( 189161 )  2024/07/09 16:04:12  
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日本のスターバックスコーヒーは高価でありながらも、圧倒的な店舗数1位を誇る。

有名財界人もスタバの価格について言及し、おいしさやサービスに魅力を感じている。

日本と海外のスタバ店舗の違い、使える裏技、特別な用途、そして米国・中国での売上減の背景などについて考察がされている。

(要約)

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Photo:JIJI 

 

 日本のカフェチェーンで店舗数トップをひた走るスターバックスコーヒー。スタバといえば、ドリンクのサイズをS・M・Lではなく、「ショート」「トール」「グランデ」「ベンティ」というオシャレな名称にしていることでも知られる。スタバが長らく愛されてきた理由、そして米国での売上減の不穏な背景を探った。(イトモス研究所所長 小倉健一) 

 

【写真】呪文かよ!スタバで「トール・バニラクリームフラペチーノ・ブレベミルク・エクストラホイップ・ノンバニラシロップ・ウィズホワイトモカシロップ・チョコレートチップ・チョコレートソース」を注文した結果 

 

 ◇◇◇ 

 

● 有名財界人「値段高いなあ」でも「おいしいわな」 

 

 今回は、スターバックスコーヒーの話をしたい。 

 

 言わずと知れた世界的なチェーンで、日本でも1番の店舗数を誇っている。国内に1917店舗あり、2位ドトールの1065店舗、3位コメダ珈琲店の1004店舗を大きく引き離している。ドトールよりも高い値段のコーヒーを出しているにもかかわらず、圧倒的な店舗数だ。 

 

 高いのにシェアが1位ということもあり、有名財界人が例えに出すこともよくある。 

 

 《モーター大手のニデックの創業者、永守重信・グローバルグループ代表(79)は、24日に東京都内で開いた決算説明会で、京都市内の本社近くにスターバックスの店舗ができたことに触れ、「値段高いなあって、行って飲んだらおいしいわな。やっぱり」と語った》 

 

 《「(スタバは)おいしくてサービスが良いから客が集まるわけで、安いコーヒーだから人が集まっているわけじゃない。だからやっぱりそういう経営をしないといけないってことですよ」と安値競争を避け、付加価値のついたビジネスで勝負する戦略を強調した》 

 

 (朝日新聞デジタル、4月24日) 

 

 そして、私が行く店、行く店、どこも混んでいる。席を取ってからオーダーをしてくれ、ということなのだろうが、それをあきらめざるを得ないほど、お客が列をなしていることがしばしばある。 

 

 そんなスタバだが、人はどういうイメージを持っているのだろうか。個人的には特別な用途で使うことがある。 

 

 

● 日本のスタバと海外のスタバの違い 

 

 スタバの外装はガラス張りで外から中がよく見えるようになっているお店が多い。また、内装も他のコーヒーチェーン店と比べて、店内を遮るものがあまりない。ちょっと背の高い巨大なテーブルがあり、背の高いイスが並んでいたりするが、使う人はみな共用で使うことが多い。 

 

 また、最近数が減ってしまったものの、ソファーの座る位置が低いのも特徴だろう。これは私にとって何を意味しているのかというと、まずオープンすぎて個人的な作業、特にパソコン作業や読書がしにくい。雑談も隣の人に聞かれているような気がする。そして、お互いに着ている服が視認しやすいという点も挙げられる。 

 

 隣の人の目など気にならないタイプの人はどうでもいいだろうが、私のように周囲の目が気になってしょうがないタイプの人は、スタバで落ち着くのは不可能なのではないだろうか。 

 

 海外では、そうしたネガティブ要素もかえってポジティブな要素に変わることもある。 

 

 私の場合、海外では周囲の目が気にならないので、時間が空けばスタバに入り浸っていた。どうせ日本語で何をしていてもわかるわけがないとタカを括っていたというわけだ。 

 

 「トイレ行くから荷物見ていてくれない?」などと、隣の知らない人と話すきっかけが気軽にでき、トイレから帰ってくると話が始まるというようなことも頻繁にあるようだ。 

 

● スタバで使えるセコイ裏技 

 

 国内でのスタバ事情に話を戻そう。私には「特別な用途」があるといったが、それは人間観察のことである。特に、経済誌の編集者をしていた頃は、スタバで隣に座っている人の雑談に耳を傾け、どんな格好をしているのか観察していた。 

 

 オープンな空間ということもあり、ことファッションにおいては、その地域のオシャレ感覚のある人、自分に自信がある人が集いがちなのが「スタバ」だと思う。私はまったくそういう部類の人間ではないが、そういう人たちも経済誌の読者なのである。 

 

