クールビズ開始後、現在の日本で人口の最大ボリュームを誇る「団塊世代」のリタイアが始まったころからスーツ需要の減少という問題が顕在化し始めました。このころから、大手4社はレディーススーツの拡販に力を入れました。 

 

 各紳士服店のレディースコーナーの売り場面積は、20年前と比べて大幅に増加しました。 

 

 決算報告書ではレディーススーツの比率は明示されていませんが、各社ともに相当数販売しているはずです。 

 

■オーダースーツは売上減を補うほどではない 

 

 コロナ禍の在宅ワークを経て、先ほどのアンケートにもあるように現役世代においてもメンズ、レディースともに「スーツ」を買う人と着る人は激減しました。2010年代後半くらいからは既成スーツの減少を低価格パターンオーダーで補おうという試みが業界全体で始まりました。 

 

 大手4社だけでなく、低価格オーダースーツ最大規模となったタンゴヤの「グローバルスタイル」のほか、ファブリックトーキョー、オンワード樫山のカシヤマ・ザ・スマートテーラーなどベンチャー企業や小規模チェーン店などの新規参入が話題となりました。 

 

 しかしながら、業界最大手のグローバルスタイルですら、年間業績予想は120億円余りにとどまっており、現在は話題性にも成長率にも一服感があります。 

 

 結局、減った既製スーツの売り上げを低価格オーダーで何とか補填するのがせいぜいで、既製スーツの落ち込みを補って上回るほどの売上高を記録することは「スーツ」という商材の特性上は不可能でしょう。 

 

 オシャレのために着用するという側面はありますが、日本人の多くにとってスーツとはビジネス着でありフォーマル着なのです。さらにいうと、洗濯や保管にも気を使いますから気軽に着倒すというわけにもいきません。ビジネス時のドレスコードは年々緩まってきていますから、わざわざそれを大量に買い込むというのはよほどのマニアしかいないでしょう。 

 

 

■低価格な「カジュアルスーツ」のほうが使い勝手もいい 

 

 来年あたりに完全リタイアしてしまう団塊世代が、その後にスーツを何着も買うなんていうことは考えられません。ビジネス時ですらスーツを着用する人が減っているのに、ビジネスをしなくなった人がスーツを買うはずもありません。それは、団塊世代に次ぐ人口ボリュームを持ち、15~20年後に引退を控える団塊ジュニア世代にも同じことが言えます。 

 

 実際にビジネスの場で会っても純然たるスーツを着る人は減り、ジャケスラスタイルの人か、いわゆる「カジュアルスーツ」を着用している人が増えました。従来型スーツのようなウールの薄手織物素材で作ったものではなく、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維を主体とした生地で作ったカジュアルスーツ(カジュアルセットアップとも)です。 

 

 従来型スーツをカジュアル時に着用するにはやっぱり違和感があります。休みの日でもスーツを着ている人なんて日本にはほとんどいません。一方、カジュアルスーツはカジュアル時にもちょっとお出かけ着っぽく着用できるので、購入側からすると一挙両得のようなお得感もあります。おまけに低価格です。 

 

 代表的な商材だとワークマンのワークスーツやAOKIのアクティブワークスーツ、ジーユーのウォッシャブルテーラードジャケット&パンツになるでしょう。いずれも価格は8000~1万円台前半と従来型スーツに比べると格段に安く済みます。 

 

 このほか同系列の商品としてユニクロの感動ジャケット+感動パンツもあります。ユニクロの感動シリーズがトラッドなスーツに寄せているのに対して、これらの商材はカジュアルテイストに寄せているので、よりカジュアル時にも使い勝手が良いと個人的には感じます。 

 

 これらの商品は非常に機能性が高くストレッチ性が高かったり、シワになりにくかったり、洗濯機で気軽に丸洗いできるなどのメリットがあります。より「タイパ」を気にする現代人にとって、これらの需要は高まりそうです。 

 

■スーツ業界は消滅するのか 

 

 では、スーツ業界は今後どうなっていくのでしょうか。 

 

 筆者は、現在の大手スーツ4社がそのまま存続し続けられるとは思えません。飲食店やネットカフェなどの他業種形態を増やしてリスク分散をしている青山商事、AOKIはある程度の規模を維持できるでしょうが、主要業態がスーツしかないコナカ、はるやま商事はさらに縮小し、場合によっては消滅することやどこかに吸収合併される可能性もあります。 

 

 九州を拠点とした「フタタ」というスーツチェーン店は2003年にコナカと資本提携し、2006年に完全子会社化、2020年にコナカに吸収されてしまいました。このような吸収合併がまた起きないという保証はありません。それだけにスーツを主要業態とする各社は今後さらに難しい舵取りを迫られそうです。 

 

 従来型スーツ自体が完全になくなることはないでしょうが、小規模企業や小規模ブランドに適した商材になって落ち着くのかもしれません。極言すると、今の着物の「訪問着」のような位置付けの衣料品になるのではないでしょうか。 

 

 

 

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南 充浩(みなみ・みつひろ) 

ライター 

繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。 

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ライター 南 充浩 

 

 

 
 

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