( 187919 )  2024/07/06 01:31:39  
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2024年の東京大学の女子学生比率は約20%であり、学部によって女性比率に大きな差がある。

5月に東大が「なぜ女性が少ないのか?」というポスターを掲示し、その内容が話題になった。

一部では女子が少ない理由は工学部の存在が大きく影響しており、工学部への就学が女子にとって魅力的でないことが要因であるという意見もある。

一方、理系でも女子比率が高い学部があることから、女性が身近にあるものを扱うメーカーへの就職を希望する傾向があることが示唆されている。

次回の記事では、東大で女子の比率を増やすための方法について考察される予定である。

(要約)

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2024年の合格者の女子学生比率が約20%の東京大学。学部によっても女性比率は大きく異なる(写真:イメージマート) 

 

 東京大学が5月に「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」というポスターを学内に掲示し、話題を呼んだ。そのポスターでは女子学生や女性教員、女性研究者の少ないことを挙げ、社会構造や性差などに触れて問題提起している。一方で、ある東大OGは「東大に女子が少ない根本的な原因は違うところにある」という。いったいどういうことか。『中学受験 やってはいけない塾選び』が話題のノンフィクションライター・杉浦由美子氏がレポートする。【前後編の前編。後編を読む】 

 

「女子なのに東大?」東大が問題提起をしたポスター 

 

 * * * 

 東大が「なぜ東京大学には女性が少ないのか?」と問いかけるポスターを5月に掲示し、大きな話題になった。「#言葉の逆風」と見出しがついたポスターには学内の女子学生たちが、実際に投げかけられた女性軽視の内容の言葉が並ぶ。「女子なのに東大?」「女子なんだから浪人しないで」といった、女性の東大進学を妨げるような文言だ。女子学生の合格者割合が2024年で20.2%にとどまる東大が、それを打開するための試みの一環であり、2026年度までに女子学生の割合を30%以上を目指すとしている。このポスターは賛否両論を呼んでいる。 

 

 ある東大出身の女性(40代)があきれ顔でこういった。彼女は理学部から修士課程に進み、大手企業の研究開発部門で高い地位につき、妹も東大を出て研究者になっている。 

 

「あのポスターは“東大に女子が少ないのは女性差別や構造的な問題”みたいなメッセージを送っているけれど、それは的外れです。東大に女子が少ないのは“工学部の大学”だからです。学年約3000人のうち、1000人ぐらいが工学部です。全国、どこの大学も工学部に女子は少ないでしょう。その工学部の割合が大きいと、全体の中の女子の比率は低くなって当然です」 

 

 実はこれは何十年もの間で、幾度となく、私が見聞きしてきた情報だ。 

 

 東大は入試の段階では学部は決まっていない。科類別に入試をおこない、1~2年次は教養学部前期課程となり、3年次から文学部や法学部、経済学部、工学部、理学部、医学部など学部に分かれていく。 

 

 文科I類は法学部、文科II類は経済学部、文科III類は文学部や教育学部、理科I類は工学部や理学部、理科II類は農学部や薬学部へ、理科III類は医学部に、多くの学生が進学する。入試の段階で工学部につながる理科I類は募集人数が1108人と圧倒的に多い。理IIは532人、理IIIは97人、文Iは401人、文IIは353人、文IIIは469人となっている。 

 

 合格者の中での女子比率を見てみよう。理科I類は8.4%、理科II類は20.1%、理科III類は21.4%、文科I類は28.4%、文科II類は17.7%、文科III類は38.2%となっている(2024年度)。文系でも文科II類は17.7%と女子が少なく、理科II類や理科III類よりも少ない。実は理系だから女子が少ないというわけでもない。 

 

 

 そして、注目したいのは理系でも、理科II類は20.1%と比較的女子の割合が高い点だ。農学部や薬学部への進学を希望する女子が多いのが分かる。そういった生物系の学部学科は、全国の大学で昔から比較的、女子の割合が多い。その理由は、女子は身近にあるものを扱うメーカーへの就職を希望する傾向があるからだ。 

 

 マイナビが公表している2025年卒の就職企業人気ランキング理系女子の総合ランキングを見ると、1位・味の素、2位・カゴメ、5位・日清製粉グループ、6位・キユーピー、7位・コーセー、10位・明治グループ(明治・Meiji Seikaファルマ)、11位・アサヒグループ食品、資生堂、ヤクルト本社、16位・アサヒ飲料、日清食品、18位・森永乳業、19位・山崎パン、雪印メグミルク……。このように食品や日用品、化粧品のメーカーが上位に並ぶ。 

 

 同じランキングで男子理系を見ると、8位に味の素があるだけで、ほかにはこれらの食品・日用品・化粧品のメーカーはランクインしていない。 

 

 理系女子が、食品や化粧品、日用品を扱うメーカーに入社して、商品開発に憧れるのは、大昔からある傾向だ。30年前に、たまたま接した東大や横浜国立大学の修士課程の理系の女子学生も「食品メーカーに就職したい」「化粧品会社に就職したい」と口々に話していた。 

 

 そのため、理系の女子からしたら、東大の理IIは希望の業種へ入り口に見えるのかもしれない。また、東大の薬学部は薬剤師になるというよりは、製薬会社で研究開発職に就くケースが多く、それも女子学生からすると「就職先が見えている」ことから魅力的なのかもしれない。そして女子の場合、たとえ理系を選択しても、工学部を敬遠するのは全国的な傾向だ。工学部からの就職というと、機械メーカーやIT企業が中心となるが、それらが女子からすると「就職してからなにをやるのか見えてこない」のかもしれない。女子に不人気の工学部の定員が飛びぬけて多いのだから、東大の女子学生率は低くなって当然だろう。 

 

 

 今回は東大になぜ女子の学生が少ないかについて考察した。東大は工学部の定員が多く、そして、工学部は女子になぜか不人気なので学生が集まらないというわけだ。では、どうしたら、東大で女子を増やすことができるのか。次回の記事で考察してみよう。 

 

(つづきを読む) 

 

【プロフィール】 

杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)も話題に。『中学受験ナビ』(マイナビ)、『ダイヤモンド教育ラボ』(ダイヤモンド社)で連載をし、『週刊東洋経済』『週刊ダイヤモンド』で記事を書いている。 

 

 

 
 

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