 まったくそういう部類でないという証拠に、私はスタバでアイスコーヒーを注文するときには「氷を少なめに」と頼む。こうすると、減らした氷の分、コーヒーの量が増えるというなんともセコイ裏技がスタバには存在するのだ。 

 

 いろいろ指摘をしてきたが、つまりは、ちょっと一息、おいしいコーヒー(ラテ)を飲むというのが、スタバの正しい利用方法だろう。込み入った話や人に聞かれたくない、見られたくない案件を処理する場では決してない。 

 

 友人とフラッと入り、待ち合わせまでの時間を潰す。 

 

 「スタバのドリンクのサイズは、ミディアムなのになぜトール(Tall=背が高い、量が多い)って意味なのか知ってる?」 

 

 「日本最大サイズのベンティの意味ってわかる?」 

 

 とか、そんな他愛もない雑談をするのに適した空間なのだ。 

 

 

● なんで「トール」「ベンティ」なの? 

 

 そう考えると、ちょっとオシャレな雰囲気で、素敵な内装で、軽い音楽が流れているというのは、理にかなったものだろう。 

 

 ちなみに「トール」「ベンティ」などのカップサイズ名は、スタバ前CEOのハワード・シュルツが、イタリアのバール(コーヒーショップ)をイメージして導入したとされている。 ベンティはイタリア語で数字の「20」を意味し、注文すると「20オンス=約590ml」のドリンクが出てくる。 

 

 トールに関しては、もともとは小さいサイズからのサイズアップを意味していたと思われる。 

 

 シュルツは1982年、役員としてスタバに入社する。1985年には一度スタバを離れ、「イル・ジョルナーレ社」を設立。1987年にスタバを買収している。 

 

 そのイル・ジョルナーレ社のメニューに「Tall drinks available for an additonal charge of 25¢」(トールサイズのドリンクが追加料金25セントで利用可能です)と書かれているのだ。 

 

 ややこしいことに、米国では日本での最小サイズにあたる「ショート」がメニューに載っていない店舗もあるようだ。この場合、一番小さいサイズがトールということになってしまう(「裏メニュー」扱いでショートを注文できるという情報もあるが)。 

 

 スタバの特別な感じを演出するには良いのかもしれないが、初めての利用者は混乱するだろう。 

 

● スタバが直面する米国・中国での危機 

 

 ともあれ、こうしてシュルツは、現在のスタバの原型をつくった。 

 

 《1987年、スターバックスは座席を増やし、エスプレッソ飲料を提供するヨーロッパのカフェモデルに拡大した。顧客は、たとえ会う人がいなくても、フレンドリーな顔で出迎えてもらい、一日の中でちょっと一息つくというシンプルな体験のために、店に長居するようになった。数年後の1989年、社会学者のレイ・オルデンバーグが「サード・プレイス」という言葉を生み出し、人々が集い、くつろぎ、語らうことのできる家庭や職場を超えた場所を表現した》 

 

 (スターバックスストーリーズ&ニュース、2022年9月13日) 

 

 スタバの店舗があまりに増えすぎた今では「サード・プレイス」とは、スタバよりも高級感のある豆を使った店舗のことを指すようになっているが、そもそものサード・プレイスはスタバだったわけだ。 

 

 そんなスタバだが、成長の立役者であるシュルツが去った後、米国における売り上げが落ち込みを続けている。 

 

 

● 「露骨なお得感」がもたらす負のメッセージ 

 

 《スターバックスが再び窮地に陥っている。前回の四半期決算報告で、既存店売上高が4%減少(第2の市場である中国では11%減少)するなど、期待はずれの結果を発表した。この発表後、株価は急落した》(ハーバードビジネスレビュー、6月26日) 

 

 同記事は、スタバが売り上げを上げるための割安のクーポン(ロイヤルティ・プログラム)を出していることを次のように批判している 

 

 《全体的な売上は増加しているにもかかわらず、購入履歴の追跡によって、顧客は飲んだり食べたり体験したりすることの価値よりも、買ったものの値段に注目するようになる。もっと買ってくれたら、何かタダであげるよ」という露骨なお得感には、「あなたは一杯一杯を買いすぎているから、たまにはタダであげる余裕があるんだよ」という暗黙のメッセージが含まれている》 

 

 たしかに、スタバがハイソなブランドイメージを自ら潰してしまうようなことになれば、既存のお客はまったく見向きもしなくなってしまうだろう。 

 

 日本のスタバの混雑を見る限り、すぐさまアメリカのように落ち込むことはないかもしれないが、スタバが厳しい局面を迎えつつあるのは少し気になるところだ。 

 

小倉健一 

 

 

 
 

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