( 188351 )  2024/07/07 01:53:15  
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育休手当の期間延長を狙い、意図的に保育園に落選する行為が問題視されている。

厚生労働省は育休給付延長の審査厳格化を決定し、一方で保護者側も「落選狙い」の理由を語っている。

待機児童問題もあり、落選には自治体にも負担がかかる。

育休延長を希望する声もあり、仕事と育児を両立するための取り組みが必要とされている。

(要約)

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保育園を落選狙いで申し込む行為が問題となっている(写真はイメージ) 

 

 育児休業給付(育休手当)の期間延長を狙って、人気の保育園に申し込んであえて落選する行為が問題となっている。「真面目に申請している落選者にとって迷惑」などと批判も上がる中、厚生労働省は来年4月から育休給付延長の審査を厳格化することを決めた。一方で、「落選狙い」をする保護者側にも切実な思いがあるのも事実で、「悪いことをしているように言われるのはつらい」とし、制度自体のあり方を問題視する声も上がる。専門家はルールの修正だけでなく、仕事と育児を両立するための仕組みの必要性を訴える。(デジタル編集部・町香菜美) 

 

市川市の女性に届いた保育所に入園できないことを知らせる書類 

 

 「復職しても、給料は育休手当と変わらないかむしろ安くなる。それなのに、我が子と過ごす時間が圧倒的に減ることは受け入れられない」。2022年秋に長男を出産した市川市の会社員女性(30)は「落選狙い」をした理由を明かす。 

 

 1年間の育休を取得し、育休手当も受け取ったが、息子が小さいうちに職場復帰するとなると時短勤務にならざるを得ない。そうすれば給与は出産前より減ってしまううえ、月数万円の保育料がかかる。一方、保育園に落選したなどの理由があれば、育休手当の期間を1歳までから最長2歳までに延長できる。「職場が人手不足傾向のため、仕事と家庭を両立できるのか不安だったということも一因でした」。 

 

 女性は落選するため、毎月出る保育園ごとの募集人数をチェックし、見学した保育園では最近の入園数の状況や見学者の人数を聞いて高倍率か探った。翌年、見当を付けた1園だけに申し込み、落選。育休延長となった。 

 

 八千代市内で1歳の長男を育てる30代の会社員女性は、育休期限となる長男の1歳の誕生月の2月に、人気の2園のみを申し込んだ。年度内は育休を延長し、4月からの復職を希望していたからだ。「子どもと一日中過ごせるのは出産後の1~2年だけ。仕事が始まれば朝起きて1時間、保育園から帰って寝るまでの2時間程度しか子どもと過ごせず、家事に追われきちんとしたコミュニケーションの時間が取れない。遠方の両親に子どもを会わせる機会も少なくなる」と切実な思いを吐露する。 

 

 

育児休業の延長の仕組み 

 

 保育施設整備や既存施設の定員増などで待機児童が年々減少傾向にある一方、特定の園を希望しているなどで国の集計から除外される「隠れ待機児童」の数は依然高水準にある。千葉県内の待機児童は2023年4月1日時点で140人の一方、「隠れ待機児童」は3286人にも上り、前年と比べて471人増加。この中には延長目的の「落選狙い」も含まれている。 

 

 「落選狙い」は自治体にも負担をかける。入園が決定して辞退した場合、次の入園者を探す作業も発生する。本来入園したかった人が別の保育施設を選択せざるを得なくなるケースもある。 

 

 育休給付延長の審査厳格化は、こうした「落選狙い」に歯止めを掛けるのが狙い。ハローワークは今後、保護者の育休給付の延長を認定する際、保育園の落選を示す自治体の「入所保留通知書」に加えて、その保育園を選んだ理由や登園時間といった詳しい情報を記入した申告書などを提出させ、厳しく審査する方針だ。 

 

育休延長を望む声は少なくない(写真はイメージ) 

 

 ただ、育休延長を切に望む声は少なくない。市川市の女性も「3歳までは育休を続けるか選択できるようになってほしい。欲を言えば保育料は何歳でも無償にしてもらいたい」と要望。「保育料は減らず、復帰したら子の体調不良で急な休みも出る。制度が現状に合っておらず、子育ての負担が大きいと日々感じている」とため息をつく。 

 

 人材サービスの調査機関「しゅふJOB総研」が24年1月、女性約600人に調査した結果によると、「育休を取るとしたら、2年まで延長したいと思うか」との設問では62・3%が「思う」と回答。また、育休延長を目的に「落選狙い」が起きていることについて、「落選しなければ延長できないルールが問題」としたのが64・3%といずれも過半数。一方で「本当に保育所に入りたい人に迷惑をかけている」との声も37・5%あった。 

 

 自由記載では「大切な時期に仕事をしなければならないことが疑問」と制度自体のあり方を問題視する声もあれば、「自営業なので育休もなく保育園に2年連続で落ち、本当に大変だった。ただただ迷惑」「会社にも迷惑をかけ、ひきょうな考え」と手厳しい意見もあった。 

 

 一方で、八千代市の女性は「子どものことを思って親も悩みに悩んで保育園の申し込みをしている。(育休を延長するため)今の制度では、激戦の園を一つだけ書くという方法になってしまう。『落選狙い』『不正』などと悪いことをしているように言われるのはつらい。希望したタイミングで保育園に入れることが当たり前の社会にしてほしい」と話す。 

 

 

川上敬太郎さん 

 

 しゅふJOB総研研究顧問の川上敬太郎さんは調査結果について「落選狙いは個々の保護者のスタンスのぜひよりもルールの不備と認識する傾向がやや強まったようだ。意見を分断させてしまっているルールになっていることが1つの問題で、根本的なルールの修正が求められる」と指摘する。 

 

 一方で、ルールを問題視するだけでなく、「保育所や育休制度の整備だけにとどまらず、必要な時に休めて早く帰宅できたり、在宅が可能だったりするような個々の希望にできる限り寄り添える多様な働き方の選択肢など、仕事と育児を両立しやすくするための総合的な取り組みが必要」と強調。「育休期間は『ブランク』と捉えられがちだが、子育てや家庭の運営はビジネスに生かせる部分もあり一つの成長機会。育休取得は悪いことではなく、休まない前提で設計されているからこそ業務のしわ寄せが生じるので不満が出る。今は選択肢が少なすぎるので(落選狙いが問題視されるような)こうした機会にこそ働き方などを見直すべきだ」と呼び掛ける。 

 

※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です 

 

 

 
 

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